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子供のころに好きだったシュチュエーションが大人になったら気持ち悪かった

作者: 水谷 あき



 うわぁ、気持ち悪い。


 物語の中では成人していない幼気な女子生徒が大人の男性教師に惹かれる物語は珍しくない。

 教師や弁護士や医師や警官などお堅いかあこがれの高給取りの職業で、経験豊富で見目の良い20台の男性に未熟なはずなのに他の女性を押しのけて自らが若さを武器に見初められるという。

 それは女性の願望を満たすだろう。周囲への自己顕示に、称賛をあび、嫉妬を気持ちよく浴びる。

 ただ、それは若いうちには違和感はないだろうが、この年齢になるときついものがある。

 子供が思っているほど20台は大人ではないし、精神的にも個人差が大きい。人生経験の差を実感できるのはたいてい30台になってからだ。

 広大な敷地の中に林まである学園は箱庭だ。

 子供たちを支配する全能感はいつの時代も変わらない。

 怖いものなんてないという態度。

 容姿もよく、頭もいい、そして実家も裕福であれば選ばれた人間であると考えてもおかしくはない。

 ただ、そのアドバンテージが実家で両親であることに気づかなければそれ以上の伸びはないだろう。

 美貌も、経済的な余裕も両親のおかげだ。学力だって幼いころからの経済的な理由で優秀な教師を雇っていれば身につく。塾だってお金がなければ通うこともできないだろう。そして、優秀な教師と施設のそろっているこの学園にだって入ることはできなかっただろう。

 この学園での見目麗しいかつ、何かしらの他人を凌駕する能力を持った人気のある男子生徒がいる。

 その彼らに囲まれている女子生徒はかわいらしいという表現が一番合う。幼気という言葉を思い出すほど、無邪気で屈託なく、何も考えていないのかと思うほどだ。

 男が嫌がる嫉妬や執着は興味なさそうだ。

 それは、確実に養殖だろうと女性たちは気づいているのに、どうして彼らは気づかないのだろうか。自分たちが一度下した評価を覆すことは彼らにとっては容易ではないのだろう。

 学園の裏庭といわれる区画の教師の個室のある棟に面しているそこは、教師の傍などと嫌がる生徒が多い中、実はそんなに庭を見ている教師などいないという穴場だ。

 それを知っている派手な彼らは人目を避けるためにその場所を頻繁に利用していた。

 騒がしいその様子に完全に無視を決め込んでいる教師たち。

 かかわり合いたくないほどの実家の経済的背景がある。

 無視を決め込みたいうちの一人の三崎はため息をついて席を立つ。

 生徒たちだけならまだしも、その中に教師であり自分の同僚でもあるこの学園卒業の厄介な男が混じっていたからだ。

 校長から学年主任を突然押し付けられて同時に目付け役も頼まれたのだ。

 去年からややひいきにしている女子生徒がいるようだと。あまり表ざたになっていないが、醜聞に発展しないようにと言われている。

 これは職務を超えていると思う。

 そんな倫理観は実家の親にしてもらうものだろう。

 真実の愛、に目覚めたかもしれない面倒な恋愛脳を相手にするのは疲れるに決まっている。

 ただ、よくも子供を相手に欲情できるものだと思う。気持ち悪い。

 正直に言ってしまえば十代の子供はあまりに幼すぎて対象外だ。

 まあ、男と女では感じ方が違うのかもしれないが、どうして後ろ指さされる関係だと世間で言われているのかをじっくり検討してほしい。

 それか、本当に誰にも分らないようにしてほしい。

 仕方なく教師を迎えに行く。

 職員会議があると。

 教師になると会議がいくつもある。そうやって共通の時間を作り出さないと情報共有が遅れるのだ。

 自分が出席する必要のない会議だが、連行役はなぜか指名される。

 この学園の卒業生はそれだけで十分に実家の力と能力を上に見られているために、他校の卒業生より立場は上だ。たとえ自分と同期といえども、学園出身者様なのだ。

 同じように大学院を卒業して就職してきた私と同僚だが、珍しく同じ教科になったのだ。そうそうあるわけでもなく、他の数人の教師よりも一緒にまとめられることがおおい。そして、他校出身者の私には雑用係というものがついていた。

