表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
5.従属編:125-157話
139/323

139.合流



 約束当日、早朝の鐘を聞いて自宅を出る。普段より早い時間でも、食事と支度を終えて、出発を待っていた。

 城壁沿いの幅広い道は、高台を下りた辺りで、通行人が途切れなくなる。

 住民にとって慣れた時間で、空の暗さは薄れる。移動時間が長く、自宅の利便性の悪さを実感する。壁外で活動して、時間に縛られない習慣に慣れていたため、レウリファに起こされて良かった。鐘の音で起きていたら、間に合わなかっただろう。

 馬車の少ない時間で、歩行者が道を柔軟に進む。連れ歩く獣魔を避けてくれる。歩道と馬車道の境界をまたぐ自分たちは、あからさまで頑固な歩みを見せておく。 


 王都の正門広場に着く。旅人、あるいは住民の往来は多い。壁外で夜を過ごした者が入り、仕事や旅に出る者が出ていく。小門から現れる馬車と台車が、時々、布を被せただけの山積みの荷を見せている。

 そんな通常の光景を脇目に通り抜ける。

 住民が利用する位置より、中央近くで待機する一行。鎧を着た聖騎士が周囲を確保しており、人の近寄らない空間の中、並ぶ3台の馬車は見覚えがある。

 二の鐘がなる前から到着していたらしい。教会の方が近いため、同時に出ても遅れるのは自分たちだ。


 聖騎士を警戒させない位置で立ち止まり、確認のための手紙を取り出す。手紙を持って近寄る前に、馬車の方から人が来る。

 一声、聖女の指示で騎士の並びを変える。開けられた空間を進み、背後の人壁が静かに閉ざされた。

「心待ちにしておりました」

「おはようごさいます。聖女様」

「慣れた言葉で構いませんよ」

 命令だろうか。

「待たせて悪い」

「予定通りに来てもらえて、嬉しいです。こちらへどうぞ」

 歩いていく聖女アプリリスの背に従う。


 馬車の前面に繋がれた馬は、使い捨てる事も可能なほど調教された物だ。御者の判断に従い、魔物に追われる状況でも乱れず走るらしい。耳まで覆う覆面は、野生でない事が明らかに示している。

 獣魔と魔物の区別を楽にするなら、獣魔の印だけでなく装いも整えた方がいい。住民としては安心できるだろう。戦いに加わる都合で、状況判断を妨げる装備を与えたくない。

 背後を歩く、雨衣狼たち。包帯を外したヴァイスは、傷跡周辺の肌を見せている。半月経った今は傷口も埋まり、悪化も見れない。経過観察も残り数日と決めている。その後も度々あるにしても、毛並みを奪う事は無い。夜中に着る衣を邪魔に感じているだろう。

