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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
6.同行編:158-185話
171/323

171.情報開示



 戻った教会で昼食を終えると、共同部屋に向かう。


 リーフの合図に返事が届き、中へ入るとアプリリスがいた。

 書類を扱う隣で従者のラクレが手伝い、反対側にもレウリファが座っている。日の前半は自室で過ごして、昼から共同部屋に移るそうだが、アプリリスがこちらの暇を心配しているのだろうか。

 対面に座ると、リーフが脇の配膳車から飲み物を持って隣に来た。

 自身も含めた二人分、きっかりお菓子の皿も置いている。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 食べ始めたリーフに、ラクレの視線が刺さる。

 普段通りといえる状況に動じず、アプリリスは手紙や書類の対応をしていた。


 学園から帰った後は暇が多い。

 体を鍛えるにも聖騎士の訓練を邪魔するわけにもいかず、訓練用の中庭は借りていない。暇つぶしといえば、獣魔と庭で運動したり、小部屋で済む運動をする程度だ。

 部外者に近い自覚もあり、教会施設を出歩かないようにしている。今後も時間は余るだろう。移動範囲は狭く、遠出にも案内が付けられるため、移動で迷わない事だけは良い。


 自分以外は忙しい日々を過ごしているようで、ラナンは聖者として終日鍛えているようだし、フィアリスにしても同じだろう。他部署への連絡を任されないレウリファも、合間の時間には掃除が待っている。

 昼まで学園に通っているだけの自分は、かなり暇が多い。


「魔法の具合はどうですか?」

 書く手を止めたアプリリスが、手前の物を脇に寄せる。

 筆記具を片づけ、手紙や書類を紐でいくつかにまとめる。

「座学に加えて、今後は実技も含めると聞いた」

「そうですか」

 マギポコとの手紙で、学習手順の相談が行われており、こちらの状況は大方把握されている。教会側にも魔法の教育環境はあるため、手順に問題があれば変更を指示するだろう。

 こちらを害する目的がなければの仮定だが、誤った教育を受けさせて魔法を暴発させるみたいな、時間と費用の無駄はしないだろう。

「学園の環境に問題はありませんか?」

「思いつかないな」

「小さな事でも相談は受けますよ」

「何かないか、探しておく」

 とりあえず、教会で学ぶよりは実力に見合っている。

 学園なら初歩的な事から学べる。読める資料も多く、長居するにも適しているだろう。


「ラクレ。この束と包みはフィアリスの部屋へ。他の書類は秘書課に渡してください」

 アプリリスは指示のついでに、アルベートという従者を呼ぶよう頼む。


 ラクレが部屋を出ると、アプリリスはレウリファに言って、お茶を準備させる。

「討伐組合の管理下にあるダンジョンが襲撃された事件について覚えていますか?」

「ああ」

 以前いた王都で起こった事件だ。襲撃犯は死んでいるものの、その後の誘拐事件もあって完全な解決はしていない。

 ダンジョン奥の施設で襲撃に対応した結果、新しいダンジョンコアが手に入ったわけだが自分が注目される原因にもなった。ニーシアを人質に脅迫されたため、その際に交渉材料となったダンジョンコアは相手の目的のひとつだったのだろう。

 教会が介入してきた事により襲撃の気配も失せ、国を移った事もあり情報も聞かなくなっていた。

「新しい情報が手に入ったのか?」

「はい。事件の全体像を知っておいてほしいので、聞いてください」

 アプリリスは隣のレウリファにも、顔を向ける。

 情報が今後も必要になるような言い方からすると、事件は解決していないのだろう。


 部屋の扉が叩かれ、男の従者が箱鞄を持って現れる。

「アルベート。地図をお願い」

 お茶が遠ざけられた後、机に紙面が広げられる。


 いびつながらも大きな円を描く太線があり、その外が圏外と書かれている。大きな円は複数の塊に分割されており、ルミネリア王国、ルイス法国と、国名がある事から、どうやら世界地図らしい。小さな塊を含めても、十を超える程度しかない。

 淡い色で色付けされた山や湖。国土に多く記された印を繋ぐ、枝分かれの線。散らばった都市に街道が通されているのが分かる。数日歩く距離も、この地図では手に納まる長さらしい。

