9.「似合ってる、すごく綺麗」
花火大会当日。風邪もすっかり治り、元気になった。
病み上がりはジムや家での筋トレ、ウォーキングも控えた。
治ってからは、その分頑張って汗を流した。運動や筋トレもして、マッサージも。
女らしい体型になるべく、ヨガも始めてみた。
体のかたい私にとって、ヨガは最早ただの拷問。しかし、この苦行の先に光り輝く未来が待っていると信じて、続ける。
悟りがひらけそうとか思った。
何事も継続は力なり。ダイエットを始めて6ヵ月近く。
最初は1ヵ月で2キロとかどーんと減っていたのが、減らない時期に突入したり、逆に増えたりもしたけど、現時点でマイナス7キロ。
我ながら、こんなに頑張れるんだと感心した。勉強ですら、ここまで頑張ってやったことなどない。
お風呂上がりに鏡の前に立つと、自分から見ても顔やお腹など、スッキリしてきたのがわかる。まだまだ足は太めだけど。
体重が減っていくのは楽しいけど、体重に一喜一憂するのはよくないから、体型や顔とかで満足いくまで痩せたら、キープに切り替えようと考えてる。
ぽっこりお腹もだいぶへこんだ。浴衣が似合う体型に近付いたかな。
夕方につかっちゃんとかなりきーが家にきて、私はつかっちゃんに浴衣を着付けてもらうから、それまではどうやって時間をつぶそう。
何でも、かなりきーが見つけた花火大会の穴場スポットがあるらしいから、3人でそこに行って花火を見て、帰る予定になっている。
ちなみに、かなりきーは自分で着付けができて、更に髪のアレンジまでできる。
だから、着付けはつかっちゃん。髪はかなりきーにお任せ。
何だか私だけお任せで申し訳ないけど、2人とも好きでやるからいいと笑ってくれた。
時間つぶしに、ヨガをやる。
こんなポーズ、本当に人間ができるのか? これ中国雑技団じゃないよね? と思うようなポーズをテレビの中の女の人は平然と要求してくる。
汗だくになって、何とか終えた。
このままじゃ汗臭いので、シャワーを浴びる。花火大会から帰ってまたお風呂に入るのは流石に疲れるので、もう髪も洗っちゃおう。
ドライヤーで髪を乾かして、髪が伸びたことに気が付く。肩につくかつかないかぐらいだったのか、肩より下まで伸びた。
美容院行くか、このまま伸ばすか悩む。毎年、夏になると肩のあたりまでバッサリ切るんだけど。
今年は伸ばしてみようかな、とか考える。あー、でも暑いんだよねえ。だから毎年切っちゃうんだけど。今年こそ頑張ってみるか?
考えてみるけど、今現在ドライヤーで乾かしてるだけで暑いのに、これ以上長かったらどうなってしまうんだ。
とか思うと、伸ばすのをためらってしまう。
でも……髪が長いほうが、色々アレンジできそうだしなぁ。来年になったら、黒に染めないとね。一応、受験生になるわけだし。
色々してる間に、夕方になった。
つかっちゃんとかなりきーが、家にくる。女の子らしい華やかな浴衣姿のかなりきーと、男モノの浴衣を着たつかっちゃん。2人が並ぶと、美男美女で、目の保養。
お母さんは2人をベタ褒め。
「あらやだ! 香菜ちゃん、今年も浴衣姿が可愛らしいわね。司ちゃんは去年より背が伸びたんじゃない? 素敵ねぇ!」
「ありがとうございます、千代子さん」
「去年より5センチちょっと伸びました。千代子さんも相変わらず元気そうで何よりです」
「そうなのよー。この間帰ったらこの子が風邪引いて寝込んでて……ホント吃驚しちゃってーー」
「お母さん、時間ないから! リビングでやろうか」
まだ喋り足りなさそうなお母さんを玄関に残し、リビングでつかっちゃんに浴衣を着付けてもらった。帯を締められた時は、ちょっと苦しかった。
初めて着る自分の浴衣姿に、感動。
つかっちゃんに浴衣を着せてもらったあとは、かなりきーに髪を編み込みでお団子にしてもらう。家から持ってきたと言う色々な髪飾りを選んで、つけてもらった。
鏡で見ようとして、かなりきーに止められる。
「はーい、ここで大木は一旦退場ね。隣の部屋行ってて。みっちゃん、化粧してあげる。軽くだけど」
そんなわけで、化粧をしてもらうことに。
手慣れた様子で、私に指示を出す。大人しく指示に従って、数分後。
かなりきーの「できた!」と言う言葉に、つかっちゃんがリビングに入ってきて、かたまる。
私は、まだ鏡で見ていない。
つかっちゃんが、破顔して開口一番。
「みっちゃん、似合ってる、すごく綺麗」
「さ、うちが見つけたとこに案内するから、行こう」