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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
5.従属編:125-157話
141/323

141.使徒の住む村



 村への到着を知って、外に出る。壁の中ではなく外、視界に広く自然が見える。

 滞りなく移動が進み、早めに到着した。閉門の時までは鐘一つ待つほど余裕あるだろう。日も傾いている途中で、暮れは見えない。

 脇の街道に人通りが残っている。他の都市へ向かう場合、徒歩では一度、野営を行う。この時間から出る事に抵抗は無いのだろう。村から出てくる人も少なくない。

 目的の村、石の防壁は長く続いている。距離を置いて取り囲む木々と同程度の高さで、人丈の五倍を超えない。都市の城壁と比べて低く、石を投げ入れる事も容易だろう。自然が近いため、空を飛ぶ魔物の侵入を防げない。寄ってくる数はが少ないのかもしれない。

 規模は村にしては広い。ダンジョンの賑わいが加わわる地上の探索者村でも、ここまでの広さは無い。王都に近いため、物流も多いのは分かる。ただ、この村は都市間の中継には使われない、脇道に存在している。人混みを避けるにしても、遠回りだ。


 アプリリスが従者2人を連れて、入口の門まで向かっていく。門番に到着を伝えに行ったのだろう。行商馬車とは一回り大きく、教会という見た目だけでも人を寄せ付けない。時間を置いて村に立ち入る事は教えられていた。

 都市と違い、立ち止まって検査が行われない門は構造が単純である。外から見える村の中は建物が並び、それだけでは村と都市に違いは無い。

 この村の特徴は、川から水を引っ張ってきている事だ。産業を支えるには、数ある井戸より都合良いらしい。川をさかのぼると王都に着く。水量は確かだろう。

 流れの先にある大きな湖では、魔物の危険があって、人は寄り付かない。


 雨衣狼たちを馬車から離す、近くに留まるよう言って自由にさせる。一日、馬車に従って疲れさせた。駆けまわれるのは村の外にいる間だけだろう。

 庭と違い人の視線も集まる街道では、馬車から遠ざけるにも限界がある。襲われていると勘違いされても困るため、構う事も抑えてしまう。

「アケハ様」

 レウリファには、背後の馬車と共に、背景から際立つ教会色があった。

 従者の服を着たレウリファは普段以上に首輪が目立つ。装飾という観点では、奴隷の首輪も、使役の指輪も、服装に合う貴重品だろう。装飾としては弱いが、庶民が付ける品ではない。衣服があれば従者と思われるため、獣魔の特徴を隠す必要は無い。

「レウリファ、何か用か」

 探索者臭さがあるのは、手袋をはめている自分の方だ。武器を掴める事と手の甲隠す以上を求めていない、衣服と合わない色合いで、俗らしく使い古した跡もある。

 どちらも衣服で騙せる程度の差だろう。

「食事の時間まで、どうしますか?」

「する事も無いから、馬車かその近くで待機するくらいだな」

 馬車の中で過ごす手もある。外で遊んでいても文句は言われない。

 聖者に終始つきまとうのは邪魔になるし、用事のある従者に悪い。すぐ連絡ができる距離を保って、待っているのが一番だろう。同行する事が仕事というのは、自由がありそうで無い。

 作業を妨げない事を優先して、獣使いとして、獣魔の管理をしておくのが唯一かもしれない。


 寄ってきたヴァイスに手を伸ばす。撫でている顎の下、肉の内に埋められた骨格をなぞる。

 丈夫な体だ。肉を噛みちぎる際に時間はかかっても、中の骨を折るだけなら一度の噛みで済む。罠で捕らえない限り、自分が勝つ事は無いだろう。

 腰掛けを持ってきてレウリファを座らせた後は、獣魔を指示する練習を繰り返した。


 夕食を終えて夕暮れになってから、馬車の先を歩いて村に入る。案内する門番が、時間に焦った旅人を割り込ませず、通り抜けた後の門が閉ざされた。

 日の落ちた後では、街道に野営の明かりが広がるとしても、暗所が多い。周辺を見通せない以上、魔物や野党の対処も遅れるだろう。警備の労力を減らすためにも、門を閉ざされる。

 門前から離れて、人が少ない場所まで馬車を移動する。

 停まった空き地は、数日滞在する場所だ。村の宿屋は旅人や行商向けの施設であり、自分たちは利用しない。

 従者は、馬用の寝床と組み立てると、獣魔の分まで用意してくれる。風雨を避ける屋根と壁が張られた中では、寒さを一段抑えられるだろう。馬小屋には見た目が劣るものの、わらまで敷かれて形は整っている。