 優雅な彼らは華々しい担任教師はすぐにまかされるが、私はまだ副担任しかしたことがない。

 そして、複数の小規模のサークル活動の顧問を担当し、この4月に突然病気療養に入った学年主任の代理を任された。

 あなたは担任を持っていないから暇でしょうと。

 その時、血管は数本切れていると思う。

 穏やかで優雅な学園出身の教師は雑用などしたことがないのだ。

 こまごまと回される、役所からの調査票やら、アンケートやら、行事の細かな打ち合わせやら、教師の共有スペースの管理やらは誰がやっているのかと思う。

 その一端は病気療養に入った学年主任が担っていたのに、この少ない他校出身教師だけで回せるのは限りがある。

 確かに、事務員はいるが彼らは数字を送り金銭管理をしているだけでそこまでの下調べやらなんやらはこちらの担当になるのだ。大人しく前年のままの更新とならないおぼっちゃまたちのために、毎年計画の見直しを迫られているこっちの身になってほしい。というか、どうして、校内の林でもWI-HIを飛ばさないといけないのか教えてほしい。

 そんな愚痴を言える暇もなく、ここ最近、新たな雑用が追加された。

 同僚である科学教師の連行だ。

 若く見た目もいい、この学園出身で経済的な余裕もある独身の彼はお嬢様方に絶大な人気を誇っている。やはり同じ年よりも頼りがいがあるようで、頼もしく余裕のある笑みが安心させるらしい。

 確かにどこにいても人気になりそうだが、今までは連行という作業はなかった。

 ただ、この4月から入学してきた女子生徒が巻き起こした騒動の中心に近くいる。

 その少女は愛らしく天真爛漫で異様なほどにこの学園での地位の高い男子生徒を篭絡していった。いや、彼女から言わせるとお友達になった、らしい。

 恋愛は自由だがそれは本来全うすべきことをしてからの問題だ。

 金はないのに立派な理想を掲げて政治家になろうとしても、だれも話を聞いてくれはしないだろう。その日の生活も自分の金でしているのであれば。責任感や説得力は地道な信頼から成り立っているのだ。



 どこまでも手を抜かず美しい庭に集まる若い少年少女たち。

 そして、見守る教師。

 出張サービスでお茶会の準備が整っていて、あまつさえ教師の手にもカップがある。

 ため息をはいて彼らに近づく。

「先生」

 声をかけると花井が顔を上げる。華やかな顔立ちの男性だ。三崎より年下だが同期でもあり学園出身者でもあるためにいろいろとややこしい。

 彼にも一応教師としての自覚はあるらしい。

「そろそろお時間ですよ」

 楽しいひと時に無粋に入り込む危険因子とでもいいだけな視線が貫く。学園での人気者である生徒会役員たちだ。

 半端でなく目力の強い男子生徒たちだからいくら子供でも気分のいいものではない。

「ああ、わかった」

 そういいつつも席を立とうとしない。

 以前にこれで済ませて戻れば、会議に間に合っていないとなぜか三崎が怒られたのだ。理不尽すぎる。自分は彼の秘書ではないと、そして彼は社会人であると声高に叫びたくても社会人としてそれこそだめだろうと思った。

