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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
6.同行編:158-185話
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167.ずる休み



 学園独自の鐘で昼になった事を知り、教会に帰る。

 リーフと共に遅れた昼食を済ませて共同部屋に戻るとアプリリスとレウリファが待っていた。


「学園、どうでしたか?」

「問題は起こしていないな。教授へ挨拶に行って、後は学園を見て回っていた」

 アプリリスの対面に座ると、視線が一度だけ隣へ向けられ、リーフが短く声を上げる。

「ラナンとフィアリスはどこへ行ったんだ?」

「二人は教育中です。専用の建物に行っています」

「アプリリスはいいのか?」

「気にせず。私は二人と事情も異なるので、一緒にいる必要はありません」

 

 レウリファが皆の飲み物を準備し終えると、アプリリスが話を再開する。

「手紙は受け取ってもらえましたか?」

「ああ。返事も受け取っている」

 鞄から取り出した手紙をアプリリスに渡す。

 学習に適した魔道具が無く、既製品を分解して利用するため別の専門家の手が借りたいという要望が書かれているはずだ。


 マギポコによると、自分は学生と同じ方法では魔法を学べない特殊な例らしい。魔道具に組み込まれた魔法を覚えるなら、魔道具を持ち運ぶ手間を省ける程度でしかない。

 教授を専属にして、魔道具まで買い揃える。自分には随分と金がかかるようだ。


 そんな事情も気にしていないのか、アプリリスからは不満の表情も見られず、読み終えた手紙が机に置かれる。

「また手紙を送りたいので、明日渡しますね」

「わかった」


 聖者付きの従者だとしても、破格の待遇である。学園には貴族の者が大勢通っている。集団で学ぶ状態が普通のはずだ。独自に教師を用意するというのは探索者の一部にも当てはまるが、従者になる以前に魔法などの技術を覚える事に変わりはない。

 教会関係者になった後で、個人単位で教授から教わる機会など、まず与えられない。


 聖女の独断で加えられた従者という立場であるため、一般に収まらない扱いは当然なのだろう。余計な金を払って素人を養う教会を疑ってしまうが、聖女の持ち金で済む程度の話かもしれない。

 いや、アプリリスの裁量で収まる事態だからこそ、破格の待遇なのだろう。

 教会が問題視している反発が来るはずだ。聖者用の施設に留まる時間が長く、情報が伏せられている可能性はあるが、現状、排除される状況に出会っていない。


「慣れない行動で疲れていませんか。今日は早めに休んでください」

「そうしよう」

「レウリファさんも、後は自由に過ごして構いません」

「わかりました」


 レウリファは机の片付けを済ませて、そばに寄ってきた。

「リーフ」

「ぐ……、はい」

 部屋を離れる直前、アプリリスに呼ばれたリーフが嫌気を含ませた声で了解していた。


 自室に入ると、表着を脱いでから寝台に座る。

 軽くなった体を動かして、半日の疲れを探していく。聖都の教会だからといって、これまで経由してきた都市の教会と大して変わらない。長距離を移動した疲れも無ければ、学園で多くの視線に晒された事にも疲れは無い。

