オオカミさんウサギさんをもぐもぐする
「ありがと、すっごくおいしっぃ…ぅむ!?」
珍しく笑顔でお礼を言ってくれているリアンくんの唇を…気付けば貪るように塞いでいたわ。だってリアンくんの唇に美味しそうな人参クリームが付いているのよ。食べるしか選択肢ないじゃない。
やばい、凄く美味しい……。
「なっ、なにして」
黒曜石みたいにキラキラしたいおめめをカッと見開いて暴れようとしたリアンくんの首の後ろを押さえ込み、もう一度彼の唇に吸い付く。身長差は、ちょっとしかないので結構ヨユーね。
それに、私はウサギさんじゃなくてウサギさんの皮を被ったオオカミさんだから、お兄ちゃんには敵わなくても可愛い草食動物のリアンくんの抵抗を封じるのに十分な力を持っていたわ。
くちゅっ、くちゅっと、わざと音が鳴るように舌を這わせれば、彼の耳が分かりやすいくらい真っ赤に染め上がる。か、かわいい…。
「っは。や、やめてくださぃ」
止めてとお願いされて獲物を逃がす私ではないよ。
「やめてってリアンくん。こんなに物欲しいそーな顔して何言っているの?」
「っ!そんな顔してなっ…」
噛み付こうとしたリアンくんの首筋にちゅっと吸い付く。
刺激的にはそんなに大きくないけど、彼を怯ませるには十分な攻撃だったみたいね。力が抜けた一瞬の間に、私を退けようとする悪い手を左手で掴みあげ、林檎のように赤く柔らかい耳へ、舌を根本から上へとゆっくり這わせてあげた。その度に温かくて逞しい男の子の身体が、腕の中でぴくぴくと震える。やっぱりウサギさんだから耳が弱いのかな?
そんな強い刺激に嫌々をするように身動きするリアンくん。でもその表情は、どうみても―――
「食べてって顔してるよ」
「…!」
耳元で囁けば、リアンくんは咆驚して固まってしまう。もちろん狼スイッチが入った意地悪ミルキさんが、それで手を休めることは勿論ない。
「せ、せん…ぱい…」
喘ぐみたいに小さな呟きを零す美味しそーな唇をはむはむしながら、空いている右手であっつあつの焼き林檎みたいになってる耳を優しく撫でなでする。
段々と押さえてるリアンくんの手から力が抜け、吐息が蕩けていくのが分かるの。熱い二酸化炭素を飲み込み、彼を捕食し続ける私と目が合えば、あんなに頑なだったリアンくんの綺麗な瞳が瞬く間に潤み出しちゃった。その瞳に浮かぶのは恥辱と憤怒以外にもうひとつ。
確かに欲の色がある。
気付いてないのかな~リアンくん。私が舌を引っ込めようとすると、無意識に追いかけようとしてるのよね。そうか、そうかそんなに気持ちいいのね。お姉さん、とってもやる気になってきちゃった!
窓外が真っ暗になる頃まで、私はリアンくんの唇をもぐもぐし続けた。
その頃にはリアンくんはもう抵抗しなくなっていて、時折身体を震わせながら涙を流していたわ……かわゆす。きゅん。
「も、くるしっ、うぐ…」
う~ん。リアンくんが可愛くてかわゆくて、ついついやり過ぎてしまったかも?
3人掛けソファーの上にグタッと横たわるリアンくん。涙目に濡れた唇は、今じゃ熟したトマトみたいに艶々に濡れて、とてもやらしい感じだし、汗で張り付いたシャツがリアンくんの綺麗な筋肉の線をばっちり見せてくれて、なんだかそわそわしてしまう……。
リアンくん美味しい。もっと愛でたいなぁ。
でも、流石にそろそろ拙いかもしれない。明らかに襲われました!みたいにぐにゃぐにゃになちゃったリアンくんを誰かに見られると、これからの私の立ち位置に問題が生じてしまうかも…。
うん、今日はこれくらいで逃がしてあげよう。少しずつ慣らして、食べ頃になったら美味しくいただくのもまた一興ってね。
あ、そうだ。今の内に…こそっとスカートのポケットからスマホを取り出して、手慣れた感じにパパパッと操作を完了させた。しめしめ。
「ありがとリアンくん。今日はとっとも楽しかったわ!私はこのまま帰るけど、リアンくんはちゃんとシャワー室で汗を流してからお家に戻るのよ。私の言うことを聞いて、ちゃんと良い子いれば、次のデートの時にたくさん食べてあげるからね」
目元を両手で覆うようにして荒い呼吸を落ち着かせようとしている、リアンくんの人参色のしっとりした頭をなでなでしながら言い聞かせれば、びくっと可愛い反応を示してくれた。これはリアンくんも意外とその気がありそう。先が楽しみ。
最後に心臓を大いに擽られた私はその唇にちゅっと軽いリップ音を残して、とてもご機嫌でスキップをしながら家路へと向かったのだった。
after event:シャワー室
「・・・・・・・・・・・・・・・さいあく」