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オオカミさん魔が差す

「お前はそれでも健全な高校男児か!」


あれから変わったことと言えば、私の前のめりアプローチを悉く躱し今やリアンくんの塩対応が以前よりもスムーズになっている、という点だけ……。


「くそー、まさかリアンくんが白菜巻野郎だったなんて…」


「何よ、白菜巻野郎って?」


昼休みのぽかぽか陽気にあてられ、ふぁ~と欠伸をして眠そうにしながらも、セレナは律儀に相槌を打った。


「ホウレンソウやニンジンを白菜で巻いて鍋で食べると美味しいあれのこと」


適当にそう説明すれば、彼女はボリューミーな睫毛をぱちぱちさせながらこてっと首を傾げていた。関係ないけど、その睫毛は落ちないの?


「つまり、リアンには野菜しかないと言いたいのね」


「そう、まるでこんにゃくを殴っているかのように手応えがないの!」


「どんな例えよ…でも、そうねぇ。胃袋から掴んじゃえば?あんた野菜料理得意なんだし」


頬杖をついて適当に返事をしてくれた彼女の夜空色の瞳と見つめあうこと30秒―――。


「……それだぁ!!」


掃除当番を近くにいた適当なシマウマくんに押し付け、私は家庭科室へと購買で掻き集めた材料片手に風の如くダッシュした。待っててねリアンくん!絶対その胃袋貫いてやるんだから!


***


私は只今、リアンくんのお家に突撃お宅訪問―!といった感じで訪れている。


彼の髪色のように染まった鮮やかな夕空を見上げ、この時間帯ならきっとリアンくん専用の家庭菜園コテージにいるだろうと思い、一切の迷いなくその扉を叩いた。もちろん「はい、どうぞ」という彼のちょっと高めの綺麗な返事が返ってくるのも想定済みよ。流石、セレナ様の情報だよ。


「先輩どうしたんですか?今日は特に約束してなかったはずですけど」


目前には、黒のシャツにグレーのパンツスタイルのリアンくん。本日も私の食指をきゅんきゅん盛大に刺激してくれる安定のウサギさんっぷり。


「うん。どうしてもリアンくんに会いたくて…」


コンタクトしてると涙うるうる攻撃が難しいわ。

あっ、ズレた。


「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、今はちょっと…」


「少しでいいの。リアンくんの傍にいたい」


困ったように眉を下げたリアンくん。態度の端々から、この訪問が迷惑なものであると言外に感じる。それでも、しおらしく下を向き目元へと手を当て同情を誘ってみたりした。リアンくんには泣いているように見えることだろう。本当は泣いてなんていないよ。コンタクトがズレそうで目下修正中なだけ。


「先輩…分かりました。次の日曜にどこかに遊びに行きましょう。だから、今日はもう遅いから家に戻ってください。送りますから」


でも、リアンくんはどうやら騙されてくれたみたい。まったく優しく兎ボーイね。結婚詐欺とかに引っかからないか心配よ。世の中には悪い女もいるんだから。


「ほんと?やった!絶対、ぜったいよ!じゃあ、今日はリアンくんに作ってきたこのケーキを渡して退散するわ!」


餌をぶらさげて追い払おうったってそうはいかない!こっちにも餌付けアイテムはあるんだから。もちろん貰える餌はありがたくいただいておくけどね。


「ケーキ?先輩が作ったの?」


「そう、にんじんのケーキだよ!」


にこっと機嫌よく突き出した箱を、リアンくんは不思議そうな顔をして無言で受け取った。そして何と驚くことに、好物の匂いに釣られたのか私の目の前でぱかっと箱を開け、片手にすっぽり収まるくらいのカップケーキをその場でペロリと平らげてしまったの。


「ん、美味しい…」


目を細めながら唇についたクリームを舐めとるリアンくんを見た瞬間、たぶん私は―――






魔が差したんだと思う。

item:にんじんのカップケーキ

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