 獣魔をレウリファに任せて、馬車に乗り込む。


 蹴っても壊せないほど丈夫な外装で、魔物に襲われた場合に長く閉じこもる事も可能だろう。扉を叩いてから開ける。

 聖者ラナンと聖女シルルーが片側の席に並んで座っていた。

「アケハさん」

「ラナン、様を付けた方がいいのか?」

 姿勢をこちらに傾けたラナンが笑う。

「無しで。僕には権力も、威光もありませんよ」

「わかった。ラナン、これからよろしく頼む」

「はい、アケハさん」

 口調を崩した状態で、様付けする違和感はあった。次に話した聖女シルルーも、様付けは不要と言われて、フィアリスと呼ぶ事になった。


 広くない空間に5人が入る事になる。

 互いが手の届く空間なら、武器を携帯するこちらを警戒してほしいところだ。不意を突かれた場合に少々の怪我では済まない。実力を見せる前に殺されるまである。

 同行者の素行を事前に調べるのは前提で、危険人物なら近づけないだろう。自分を同行させる事に決めたアプリリスは、何を考えているのか。

 自分は光神教に敵対するかもしれない存在だ。光神教に殺されるという場合は反抗する。逃げ場が無い時には反撃も行うだろう。

「アプリリスの独断だと聞いたが、本当にいいのか?」

「はい、同行者がいるのは、いつもの事です。軍人や探索者の方とも行動を共にしますよ」

 眠る場所で、他人と隔てるのが薄布一枚というのは安心できない。雑魚寝部屋として扱うには、馬車の質が高すぎる。

「そうなのか」

 望んだ状況でなくても、大して気にしないらしい。

「それに使徒の解放、……殺害は教会の職務で、自分にとっても助かる依頼ですから」

 使徒の殺害依頼を使徒本人が頼む。変な話だ。使徒が光神教に反抗しない。殺される事を受け入れたのだろうか。

 国中の都市に教会があるため、光神教から逃げ出す事は難しい。抵抗する事を警戒されてか、聖者という武力も向かってくる。生き残る事を諦めたのだろうか。


 話の後は、レウリファと共に荷物を馬車に預ける。個別の収納があるため、日用品の取り出しも楽だ。獣魔の荷を後続の馬車に積み込み、準備を終える。

 室内に留まっていると、合図の鈴が鳴って馬車が出発した。

 一般とは別の門を進んだらしく、荷物の検査も行われず、止まった様子も無かった。最初に方向転換を感じて以降は、移動の様子が分からない。馬車の通気口から、外の音がわずかに届く。


 ラナンとフィアリスの2人は、向かいの席に座っている。自分の隣にレウリファがいるのは構わない。

 アプリリスまで隣にいるのは、なぜだ。教会関係者という区別なら、座る場所は対面の席だろう。さらに寝台兼用の座席は一人が寝転ぶ広さがあるのだ。手が置けないほど距離を詰めないで欲しい。

 拒絶はできない。無理強いする相手でも、殺せる状況を見逃されている事は確かだ。王都の市街より安全なのだ。アプリリスのおかげで、聖者と同行できている。

 物語で描かれた本人でないとしても、ラナンは強い。魔物の大群と戦って生き残っている。

近くに実力者がいるだけでも、こちらを狙った騒ぎは減るだろう。

 光神教の関係者を表立って襲撃する事も難しい。見捨てられない限り、安全性は高い。


「良ければ服を変えませんか? 聖騎士の普段着なので身動きも楽ですよ」

 ラナンの提案を受け入れたい。着ている革の防具は重量がある。教会の者と合流した時点で不必要になった。一度、席を立ちたかった。

「助かる。どこにあるんだ?」

「更衣室の衣装棚に一着。予備も別の馬車に積んでありました」

「ありがとう」

 自然な感じを演じて立ち上がり、後方に移動する。扉を押し進んで、視線から逃れた。

 更衣室はせまい。向きを考えなければ、両腕を伸ばす事も難しい。鏡が設置された洗面台や衣装、物置の収納があって、家具は優れている。1つある扉は便所に繋がっている。

 衣装棚を開けて、ゆとりのある並びから、目的の服を見つけた。

 わずかに教会風のある服装で、前回教会で見た訓練着と似ている。上下とも揃って用意された衣服だ。着替えてみると、自分の普段着より着心地が良い。庶民の古着とでは比較にならない。

 丈夫そうな生地は厚めながら柔軟、肩の動きも妨げられない。一枚仕立てではなく、可動部を考えたような、修繕の跡とも異なる、縫い合わせで作られた衣服は当然に高価だ。

 教会のものでなければ、今後も着続けたい。残念ながら着る場面が制限される服装だ。

 脱いだ衣服は足元の棚に入れておく、武装だけ手元に残せば、恰好だけはつくだろう。


 自分が更衣室を出た時に、レウリファが席を立つ。

 近付いてくると、視線を合わせて真横を通り抜けた。更衣室に入ったのは、衣装棚にある服に着替えるためだろう。

 席に着く際にはアプリリスと間を空けた。着替えて現れたレウリファは、上下とも着ている。下半身も獣人用に調整されたものだったらしい。教会では獣人を見なかったため、専用に用意された可能性まである。

 多少、楽な姿勢で、馬車の移動を経験できた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