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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
6.同行編:158-185話
173/323

173.魔力妨害



 実技を行う場所は、実験棟という前に魔力測定をした低い建物だ。

 危険作業を学内で行う場所であり、周囲へ被害を及ぼすような事故も建物内で押し留めるように設計されているらしい。

 座学が数日続いた昨日、実技の説明のついでにマギポコが語っていた。


 案内された部屋には、前回とも異なる装置が置かれている。

 中央で配線の繋がった二つは、建物の内装と同じく、日常で見かけない外見だ。机に置かれた片側は測定器のようで、針や液面を利用した計器が複数あり、自分が立つらしき側は腰に並ぶ高さを持ち、上部の飛び出た部品が目立っている。

 中央から離れた四隅にも、膝に届かない小さな柱が設置されているのも、変わっている。囲むような配置なので結界の魔道具かもしれない。


 入口付近で止まっていると、マギポコに呼ばれる。

 壁際の椅子は使われないようだ。

「前回から、体に異常は現れたのか?」

「問題ありません」

 魔力操作を誤れば怪我をする可能性もあって、測定のために並み以上の魔力を放出した前回から様子見として数日空けたらしい。

 変わった痛みも表れず、硬化魔法も問題無く扱えた。

「小さな事でも軽視できないからな。調べて安全だと知る方が楽だ」

 マギポコへ頷きを返す。


 目の保護として、透明な装備を共に付け、中央に向かう。

「改めて説明するが、魔力放出による魔法妨害を試す」

 計器が埋まった装置の前に来て、マギポコが装置へ触れる。

 切り替えを示す硬い音があれば、つまみを回す際には小さな音が細かく鳴る。おそらく、目を閉じても、音で調整部品の区別が付く。

 マギポコが動作のそれぞれで、何をしているのかまではわからない。

「魔法使いへ最善手は魔法を使う余裕を与えない事だが、まず難しい。弱い敵なら小石や砂でも撒けばいいわけだが、距離や道具で対処されれば無駄になる」

 この部屋に来ると立ちっぱなしになるのか、最後は膝を曲げながら操作を終える。

 机の高さが若干足りない。

「近接戦をしかける場合に有効な手段は、魔法が発動する前に魔力の供給を断つ事だ。攻撃魔法を自身の体内で発動させるような被害覚悟の攻撃ならともかく、大体の魔法は自身から距離を置いて発動させる」

 以前見た、魔法の演習でも、《火球》は手の正面で出現させていた。

 腕の中から出すような者はおらず、可能であっても危険なはず。

「妨害するのは本人が遠ざけた魔力だ。魔法を使うためには制御が欠かさず、遠ざけるほど操作は難しくなる。対してこちらは乱暴に魔力を投げつけるだけで済むというわけだ」

 魔力の細かい制御を行わないなら楽だ。

 ただ、相手が魔法を使う瞬間を知っておかなければ、有効にはならないだろう。

「魔力を放出する以上、魔力を消費する。発動地点を読み間違えて、損する可能性もある。それでも、状況次第では魔力量の優れる相手にも対抗できるはずだ」

 魔法が苦手でも魔力の放出さえ覚えれば、魔法使いへの対処が一部可能になる。欲しい手だ。

「体内で攻撃魔法を発動させるなんて、継戦能力を損なう作戦は、日頃扱えるものではなく、突発的に使えるものでもない。そういう相手には注意すべきという感じだろう」

 姿勢を治したマギポコが、こちらに向いて話してくる。

 体内から攻撃魔法を仕掛けてくる相手も、いるにはいるらしい。自傷を構わず攻撃してくるというのは、魔法に限った話でもない。

 自分が扱う硬化魔法も防御ではあるが、体内で魔法を使っている部類だ。魔力が満ちている体内なら相手からの妨害も少なく、魔力の操作も楽なのだろう。


 マギポコに並んで、もう一方の装置の前に来る。

「《灯火》の魔道具で、魔力を供給する装置を繋げている。とはいえ、計器の類がなければ、拳一つの大きさも要らない小さな部類だ」

 目の前の装置は腰の高さほど、肩を上げなくても上部に手が届く。

 上部の細工が無ければ椅子に使えそうな大きさがある。

「自分の魔力を一切使わない。魔力操作ができずとも外部装置に頼れば魔法が使える。一般の魔道具は所有者が魔力で操作するが、こっちは手で押すだけで済む」

 魔力で動く魔道具なら、他人の魔力にも反応するだろう。

 魔力の放出を工夫すれば十分な脅威になりそうだ。

「ただし、動作で感づかれるのは不利だ。周囲に知らせる必要が無いなら、魔力操作の方が不意を狙いやすい。知らせるだけなら別に合図を送ればいいから、そのあたりで手動切り替えが流行らなかったんだろう」


