4.「この子、ダイエット始めたのよ」
今日は、夏の大イベントである、バーベキューにきていた。溢れんばかりの肉、肉、肉!
夏休みに入ったので、課題もしっかりしつつ、しっかり遊ぶ。これ大事。
去年までの私なら、肉にがっついていたことだろう。しかし、今年の私は去年の私とは違う。そう、ダイエット中だから!
とは言え、折角友達と毎年やっているお祭り行事だし、断るのも悪いので、きた。
この毎年バーベキューをするメンバーは、幼稚園の頃からの友達で、家が近所の所謂幼馴染みってやつ。
つかっちゃんと初めて会ったのが確か小学校5年か、6年の時だったので、今日はいない。
メンバーは私を合わせて6人。
かなりきーも、その中の1人である。
付き合いが長いので、それぞれ勝手に付けたあだ名で呼び合っている。
平凡な男を表したような吉田は「ヨッシー」、いつもふりふりのロリータ服? を着ている千恵は「ちぃちゃん」、部活の日焼けで、健康的に焼けた黒い肌の良介は「シロ」、反対に透き通るような白い肌の咲は「クロ」。
男2人からは、私は「みー」、ちぃちゃんは「ちぃ」と呼ばれている。
「久しぶり! ちぃちゃん、毎年思うけどこの暑い中そのフリルはすごいよねぇ」
「クロは体弱いから、あんま火のそば寄るなよー」
「めっずらしぃ~、みっちゃんが野菜食べるなんて」
「この子、ダイエット始めたのよ。応援したって」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、野菜や肉を焼いては食べる。
そう、クロの言う通り、私が野菜をこのバーベキュー会で食べるなんて、稀に見ることなのだ。それほど、今まで肉しか見ていなかった。
それが、野菜も食べてみると案外美味しい。とは言え、油断は大敵。ここでしめの焼きそばをもりもり食べたら、意味がない。
皆で楽しく食べながらも、ダイエット中と言う緊張感は忘れない。
ふと、ヨッシーとちぃちゃんが仲良さげに話しているのを見て、あの2人、もしかして……なんて、考えたりもする。
ヨッシーのほうは分かりやすくでれでれだし、ちぃちゃんも頬を染めて嬉しそう。
邪魔するのも悪いな、と思い2人のそばからこそこそと離れる。それを見ていたかなりきーに、呆れた口調で「他人のことには気が付くのに…」と言われた。
何のことだろう。
やっぱり、高校生だし、恋愛とかしたいよねー。その相手が幼馴染みで、ずーっと好きな相手だとしたら、嬉しいよなぁ。
少女漫画とかでありそうな展開だ。羨ましい。でも、私は幼馴染み連中の男共を恋愛対象として見たことがないし、見れる気もしない。
だって、ねぇ……。おねしょが地図みたいな形になって自慢されたこととか、小型犬に追い掛けられてぎゃん泣きしてたこととか、全部知ってるんだよ。
お互い、恥ずかしい過去は知り尽くしている。
余談だけど、何で肌の黒い良介が「シロ」で、肌の白い咲が「クロ」なのかと言えば、単純に子供の遊び心である。
言い出しっぺは、私。
「黒いからクロ、白いからシロじゃそのまんま過ぎてつまんないから、反対にしよ!」
言っておくが、その場に当人はいなかった。
なぜなら、勝手に決めて勝手に呼んでいるあだ名だから。
子供って、結構酷いよね、って成長してから思ったりする。でもまぁ、定着したってことはそれでいいんだろう。多分。
野菜と言えど、流石に食べ過ぎたので、皆が焼きそばを食べているのを遠目に、1人で川に足だけ入って遊ぶ。
私のもとに、シロが歩いてくる。
「なぁ、みー」
「どしたー? シロ」
「今さ、彼氏とかいる?」
「いないけど」
「じゃーさ、俺と付き合ってみない?」
…………はい?
一瞬、時が止まったかと思った。実際に止まっていたのは、私のほうだったんだけど。
止まっていたと言うか、固まった。突然の言葉に、脳が追い付いてこない、
告白、された? ドッキリ……じゃ、ないよね。いや、シロはそんなことする人じゃないし。それは、長年一緒にいたから、わかる。
「え、っと……」
「好き、なんだ。てか、ずっと好きだった。明るくて、皆に慕われて……。返事、今すぐじゃなくてもいいからさ。考えてくれよ」
「シーー」
「頼む、時間をくれ。俺って泣き虫だからさ、今すぐ振られたら泣く自信ある」
はは、と泣きそうな顔で乾いた笑いを浮かべるシロを見て、本気なんだと実感する。
シロは、それ以上は何も言わずに、片手を上げて皆の元に戻っていった。
川の流れる音が、やけに大きく聞こえた。