表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
5.従属編:125-157話
144/323

144.従者の仕事



 停めた馬車に戻ってくると、自由行動になる。

 真昼も来ていない時間帯で、自分に出かける用事は無い。アプリリスは情報共有のために他の従者の元へ行った。小休憩の後には、ラナンとフィアリスも訓練をすると言って、馬車の外に出て行った。

 馬車の中に残っているのは、自分とレウリファだけだ。


 隣り合う肩が当たる。

「アケハ様」

「どうした?」

 レウリファが体を傾けてきた。手を重ねた次には指を絡め、手のひらを撫でてくる。

「晩さん会の料理も、きっと美味しいですよね」

「そうだろうな」

 旅中の食事を作っているのは、従者として同行する料理人だ。教会の厨房で働いている者で、晩さん会の準備も担当している。

 これまでに食べた、夕、朝の二食で、料理人への期待は高い。提供された料理に旅の気配が無い。食事風景も旅ではないのだ。

 自然の見える屋外ではなく、高品質に囲まれた馬車の中、聖者と食事を共にする。高級な飲食店の個室で食べるといった風だろう。この馬車旅は店を携帯しているのと変わらない。

 乱暴に扱えない食器に盛られた料理、明かりの保たれた空間で見える整った色合い。味も食感も、満足できるものだった。

「食べるだけなのが、他の人に申し訳ないな」

 晩さん会の準備は忙しくなるはず。提供する料理の種類が多いため、調理の方法も段階も増える。単に提供人数が増える場合とは異なり、まとめて調理する事も難しい。優れた料理道具と数人の補助があるとしても、苦労するのは間違いないだろう。

「私たちは同行する事が仕事ですから。問題を起こさなければ十分だと思います」

 同行者14人分の食事も、効率良く作られているはずだ。自分が手伝おうとしても、頼りにもなるどころか邪魔になる。

「作法を知らない内は、体調を気にするくらいだな」

「そうですね」

 アプリリスは別として、他の者とは関係が薄い。負担を増やさないよう気を付けた方が良い。問題を起こせば教会から離れる事もできそうだが、身の安全は保たれない。

 変な言動をするアプリリスが、こちらの問題行動を見つけて何をするか。見捨てるならいい。拘束して持ち運ぶなんて奇行をしてくるかもしれない。刑罰になる行動でも、公に裁かれるとは思えない。


 汚れて構わない服を着重ねしてから、馬車を出る。

 馬車から距離を置いた場所で、ラナンとフィアリスが剣を交わして訓練をしている。顔をそらして、離れた天幕に近づく。

 中に入ってすぐ、雨衣狼が寄ってくる。3体とも揃っており、夜気鳥も逃げていない。

 獣魔に寝床を離れる事を許していないため、村に留まる間は満足に運動させられない。空いた時間に村の外で走らせるなんて事も、外の目に勘違いされそうで難しいだろう。

 入口を解放して、外に連れ出す。

 自分の周囲で遊ばせると、夜気鳥を早々に下りる。村の空に魔物は見えない。村人も警戒しないため、獣魔を飛ばす事はできる。

 夜気鳥は人間に対して臆病な生物らしく、見つかっても害鳥の類として追い払われるくらいだろう。飛ばした事実を知られると問題であり、万一にも怪我を負わせたくない。

 レウリファに監視を任せて、自分が走る。雨衣狼は追い駆けるどころか、余裕で追い抜かして、周囲で回ってくる。怪我の治癒が進んでいるヴァイスも、人間並みに走る様子に違和感は見えなかった。探索者の活動も復帰できるかもしれない。

 運動後の清掃を早く終わる。寝床である天幕に汚れは少ない。使って一日で汚れる事は無く、わらの取り換えは少量で、地面の掃除も楽だった。

 食事を与えて、獣魔の体も普段通りに整えた後は、屋外と日向を自由に歩かせて、獣魔の様子見を終える。この場所は人も少なく干渉される事も少ない。街道を歩く時と違い、不満も溜め込む要因は少ないのだろう。