「指示を出すから、最初は触れないよう立っていてくれ」

「はい」

 返事を待ったマギポコが、計器の多い装置へ戻っていく。

「部屋の明かりを少し下げる、動くときは足共に注意しておけ」

 言われても、配線は遠ざけられており、つまづくような物は近くに見当たらない。


 マギポコが入口脇に行くと、部屋が一段暗くなる。

 部屋を見ていた事もあって距離感は残っているが、足元の配線は見えなくなった。

「正面の装置を動作させるぞ」

 もう一方の装置に残る光の下で、マギポコの表情が見えるようになる。


 装置上部の突起から、指一本分くらいの距離だろうか。

 現れた光は宙に浮いており、近くを弱く照らしている。

「安定性を含めた、最低出力だな」

 マギポコの声の他に、遠くの振動音が聞こえる。

 視界がせばめられて音に過敏になったらしい。


「アケハ。他の魔法に触れる事に危機感を持つ。その魔法の殺傷能力は最低だ。単純な魔力の出力も最低。他人が触れても問題無いが、一度待て」

 言われなければ、頃合いを見て触れていただろう。

「魔力の制御によって魔法は成る。既に成った魔法に触れようとしたら、いったいどうなる?」

 体内には魔力が溜まっている。

 触れようとすれば、他人が操作する魔力を妨害する事になるだろう。

「魔法が消える」

「基本はそれでいい。だが、今回は違う」

 今回は基本でないのか。マギポコが基本でない例を用意した理由が分からない。

「先ほど魔法の妨害は発動前に行うといったが、これも基本であって、実を言えば状況次第で使い分ける」

 目の前の光も、魔法としてすでに出来上がっている。一旦消すのかもしれないが、このまま妨害するのでは最初に言われた物と意味が変わってくる。

「殺傷性を持つ魔法を形にさせた後、崩す事で相手の自滅を狙うえるというわけだ。妨害する側として、危険を承知で狙う事もできる」

 制御の欠かせない魔法は誤れば自分に害が及ぶ。妨害への注意は必要らしい。

「そんな事を言われれば、誰も魔法を使わなくなる。少々の影響で魔法が不安定になるなら、魔石の粉でも投げればいいと考える。まあ、実在するのだが、そう事は単純じゃない」

 投げれば魔法を妨害する粉がある。

 魔物相手に通用するなら便利だが、探索者の噂でも聞いた事が無い。

「まずは妨害しようとせず、光の真下に手を入れてみるといい」

 指示通りに動く。

 手の上に光が残っている。

「経路に邪魔物を置く程度では魔力の制御は崩せないというわけだ。……次は指を広げて、光を通り抜けてみるか?」

 魔法は保たれる。

 光の塊は、指が通り抜けた後も形を残している。

「魔力にも復元性がある。正面に壁が作られたなら横道を通る。若干だが魔法の効率は落ちる。それでも魔法を消せたとは言えないだろう」

 魔力の供給を断つには、もっと工夫がいるらしい。


「例えば、感知系の魔法では魔力を針のような形状にして周囲へ伸ばすが、それによって攻撃できるわけではない。一部に妨害があったところで魔法の発動は行われるし、範囲にある人体に影響があるわけでもない」

 水のように指を通しても元の形に戻るのかもしれない。

 通り抜ける隙が無いように、すくい取ってみたらどうなる。 

「感知系の大半は、他魔力に対する貫通性はあっても、妨害するほどの密度が得られない。妨害に値しないから侵入を許されるとも言える。夜闇でも距離感が掴める。周囲の魔力濃度が分かる。有ると無いとで戦況は大きく変わるだろう」

 開けた指で上から潰そうとしても通り過ぎてしまう。

「感知系を防ごうとすると、繊細な操作が必要で、魔道具で補うのが難しいくらいだ。魔力の消耗を無視するなら、周囲の魔力濃度を極限まで上げるのが最適だろう。馬鹿正直に放出するだけでも多少の効果はある」


 今度は閉じた手を光へ持ち上げていくと、避けるように光が上へ動く。

 どこまでいくか気になり、わずかに横へずらしたり、さらに上へ持ち上げる。

「望ましいのは、周囲の魔力まで制御して他魔力を通さないようにする。いわば《領域》だな」

 動かせた限界は、おそらく指一本程度の距離だっただろう。

 肘を大きく動かす前に光は消えて、手の下で新たな光が生まれていた。



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