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使者

作者: Nico
掲載日:2018/02/04


「どうだった、この星の様子は?」

小型の宇宙艇から母船に戻ってきた偵察隊員たちに艦長らしき人物が聞いた。

「はい、どうやらこの星のあるじは「木」と呼ばれているもののようです。「木」は、われわれのような言葉を話しませんが、その姿は実に威風堂々としたものです。背が高く、からだに纏っている緑色の衣服が風にそよぎ、さらさらと音を立てているのを聴いていると不思議に心が和んできます。おそらくこれが「木」の言葉であろうと思われます」

「なるほど。われわれが宇宙空間からみた緑の惑星、それがこの木の星だったわけだな」

「しかしこの星にはヒトと呼ばれる生物がおり、どうやらそれが主である木に対抗している様子です」

「というと?」

「ヒトは自分たちの領土を拡張するために木を次々に殺してゆきます。元来このヒトというのは非常に残忍な生き物で、同じヒト同士であっても、それぞれの色や、話す言葉など、少しの違いがあると憎み合って殺し合いを続けている連中です。わたしの考えでは、もともと高貴で争いを好まない木のものであったこの星に、どこか辺境の蛮星から移住してきた生物かと・・・」

「うむ。どうやら話を聞いていると、この星の本来のあるじである木を、野蛮な生き物たちから守らなければならないようだな」

「はい。しかしわれわれ平和を愛するノア星人は、高度な科学技術を持ちますが、この宇宙船にも一切の武器を備えておりません。この緑の星からヒトを滅ぼして木を守るという方法は使えません」

「もちろんだ。それに話を聞いているとヒトという生物は、のべつ互いに殺し合いをつづけているようだから、われわれが手を下さなくとも早晩消滅することだろう」


宇宙船の中ではどのように「木」を救出するかの話し合いがもたれた。

「この星のすべての木を救う方法がないものだろうか・・・」艦長がつぶやく。

偵察隊員のひとりが発言した。「この星には様々な場所に木たちの集落があり、それは「森」と呼ばれております。ヒトとは違い、同じ場所に多種多様な木たちが集まって共生し、そこには愛らしい小動物がいて、また美しい花を咲かす植物も多様に存在しています」

「その「森」をわがノア星に持ち帰るというのはどうだろう」


ある日の午後、巨大な宇宙船が地球に舞い降りた。ヒトたちは直ちに連合軍を作り宇宙船を遠巻きに包囲した。

やがてひとりの優雅な姿をした青い肌の異星人が地上に下りたち、取り巻く人間たちに目もくれず一本の大木の前に立ち、その前でうやうやしく膝を屈し頭を下げた。

大木は折からの夕日に照らされ、宇宙からの使者をやさしく歓迎するかのように風が枝を揺らした。その葉は黄金色に輝き、雄々しさを誇るように、長い影が地に伸びていた。

ノア星からの使者は思わずその物言わぬ雄姿を抱きしめた。


宇宙船から眩い光線が閃いた。ヒトたちはすわ攻撃かと身を伏せた。見ると地球上でいちばん美しい森が、丸ごと巨大なシャボン玉のようなものに包まれてふわふわと宙に浮きあがり、それはやがて巨大な宇宙船の内部に消えて行った。

やがて宇宙船は上昇し、静かにこの惑星の上に銀色の雨を降らせた。

春霞のような雨が、おだやかに地表を覆うと、地球上の森たちは、まるで虹色の羽根を持った蝶の群れのように、七色に輝く泡につつまれて、いっせいに大空に舞い上がって行った。


すべての「森」を回収すると、宇宙船は音もなく星空の彼方へ消え去った。

あとには武器を持ったまま呆然としているヒトと、全ての木の消えたあとの荒野だけが残されていた。




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