 汚れた手足を軽く洗い、着替えも済ませた。馬車中はレウリファ以外に人は無く、湿った肌を乾かすために外の風を浴びる。

 従者は働く様子しか見せない。馬車の中、あるいは人の視線から外れた場所でないと、休憩もできないのではないかと考えてしまう。

 目を離した先、剣を振るラナンの方に歩く。

 ラナンの方もこちらに気づいて訓練を止める。そばで立つフィアリスも訓練の様子を眺める事を辞めた。

「アケハさん、一緒に訓練してみませんか?」

 聖者らしい服を一枚脱いだ装いは、聖者聖女というより、訓練中の兵士に近いだろう。

 訓練用の剣を納めて、近寄ってくる。

「俺は弱いから、まともに戦えないぞ」

 教会の案内を受けていた時に、聖騎士の訓練風景を見て理解している。あの中に加わっていたラナンには勝てない。実戦ならという期待も無い。

 素人目でわかる差といえば、観戦経験だろう。集団で訓練をする人と比べれば、戦いを観察した経験は少ない。こちらといえば、日頃の訓練でニーシアとレウリファの動きを見たり、探索者として活動する間に他の訓練や実戦を覗いていたくらいなのだ。

「ダンジョンの襲撃者と戦って、勝ったと聞きましたよ」

「あれは施設職員がほとんど対処していたからな」

 襲撃の指導者らしき人物と相手をした事はある。剣を交えた事は真実でも、自分は時間稼ぎに遊ばれていただけ。傷を与える事はできず、最後も職員に対処してもらった。

「一般人より頑丈な事くらいが取り柄で。あとは獣魔に任せている」

「わかります。魔法ですよね」

 普段から硬化を試している事をラナンに知られている。魔法については教えていない。

「ああ、硬化らしい」

「僕より頑丈そうですもんね」

「わかるのか?」

「はい、何となくですが」

 相手の使う魔法を知っていれば、対処も容易になるだろう。

「待って、ラナンより頑丈って事?」

「だと思う」

 話に加わったフィアリスに、ラナンが答える。

 フィアリスが見比べた後に一歩近付いた。

「少し試していいですか?」

 頷いた後は指示に従う。ラナンと一緒に、袖をめくって腕を見せると、フィアリスが両方の腕をんだ。

 触れられている部分に魔力を押される感触がある。

 魔力を操作して魔法が使えるなら、操作されている魔力を意識して、魔法が使われているか確かめる事も可能なのだろう。

 自分が硬化を確かめる時は、動いた際の感触であったり、物を叩いたり、叩かれたりといったものだ。硬さを試すなら、分かり易い方法だと思っている。

 すると見るとでは差もあるため、フィアリスの真似をするには専用の訓練も必要だろう。

「表面しか確かめていないけど、ラナンより頑丈みたい?」

「そうだよね」

 聖者より頑丈というのは、誇れるものだろう。

 ただ、実際は刃物を通す際に力が少々要るだけ、傷を受ける数まで減らせるわけではない。裸の状態で平等に石を投げつけられる機会など、実戦で無い。

「確かめられる物なのか?」

「はい。僕は下手なので優劣を比べるくらいです。硬さを比べるなら、お互いに触れるだけでも分かりますから。フィアリスは魔力の扱いが上手くて、僕より詳しく評価できますよ」

 ラナン声にフィアリスの握力が増す。

「私より、リコ姉の方が優秀です」

「遊びのために呼ぶのは悪いよ」

 気付いたフィアリスが、腕を解放した。

「ラナンも意識すれば、もっと強化できるでしょ?」

「それは確かだけど、他に割く余裕が残したいから難しい」

 全身の時も、要所だけの時も、硬化の強度は変えていない。この辺りはアンシーから判断をもらった後に試すべきだろう。

「他の魔法も使えるのか?」

「はい、基礎系の魔法は全て。他にも必要な物は教わっています」

 基礎も何も、魔法について詳しく知らない。

「アケハさんも複数教わっているのですか?」

「いや、これ1つだけだ」

「探索者で魔法を覚えている方は貴重だと思います」

 優秀な探索者は、稼ぎが多い分、魔法を使える物も多いだろう。魔道具も高価だ。

「一緒に訓練というより、教えてくれないか?」

「わかりました。その、慣れていないので、下手だと先に謝っておきます」

 道具を身に着けて、ラナンの指導で訓練を受ける。レウリファとフィアリスが加わった対人訓練では、ラナンから剣の扱いを教わりながら体を動かし続けた。

 頃合いを見て馬車に戻る。

 待たずにお湯を扱える設備で、体を洗う時間も早く終わる。

 夕食までは馬車の中で待った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