 レウリファは脱いだ一枚を棚にしまうと、対面ではなく隣に座ってきた。


 空いた寝台が正面にある。

 整った状態は朝見た物とは異なり、掃除の手が入っているだろう。


 よくわからない状況に流されて、教会に養われるようになった。

 身の危険を感じない今、このまま指示に従うだけで、生きれるだろうか。


 獣魔の件でも世話役が付いている。

 雨衣狼も夜気鳥も、樽に詰めたままのアメーバも、今日は見ていない。


 室内は就寝後のように静かだ。

 市街で聞こえる会話は、人数が多い分、量が多く感じるのだろう。

 でも、学園で聞いた話し声は、自分よりずっと豊かだった。

 個性だろうか。壁に寄りかかる浮浪者のように無気力な状況でもないはず。

 自分の会話は人並みに収まっているか。問題が起きない範囲に収まっているか。

 わからない。

 獣人と人間、主従の関係だから、普段見かける人々とは違う。

 言い訳ならいくらでも考えられる。ただ、見かけた人々もいくらでも違いがあるだろう。


 レウリファが寄りかかってくる。

 探索者の活動で、汗の臭いには慣れている。

 レウリファの臭いは、思ったより少ない。

「市街に出ておらず、教会内は匂いが薄いので、混じり気は無いと思います」

「ちなみに俺の臭いは、どんな感じだ?」

「女の臭いがします」

 どうだろう。一番長くいたのはリーフになるだろう。

「リーフ以外か」

「はい」

 次にはマギポコであり、廊下で会った学生たちと言葉を交わしたのは短い間だけだ。


 レウリファの嗅覚なら、今日会った学生を探し出したりできるのだろうか。

「洗いに行った方がいいか?」

「このまま、近くにいてください」

 レウリファが倒れるくらい体を預けてくる。

 寄ってくる体を腕で抱えると、押し付けてくる力は失せた。こちらが立ち去るのを避けるためだったのかもしれない。


「今日は従者として、どんな仕事をしていたんだ?」

「付き従って、小さな頼まれ事をしたくらいです」

 膝に触れてくると同時に、レウリファの頭が寄る。

「荷物を運んだり、小物の掃除を行ったり、人払いで部屋の前に立ったり。不慣れな内は、先輩方を観察するのが仕事かもしれません。交代の間に休憩も多く与えられて、苦痛になる事もありませんでした」

 アプリリスに合わせて動くのだから、状況次第で忙しくなるのだろう。同じ従者であるラクレは、聖都までの馬車移動では忙しく動いていた。

「魔法を使う機会は無いよな?」

「ありませんでした」

 主戦力以外で、戦力を持つ事はあり得る。従者が戦えないとは限らない。

 教会に留まる間は聖騎士がいるとしても、遠出に連れていっていなかった。

 手軽な戦力として、従者に魔法を学ばせている可能性はあるだろう。


「アケハさんは、学園で楽しい事はありましたか?」

「魔法を学べるようになったのは良いな。教えてもらう教授はマギポコさんで、髭のしっかりした男の人だった」

 実年齢で比べると、アンシーの方が高齢になりそうだが、同じ程度かもしれない。

「魔法の適性がまったく駄目で、予定通り、個別で教わる形になりそうだ」

「適正が無い、というのは本当ですか?」

「ああ」

 既に魔法を一つ扱える以上、最初は調べた適性の方を疑ってしまう。

「魔法が使えないという話ではなく、適性の有無で学び方を変えるらしい」

「そうなのですね」

 学び方が違うといっても、適性の無い者の教育環境が学園に整っているわけではない。

 適性が無いなんて存在は、元々少数であるか特殊な例なのだろう。今回、光神教に頼まれて準備するだけで、機会がなければ対処もされない存在だったのかもしれない。


 マギポコの言葉を振り返ると、使徒を預かる光神教でも合わないという。

 洗礼を広めている以上、光神教でも魔法の教育手段は持っているだろう。聖者聖女、使徒や聖騎士といった者たちは、戦いに関わるため魔法の知識も欠かせない。

 適性の無い存在を以前から知っていた可能性も高い。中央教会でさえ、教育環境を用意できないというのは疑問に思う。


 公にできない存在というより、教会内でも一部にしか知らされていないのではないだろうか。

 聖者に付いている時点で完全に隠されているわけではないが、活動範囲が狭いながら、学園という施設外に通って魔法を学ばせる点は疑わしい。

 現状を疑うと、誘ってきたアプリリスも怪しさが増す。ダンジョン破壊の騒動に教会が関わってきた頃、こちらの存在を何らかの手段で知ったのだろうか。仮定であり確信できる事ではない。

 今は、自分を詳しく知るべきだろう。得た機会を無駄にしたくはない。


「他に学園で行った事といえば、建物をいくつか見て回ったり、休憩場所で休んだりしぐらいだな」

「気になる物はありましたか?」

「建物の上階に庭園がある事には驚いたな。庭園を作るなんて発想はしないだろう。建材ならともかく、植物を上に運ぶ経験なんて、大工でも多くないと思うな」

「庭師も毎日、階を往復していそうですね」

「だな。住み込みにしても水の管理は面倒そうだ」

「魔法や魔道具で補っているのでは?」

「だろうな」

 魔法が何でもできるというなら、水だって困らないだろう。



「夕食になるまで、ゆっくり休みませんか?」

「そうするか」

 靴を脱ぎ、寝転んで全身をほぐすと、向かい合うように来たレウリファも同じように動かす。


 首輪を確認して眠らない程度に休むと、明かりを足す時間に気付く。

 夕食後も自室で過ごして、就寝前に毛繕いをした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が感情の起伏に乏しく冷静なところと作りこまれた世界観 [気になる点] 全然ダンジョンで暮らしていないところがタイトル詐欺というかウーンな感じ [一言] ダンジョンを守る話だと思って…
2020/12/11 23:29 退会済み
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