「なに?」

 動こうとしないので、怪訝そうにこちらをみる花井。確かにきれいな顔だが慣れてくるものだ。

「もう時間もありませんから一緒に行きませんか」

 いやそうに顔をしかめる。こちらとしても、この年で一緒に仲良く行動したいとは思わない。

「まだ、十分に時間はある」

 まだ、下っ端の教師が先に部屋に待機しておくのは常識だと思ったのだが違うのだろうか。それとも学園出身者はその家柄で序列があるのだろうか。

「そうですか、でしたら2度と遅れないようにお願いしますよ、花井先生。大人なんですから」

 嫌味だろうと思っても、これくらいは言いたくなる。

「その言い方はないだろう」

 どうしてここで口を挟むのか、本当に疑問だ。

 生徒会長をしている生徒が不快さを滲ませ苦言を呈する。

「一介の教師が今後の理事会入りをする花井先生に対して失礼だろう」

 さすがは選民意識の高い子供たちだ。三崎がしっかりと他校出身者だと把握している。

「そうですか。今後、気を付けましょう。では、花井先生くれぐれもご注意ください」

 子供の喧嘩には取り合わないのが一番だ。彼らの世界も視野も狭い。自分の納得できる理由が世界のすべてなのだから。

 それほど厳重に注意を促したにもかかわらず、会議に遅れてきた花井に教頭から呼び出しを受けて注意をされたのは三崎だった。

 本気でやめようかな。

 そんなことを思ったほどだ。

 とりあえず、3年は働いて退職金がでるようになってから就職活動をしようと思った。

 別に教師を続けたいわけでもないのだ。



「先生、そろそろ会議の時間ですよ」

 今日こそは何としてでも連れていく。

 本気で嫌だが、このままでは化学教師の評判にもかかわるのだ。

 彼の不始末はすべて三崎に回ってきていることを彼は本気で知らないのだろう。

「失礼な教師が」

 吐き捨てる副会長。

 なだめる花井がいいやつみたいで腹が立つ。

「先生、あの」

 しょんぼりした女子生徒が痛々しそうにうつむく。

「すまないな、会議があるんだ」

「そう、ですよね」

「仕事と愛梨とどっちが大事なんだよ」

 いやいやそこは、自分たちの出番だと喜べばいいのに。なおんでも相手の思うとおりにするのがいい男だと勘違いしているらしい会計の少年。遊び人として名前を馳せていたがめっきりこの少女にかかりきりで今までかまってもらっていた女子生徒たちからの反感が一気に向かっているのは当然だろう。

 ライバルでもあるが唯一の大人がいてほしいというところだろうか。まだ未熟な彼らでは少女のおびえる機嫌をとるのは難易度が高いのかもしれない。

「愛梨が動揺してるんです、会議なんて二の次でしょう」

 その言葉に押されて、申し訳なさそうに今度は三崎を見る。

「すまないが、遅れると」

「どのような理由で?」

「愛梨がいじめにあったんだよ。教師ならそれくらい察しろ」

 どこの情報通の暇な教師だ。つい数十分前くらいの出来事を把握している方がおかしいと思う。

「具体的にはどのようなことを?今から、カウンセラーを呼びますし、担当教師も呼びますよ」

 すぐに電話で呼び出す。

「余計なことをするなっ」

「自分たちの手に余るものは専門家に任せた方がいいでしょう」

 つながったと思ったら支給された携帯を会計に取り上げられ投げつけられた。一台8万円するスマートフォンだ。三崎なら奪うだけでこれほど使えないように木っ端みじんにはしないだろう。

「そんなに俺たちを愛梨から引き離したいのか」

「いいえ」

 冷静に答えている。

「狙いはどうせ、花井でしょう」

 副会長のいやらしい声。子供なのにいやな目をしていると思う。本当に周囲の大人がろくでもないのだろう。

「行き遅れの女が一転地位を上げるには花井のような男がちょうどいいのでしょうね。身の程も知らないくせに」

 最悪だ。

 気持ち悪くて仕方ない。

 なんなんだこの子供たちは。

 まるで、昼ドラのどろどろした不健全極まりない思考。

 それに、どこに三崎が花井を好きだという根拠があるのか教えてほしい。

 こんな子供に手玉に取られて、少女を愛でる犯罪予備軍に近づきたくもない。

 安い挑発に乗る必要はない。

「花井先生、カウンセラーか女性の教師を呼んでいただけませんか。彼女も同性同士の方が話しやすいこともあるでしょうし」

 身振りだけで、いやだと表現する彼女のその表現力はすごい。花井の服をつかんで見上げて首を振る。

「愛梨は先ほど女子生徒に囲まれていたのですよ」

「この世界の半分は女性ですよ」

 思わず言い返してしまった。彼女は女性の中での社会を渡ることができないのだろう。

 ずいぶんと生きにくい。

 それとも外の世界から囲ってしまえばいいのだろう。この中であればだれでも可能だろう。そんな女は愛人どまりだろうが。

 自分の家族にそんな女を迎えるなんて反対するだろう。

「三崎先生、申し訳ありません。ここは自分がいますので」

 教師は生徒のために仕事をするのは間違いではない。

「では、会議の欠席はご自分でなさってくださいね」

 腕を引いてでも連行しようとしていたのだが、もういいだろう。

 時間もわからないので、そろそろ引き上げ時だ。

 そして、花井はその会議をすべて欠席した。

 次の日から同僚にときおり無視されるといういじめがなぜか三崎に行われた。

 うっぷんのはけ口に選ばれるなんて初めてのことだ。

 戸惑うが辞め時だろう。

 雑用を他の他校出身の教師に丸投げすることになるが、簡単な説明はつけておこう。



 今日も彼らの世界は順調に回っている。

 ただ、私は早々に自分の倫理観の合った世界に戻ろう。




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― 新着の感想 ―
[一言] そこで退職しちゃうと 間違いなく 「あいつ先生に相手にされずに逃げたわ」 と上流社会に流れて 社会復帰不可になりそうすね。
[一言] …で? 独白だとしても、ちゃんと結末を書いてほしい。 続きが気になるというよりは、変な終わり方で凄い気持ち悪い 短編詐欺ですらない
[良い点] 無し [気になる点] キャラを使って愚痴をつらつらと書いた平坦なお話。
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