ウサギさんはオオカミさんから逃げたい
心の中でリアンくんはオオカミさんを「ミルキさん」と呼んでいます(๑゜ヮ゜๑)
「リアン。どうしてあなたはそんな普通の色で生まれたのかしら。私のように白ければ良かったものを。残念だわ」
真綿のようにふわふわさせた長い髪を、陶器みたいに滑らかな指にくるくると絡めながら、美しいその人は何てことないように、退屈に、とてもつまらなそうに零していた。
どうして?そんなこと聞かずとも分かっているだろうに、白々しいにもほどがある。
自分の失態をまるでさも当たり前のように俺が悪いように詰るこの人が、酷く歪に歪んで見えて…気持ちが悪かった。
それでもこの家ではあの人が正しい。白い者が是だった。だからここで歪だったのは、もしかしたら俺だったのかもしれない。
「お前は僕の影なんだ。多少素質があったとしても、そんな色では後継者にはなれないよ」
別になりたいなんて端から思ってない。
でも、父や母と同じ白亜の透き通るような白を持って生まれた兄が、ちょっとだけ羨ましかったから、家の中で唯一違う色を持つ自分の居場所を求めて、少しでも認めてもらおうと兄の手伝いをしてみた時もあった。
馬鹿だな。兄の言う通り、何をしても普通の兎人のような色を持ってこの家に生まれてしまった時点で、俺を見てくれるわけなんてなかったのに。期待なんてするから、傷つく。物心つく頃に、その事を兄に諭されてからは、家族の考えに抗おうなんて考えなくなっていた。
それなのに歳を重ねるのに比例して、あの瞼の裏に焼き付いた綺麗な白が胸を焦がし、憎くて堪らなくて…それと同じくらいあの色が、欲しくて堪らなかった。
***
「リアンくんが食べちゃいたいくらい大好きです。私と…つ、付き合って下さい!」
「リアンくん、手繋ごっ?」
「リアンくんリアンくん、ミルキって呼んで!」
「リアンくんリアンくんリアンくん、お弁当作ってきたの。一緒に食べよ!」
こんなに名前を呼んでくれた人は初めてだった。幼いころから兄弟のように育ったピーターでさえ、俺の名前をこれほど呼びはしない。
「どうしてもリアンくんに会いたくて…」
乾いてひび割れた大地が水を求めるように、ミルキさんの言葉が俺の中にじわじわと浸透していくのが分かって、正直マズイと焦った。
それに気付いてからは、できるだけ素気ないように振る舞った。
彼女のような色を持つ人は兄にこそ相応しいから、このまま俺のなんかの傍にいるような女じゃない。期待なんてしない。なのに…
「少しでいいの。リアンくんの傍にいたい」
「ほんと?やった!絶対、ぜったいよ!じゃあ、今日はリアンくんに作っていきたこのケーキを渡して退散するわ!」
俺だけを毎日まいにち真摯に慕ってくれる姿に、つい絆されそうになる。そんな気の緩みのせいで、この間は女性である彼女に盛大に齧られて、胸の奥にあった欲望さえ暴かれた。
「やめてってリアンくん。こんなに物欲しいそーな顔して何言っているの?」
「食べてって顔してるよ」
あんな風に貪られて、良い子でいろなんて、ミルキさんはとても傲慢で最低な女だ。
彼女が悪魔のような人だと分かっているのに、食い千切られた身体がじくじくと疼いて、気付けば彼女に撫でられ、食べられたいと身体が反応していた。
どうかしてる、最悪過ぎる。
こんな状態では、最早彼女と友達でいることすら難しい。
不幸中の幸いなのか、今は風邪をひいている。ミルキさんとの約束はピーターにでも頼んで断ってもらって、このまま距離をとるべきだ。もしくは、兄に俺の代わりに彼女の相手をしてもらえばいい。
野菜好きのミルキさんなら、いつまでもつれない態度の俺より、同じように野菜を育て尚且つ人当たりも容姿も良いジャスパーの方に惹かれるだろう。きっと俺のことなどすぐに飽きる。
完全に傷が開いてしまう前に、打てる手は打たなければならない。
name:リアンの母
look:綿色ふわふわヘアー/夜空色の瞳
age :♀?
class:兎人部族長の妻
skill:緑の手
personality
規律に厳しく、リアンを過ちの子だと疎んでいる