6.「……友達、だからな」
シロからの告白から、一週間が経った。考えに考えた末、答えを出した。
メールで、シロを近くの喫茶店に呼ぶ。
私は、緊張でカラカラに乾いた喉を、水で潤しながらシロを待つ。メールを送ってから、10分ほどでシロがきた。私と対面する形で、腰かける。
「この間の告白の返事、なんだけど」
きて早々に持ち出すのはどうなんだろう、と思ったけど、ぐだぐだ話をしてから言うよりはいいだろう。真剣な面持ちで、シロは私の言葉を待つ。
頭を、ゆっくりと下げた。
「ごめんなさい。私、シロのこと……友達以外には、見れません。気持ちは嬉しいよ。でもね、私はずっと、友達だと思ってて、これからも、そうだと思ってた。考えたけど、私はシロを恋愛対象に見れない」
自分の声が、震えるのがわかる。よくわからないけど、泣きたくなった。きっと、泣きたいのはシロのほうなのに。
それでも、目は逸らさず、まっすぐシロの目を見る。逸らしたら、ダメだ。ちゃんと、シロを見ないと。
私の言葉に、シロは力なく笑った。
「そっかぁ……。だよなぁ、うん、わかってた。みーって、1回友達として見たら、男でも関係ないもんな。わかってた、だって、俺達幼馴染みだもんな」
何も言えない。言えるわけがない。
恋愛って、難しいだけじゃなくて、苦しくもあるんだ。初めて知った。
「すぐには無理だろうし、告白する前みたいなってのは、難しいかもだけど……友達、だからな。ま、気にすんなって。1人でお通夜みたいになってるぞ?」
友達。シロは……私の、振ったら幼馴染みの関係が崩れるかもと言う思いを、汲んでくれた。
そんな優しい言葉に、じわりと心が温かくなる。
一の字にかたく結んでいた口元が、少しだけ緩んで、ぎこちなく笑う。
「ありがとう」
シロが、にっと笑う。
「初恋がみーでよかった。真面目で、頑固だけど優しくて。真剣な気持ちには真剣に返してくれる。じゃ、お開きにしますか。会計は俺がしとくから、みー先に帰っていいよ」
「えっ、でもーー」
「いいからいいから、カッコつけさせて。あと、ダイエット頑張れよー。応援してる」
「……ありがとう、シロ」
私だけ席を立ち、頭を下げて喫茶店を出る。出てからしばらく歩いて、席にハンカチを忘れてきたことを思い出す。
しまった! あれ、誕生日プレゼントでもらったやつなのに……!
慌てて店に戻って、席を見て、動きが止まった。
シロが、泣いていた。
泣いているシロを見て、私は無言で踵を返し、店から出た。夏の日差しに焼かれながら、思い出す。
ーー恋愛って、難しいだけじゃなくて、苦しくもあるんだ。
苦しいのは、シロも一緒だった。
空を見上げると、雲一つない青空が、どこまでも広がっている。青空からも、シロの泣いた姿からも、逃げるように走り出した。
走って走って、ふらふらになって歩けなくなったところで、ようやく立ち止まる。
額から汗が一筋、頬を伝って流れる。
「みっちゃん!」
聞き覚えのある声に、振り返る。立っていたのは、つかっちゃん。
え? 何で……。つかっちゃんの家、反対方向なのに。近所には、わざわざ足を運ぶほどの店もない。
あるとしたら、常連客ばかりの、喫茶店ぐらい。特に有名な店と言うわけでもないし。ここら辺は、田舎なのだ。
見渡す限り、田んぼ、田んぼ、畑、畑。
そんな田舎に、つかっちゃんが何で……。いや、別につかっちゃんがとこに出掛けようとそれはつかっちゃんの勝手であって、私が口出す権利なんてないけど。
心配そうに、駆け寄ってくる。
「大丈夫!? 泣きそうな顔してる」
「つかっちゃん……。大丈夫、大丈夫だから」
「話だけでも聞くわよ?」
「いいの、平気」
何でだろう。つかっちゃんの顔が見れない。例の一件の時とは違う。恥ずかしいわけじゃない。
恥ずかしいわけじゃないのに、つかっちゃんが見れない。
何だろう、何で?
わからない、わからない。
「みっちゃん……」
「平気だから、今は放っておいて」
イヤイヤをするように、私はわけもなく首を横に振って、つかっちゃんから離れようとする。
強い力で、腕を掴まれる。