2.「友達まで馬鹿にしないで」
外へ出ると、夏の熱い日差しが降り注ぐ。じりじりと焼かれる感覚。焼きぶたになりそう、と考えた。
ちなみに、つかっちゃんは美味しいアイスクリームのお店があると言って、今並んでいる。
私はダイエット中だから、と断ったら、じゃあ半分こで、と勝手に決められてしまった。
半分なら、いいかな。いつもダイエットに付き合わせてたら申し訳ないし。そんなわけで、つかっちゃんを待っている。
ああ、でもぶたって意外と体脂肪低いんだっけ。確か、そんな風に聞いた覚えがある。
体脂肪が平均を振り切っている私が言ったら、ぶたに失礼だな。
アホなことを考えていたら、前から歩いてきた人にぶつかってしまう。見事に尻餅をついて、バッグの中身が散らばる。
「ご、ごめんなさい!」
謝りながら慌てて中身を拾い集めていると、ぶつかった男の人が、私とつかっちゃんが写ったプリクラを拾った。
それを、笑いながら隣にいた友達らしき男の人に見せる。
「見ろよ、この女デブのくせにイケメンの彼氏いんの」
「彼氏デブ専なんじゃね? ウケる」
街中で笑われ、人目が集まる。私のせいで、つかっちゃんまで馬鹿にされた、
その事実に、頭に血が上る。勢いよくプリクラを男の手から奪い返すと、ギッと睨み付ける。
「私のことは馬鹿にしてもいい。馬鹿にされるような体型してることは、自覚してるから。でも、友達まで馬鹿にしないで。次私の親友馬鹿にしたら、股間蹴り上げてやる!」
「お待たせ~、みっちゃん。みっちゃんがやるまでもなく、あたしが蹴り上げるからいいわよぉ」
サッカーボールでも蹴るように、勢いよく上げられたつかっちゃんの爪先は、男の股間寸前で止まった。
男達が、震えながらその場に座り込む。
つかっちゃんは「次はないわよ」と言って、アイスを持ってないもう片方の手で私の手を握り、その場から離れる。
聞いてたんだ、全部……。つかっちゃんが私の彼氏に見られてたこととかも、全部? つかっちゃんは友達なのに。
何か言うべき? でもなんて言うの。
悶々と悩んでいるうちに、噴水公園についていた。ペンチに座らされ、隣につかっちゃんも座る。
「あーあ、あんな消しカスみたいな男共のせいで、アイス溶けかかってる。早く食べちゃいましょ、みっちゃん」
「……何で、消しカス?」
自分でも、そこかよ! と思った。何で、消しカスと言う言葉に反応した、私?
つかっちゃんは、笑う。
「だってほら、塵は積もると山になるでしょ。アイツらそんなに大層なものじゃないから、消しカス」
「……ふふ、変なの。アイス、食べよっか」
2人で、美味しいねと騒ぎながら溶けかけのアイスを半分こして食べた。
消しカス、かぁ。新しい考え方だ。私も見習おう。あんな男でも、私のダイエットの原動力にはなる。今日馬鹿にされたから、アイスを食べたらもっと頑張ろう。
やっぱり、つかっちゃんは私の親友だ。
不意に、つかっちゃんの顔が近付いてきてーー唇の横を、舐められた。
「え!? つかっーー」
「もう、みっちゃんたら。アイス、口の回りについてる」
子供みたい、と笑うつかっちゃんはいつも通りで、この状況で照れるほうが恥ずかしそうなので、私は慌てて笑いながらティッシュで口の回りを拭う。
「吃驚したじゃん、もう。普通に教えてよ」
「舐めたほうが早いと思って」
いたずらっ子のように、ウインクをするつかっちゃん。
そのあとは、噴水の温い水に足先をつけて一頻りはしゃいで、お互いの家に帰った。
携帯を見てると、広告が目に入る。
「このサプリで1ヵ月で15キロ痩せました! 本当に感謝しています。社会人・Y さん」
サプリ、ねぇ。
こういうものを使うより、運動や食事制限など、瑞からの努力で痩せたほうがリバウンドしにくいと聞く。
私は、広告を閉じる。
明日も頑張ろう。……姿見の前に立って、気合いを入れる。
バッグからプリクラを取り出した時、昼間の出来事が蘇る。
唇の横、だった。
今さら、顔が熱くなってくる。
いやいや、でもつかっちゃんは友達だし、普通に友達の感覚でやったんだろう。……でも、女友達でも、唇の横を舐めるとか、する?
……あー、もう! 気にしない! つかっちゃんは友達、親友、以上! さぁ寝よう。腹の虫が鳴る前に寝てしまえ。