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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
6.同行編:158-185話
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169.魔力量



 学園内で迷う心配はしていない。暇があると歩き回っていたため、知らない場所に進んだとしても、中庭に行けば建物の並びで予想がつけられるだろう。

 学園に到着して一人で部屋に向かうと、マギポコは別室に移動すると言った。


 渡り廊下を進み、一段低い建物に移る。

 ガラス窓が少なく、人工光で照らされた通路には、物が少ない。装飾の無い、床と壁を示すだけの平坦な塗装で、奥まで並ぶ引き戸が目立つ。

 部屋に入る直前、開かれていない扉の片側とその上にも書かれた通し番号を覚えた。


 これまで覗いた講義室とは違う空間がある。建物に来てから続いていた、特徴のまったく無い内装は、部屋の中でも変わらないようだ。

 中央に目立つ設置物は、外面こそ平坦なものの、街でも見かけないような。

 腰丈ほどの金属めいた箱二つが、管で繋がれている。片側には硝子が何個もはめ込まれており、もう一方は上部が斜めになっているという違いがある。

「用意に時間がかかったが、魔法を学ぶ前に試しておきたかった。これから魔力量を調べる」

 無理に魔力を動かす事が危険だとは知っていた。魔法を学ぶ際に誤って怪我をする事例は、マギポコからも教わった。

 制御を手放した場合、ほとんどは不発になるが、魔力が足りずに暴走を起こす事もある。使い方次第で人を殺す事もできる魔法が自分の身に降りかかるのだから、警戒すべき事だ。


 自身の魔力量を確認してから魔法を学ぶ、というのが普通なのだろう。

 魔力が尽きる感覚は覚えているが、魔法の使える回数までは知らない。魔法の規模や使用回数に関わる目安は確認しておきたい。


 マギポコが示したのは単調な形の方で、傾斜のある上部には手形が描かれた部分がある。

「魔法が使えるなら、魔力の出し方は覚えているな?」

「問題無く、できます」

 アンシーから渡された魔道具で魔力の放出は覚えている。以前から奴隷関係の魔道具は使っていた。

「指示した時に、ここへ手を置けばいい」

 こちらの頷きを確認したマギポコが、一方の箱に向かう。

「触れて、魔力を込め続けてくれ」

 装置に触れた手から魔力を送る。


 込める魔力は徐々に強めた後で一定に保つ。

 目の前の装置が魔道具であるなら、急激な魔力の流入も危険だ。急激に込めても壊れない機能があるかもしれないが、壊すのが目的でなければ狙う意味も無い。

 魔力量を調べる装置がこれほど大型であれば、安価な魔石が使われているとは思えない。アンシーから貰った魔石の内、一番良い物に合わせた魔力供給を行えば適切だろう。


「まだ、いけるか?」

「はい」

 マギポコは手元の装置を眺めている。

「良い濃度だ。並じゃない」

 他人と比較できるのは便利だ。

 強みになるなら戦い方も選べる。

「話を聞きながらでも、供給を保てるか?」

「できます」

「わかった」

 アンシーの魔道具も、暇な時間に運動しながら試していた。

 会話中でも続けていたため、今も問題ない。

「以前触れさせた板より、詳しく調べるための装置だ。魔力の適性、魔力の保有量。また別に魔力制御の検査もある。これら、調べた素質を元に魔法の講義を選ばせている。学園ではの話だがな」