 地形を教えてくれる資料でも、広いと言われる海はどの端にも見当たらない。情報が足りないのか、圏外行きの探索者が半月以上を費やして活動する場所のため、地図に納まらない場所かもしれない。


 事件を説明するのに広い地図を用意するという事は、事件の規模が相応なのだろう。

「中央が、今私たちのいる法国です。そしてここがアケハさんが事件に遭遇した国です」

 アプリリスが最後に示した近く。王国内のダンジョンが目立つが、山一つを超えるダンジョンは珍しくもないのか、王国に限った表記ではなかった。

「ダンジョンを壊される事件は、アケハさんが遭遇した以外でも発生しています。情報を集めているところですが、光神教の保護下では法国のみ被害を受けていない状態です」

 アルベートが情報の捕捉として、色石を国名の横に置く。

「国当たり四、五件。防いだ例を含めても大きく変わりません。討伐組合の管轄外は分かりませんが、現状はこの数です」

 事件の件数は国によって異なるが、広い規模で起きている事は確からしい。


 石の置かれていない国は、光神教の影響下ではないという事か。

 丁度、法国に隣接する国は、圏外と接しているものの半ば光神教の国に囲まれている。外側のへこみがある国境は圏外から圧されているように見える。

 地図だけを頼りにするなら、洗礼の有無が戦力へ影響した可能性も考えられる。

「保護下にない国にも討伐組合はあるのか?」

「いえ、正規の施設はありません。現地にも傭兵等を管理する独自の組織はあり、情報交換も行われています」

 探索者になる際に洗礼の有無を調べるような事があったため、討伐組合は光神教の保護下でしか活動していない可能性はある。

「期間中にダンジョンを壊した話も聞きましたが、制度的な違いもあって注目する事件との関係性をたどれず、事件数には加えていません。あくまで、討伐組合の被害だけで事件を判断しているのが現状ですね」

 相手が無差別に破壊しているとしても、犯行の規模から討伐組合と対立する状況は避けられない。対処が必要な事に変わりないため、的外れな考えではないだろう。

「ただ、例年と比べて、ダンジョンを壊した件数が突発的に増加したのは、私たちの保護下のみです。新しく発生したダンジョンへの対応を除けば、治外国は誤差の範囲に納まっています」

 アプリリスの話は分からない。

 なんとなく、地図で示された事件以外は考えなくてよいという事だろう。


 分かる内容といえば、短期間でダンジョンが複数壊されており、犯人に共通の目的があるのではないかと光神教は疑っている、という事だ。


 探索者を続けていれば、稼ぎは相当減っていただろう。

 ダンジョンコアは高く売れる。得られるなら探索者は誰だって欲しいと思うはずだ。襲撃犯が単なる探索者とは思えないが、そんな理由も考えられなくない。

「ダンジョンコアの魔石としての利用価値はどの程度なんだ?」

「あくまで目安ですが、一つあれば兵士の百は優に殺せます」

 アプリリスは戦いに利用される事を想定しているのか。

「魔道具なら再利用も可能だよな?」

「ええ」

「そんな物を敵へ流出させる時点で、組合や国はどうなっているんだ?」

 監視下に無い点では、自分の存在より危うい。

 法国にダンジョンを作ったところで歴史ある建物を数軒壊す程度、限りあるDPを使い切ったところで兵士に押し潰されるだけだが、行方の知れない高品質な魔道具たちは魔力の供給次第で兵士をいくらでも殺せるわけだ。

「……ラナンやフィアリスも、この事を知っているのか?」

「はい。先に知らせてあります」

 今度の質問には返事が来た。


「事件を複数確認した時点で、人員を増やすといった対策は行っています。新しく発生する確率は抑えましたが、影響がどれほどなのか推定も難しいです」

 他の魔石みたく一般に売買されるなら影響は少ないが、都市や兵士が攻撃されれば相当な被害が出るだろう。

 ダンジョンが壊された事で、周辺のダンジョンが異常を起こす例もあったらしい。犯人以外にも対処すべき問題はあるだろう。

「半端な情報で申し訳ないのですが、事件が終わっていない事を知ってもらいたくて、整理されないまま伝えてしまいました」

 肩を落とすような姿勢の変化が、若干見えた。

 表情の薄いアプリリスも、身振りの表現は人並みに納まるかもしれない。



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