 雨衣狼と夜気鳥を中に入れた後、自分は馬車に戻った。


 馬車の中は照明もあって明るい。目の前の布の間仕切りを押し入ると、すでに寝る場所が準備されていた。座席を変形させた2段の寝台は、それぞれ空間を仕切るように布が張られて、視線を気にせず眠れる。

 一段目に腰掛ける4人が、天井を気にして姿勢を少し傾けている。

 アプリリスが立ち上がる。

「アケハさん。本当に、よろしいのですか?」

「ああ、慣れない内は、この方が良い」

 寝台の間にある通路に、寝具が1つ置かれている。他と比べて簡易的なものだ。元々の質が良いおかげで、対して気にならない。今は折り畳まれた状態で収まりも良い。寝る際には広げるため、出入りの邪魔になる。少々の我慢はしてもらう。

 それぞれが更衣室で身を洗った後、寝台に入っていった。着心地の良い寝間着は教会側が用意した物だ。持ち込んだ衣服は予備に保管されている。

 物音は静まった。馬車の扉は施錠されて、外の心配はしていない。強襲の備えとして、武器もすぐ手に届く位置にある。

 布に包まれている見慣れた武器と剣帯は、聖者のものと比べても外装に差は少ない。装飾の少々が違うだけで、振る分には変わらないように思える。この空間には似合わない。

 長く眺めていた布の仕切りは揺れず、室内に動きは無い。

 緩やかな眠気に身を任せた。





 朝食を終えて村を歩く。聖者と聖女に付いている従者は自分とレウリファだけ。他の者は滞在の準備を任されていた。

 形だけの武装で、聖者は剣を帯びて、聖女は装飾華美な杖を抱える。

 舗装された道があっても、貴族の馬車は通らない。上質な着姿が行き交う事も無く、自分たちの服装は目立つ。

 自分が着ている聖騎士の訓練着は、鎧ほどではないが戦士の服装だろう。ただ、見合う強さは無い。護衛らしさを見せるために、人の視線を遠目にして街並みを眺める。

 昨日見て、村は大きい事は知っていた。門を通り抜けた際の明かりが多く、門の正面を突き進んでいた通りは、整った並びの光があった。夕暮れの赤さが、夜まで長く漂っていた光景は、街並みの外れにいた自分でも見えた。

 街並みを支える建物は、都市と比べて一回り小さい。挟まれた路地も、道一つ抜ければ、荷台も通れる幅になる。

 防壁は低く、遠くの屋根に空が届く。路地でも建物同士が光を譲り合っている。迷子になる心配は要らない。


 村の門から距離を置いた所は、周囲の建物が少ない。

 荷車も馬車も往来できる道は、端を歩く姿もまばらで、音も少ない。

 道の奥に見える地面の石組みと建物の無い空間は水路があるためだろう。

 長い直線に見どころは少ない。

 ただ、ひとつ。

 向かう先に、一際、高い建物がある。横に取り付いた塔があって、似た形は他に無い。人丈ほどの塀が囲み、面した道に一人が立っている。

 近付くにつれて見えた人間は、村人にしては服装も良い。


 門の前に待ち構えた、老いのある男がこちらに礼を見せる。

「聖者様、聖女様。お越しいただき、本当にありがたく存じます」

「急な変更で申し訳ありませんでした」

 アプリリスが応じた。

「いえ、光栄な事で、感謝に耐えません」

 男の二度目の礼は浅い。

「準備の前後で騒がしくするため、周囲に迷惑をかけます」

「お気になさらず。以前から報じて、人払いも済ませてありますよ」

 背を見せているアプリリスが礼をする。

「協力感謝します。また、後もお願いしますね」

「村の者として、責任を持って事に当たらせていただきます」

 ひと間置いて、アプリリスが建物を見上げる。

 男も同様に顔を向けた。

「晴れ続きに日取りができて幸いです」

「ええ。夜も明るい、よき日を選んでもらえた、と申しておりました」

 日も昇り、明るい中、建物の窓は閉ざされている。

「長く守護に就いてもらいましたから」

「私が子供の頃は、勝手に立ち入って、よく遊んでもらいました。あの頃は昼でも顔を見せてもらえたのですが、……今はもう、見れなくなって久しい」

「良い人ですね」

「はい。本当に……」

 二人が顔を戻す。

「これより先は、私たちにお任せください」

「よろしくお願いいたします」

 男は背を向けて立ち去っていく。



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