 安全を考えるなら重要になる。探索者が個人的に頼む指導では、資金に学園ほど設備は整えられないだろう。

「アケハの適性は一切無いといっていい。体系化された魔法を扱うのは一切諦めるべきだな」

 学園で通常行われる講義を受けても無駄だという事は、以前に重ねて確実になった。

 それでも、適性が不要な魔法はある。

 マギポコが用意する環境は、今後現れる適性の無い者への備えになるかもしれない。


「適性の無い人は、過去にもいましたか?」

「適性の内どれかが欠けていたり、魔力が足りない例はある。単に操作できない場合や、本当に持たない場合、原因はいろいろ考えられる」

 聖者であるラナンも、得意、不得意はあると言っていた。

「だが、魔力量が優れていながら適性の無い者は、今のところアケハだけだろう」

「そうですか」

「ああ。魔力供給に困らないなら魔道具を持てばいいと言いたいところだが、多く扱おうと思うと荷物になる、これだけ魔力があるなら」


 マギポコはこちらに話しかける以外で、装置から目を離さない。

 装置から漏れる若干の音を覗けば、静かな室内だ。


「込める量を増やせるか?」

「まだいけます」

「いけるところまで、徐々に上げてくれ」

 送る量を今以上に強めた事は無い。不安定になるようなら、指示を待たずとも抑えるべきだろう。

「今くらいのを保てるか?」

 マギポコの指示を受けて、供給量を保つ。

「装置の許容量には十分納まっている、多少乱れても構わんよ」

 並じゃないとは聞いたが、検査装置の想定内のようだ。


 マギポコに抑えられた今、保つ以上を試せる気がしない。

 装置に問題が無くても、体に異常が出ないとは限らない。どこまでが危険であるか、魔力に対する知識や検査装置への理解が必要だろう。

 魔力の制御を失いたくないため、今の供給量に慣れておくのは悪くないはず。


「疲労感は無いか?」

「まだ、尽きる感覚はありません」

「そうか……」

 アンシーから最初に借りた魔道具以外では経験していない。

「魔力が尽きた状態になると危険ですか?」

「いや、元々人の身に無い物だ。魔力を持たない子供が皆危険という事にはなっていない。とはいえ、魔力を持った事で身体機能も向上する。以前と違う感覚に慣れた事で倦怠感や喪失感といった症状も現れるだろう」

 魔力を失えば死ぬという話ではなく、魔力が足りない時の感覚は当然のものか。

「急激なものでなければ問題ないはずだ」

 問題があるのは、魔法を使用するみたいに、魔力が動く事そのものらしい。

 アンシーの件は今のところ影響を感じない。おそらく大丈夫なのだろう。

「必要以上になるか。アケハ、少しずつ供給を下げてくれ」

 送る量を減らしていき、装置から手を話した後は、マギポコの反応を待つ。


「驚くべきか。おそらく魔力の量だけは困らないだろう」

 魔道具を揃えれば魔法を十分に使える、戦闘にも役立つらしい。

「戦略級魔法を単一で担うか……。教会があからさまに持つには不審だろうな」

 戦力を多く持つのが不審なら、聖者聖女はどうなる。

 今以上に増やす何らかの理由が教会にあるという事だろうか。

「いっそ、学園の魔力供給を頼みたいくらいだ」

 マギポコの呟きは続かなかった。

「元々優れた部類を集めている分、高給だぞ。数人分を任せれるなら人材としても良い。魔力供給の間、暇を潰すために会話をしたり、食事をしたり、自由の多い仕事だ。魔力屋が副業にする事もあって、働く日はかなり選べる」

 どうやら、学園の魔道具を補充する専門の仕事があるらしい。

「まあ、冗談だが、機会もあれば名前くらいは貸そう」

「その時はお願いします」

 聖者付きの従者を辞めて教会を離れる事態となると、悪い状況が思い浮かぶ。光神教と敵対している状況で、本場である聖都に留まるはずがない。


 用済みになって解放される事があれば、その時には立ち寄るかもしれない。少なくとも探索者よりは安全に稼げるだろう。

 教会は駄目で学園は良いという理由は分からない。


「使徒向けに大容量の物を借りたのは正解だったな」

 魔力量が使徒並みだとすれば、使徒がしたよな魔法主体の戦いが可能かもしれない。

「これだけ扱って異常が無いなら、制御にも問題なかろう。……次からは魔法の実技も加える。達成感も増すはずだ」

 学生と違う形だが、魔法を学ぶ事は可能なようだ。

「念のためだが、後の時間は自由に休んでおけ」

 マギポコは設備の後片付けもあり、自分は先に部屋を立ち去る。


 朝来て休憩もしていない。まだ、二度目の講義も終わらない時間だろう。

 迎えの馬車が来るのは昼のため、暇を潰すために図書館に向かう。



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