白球の行方 5/5
「上野原、もうだめだ。降りろ。」
「でも、先生、あと一回です。やれます。」
「そうはいってもぼこぼこじゃないか。上野原の問題じゃない。私らはどうしてもこれに勝ちたいんだ。勝つために降りてもらう。」
「……わかりました。でも、誰が次に投げるんですか?」
「シェアハウス同好会の3人だ。一人ずつ投げさせる。まずは染地だ。キャッチャーは滝坂にする。いいな。」
僕が投げるということは作戦は一つしかない。やはり布田の能力を使うのだろう。案の定先生は布田の下へ向かった。僕はマウンドの地ならしをする。
「よし、行くか!」
審判の宣告がかかった。体に衝撃が走る。ボールを持つ腕に自然と力が入る。そして大きく振りかぶって投げた。球は130キロはくだらないスピードでミットに収まる。ど真ん中。ストライクだ。打者はあまりの変貌にあっけを取られている。続く二球も同じ球で空振り三振に仕留めた。体に走っていた緊張が解けた。相変わらずひどい副作用だ。全身が筋肉痛のようにこわばる。滝坂先輩とポジションを交代した。二人目も三振だ。そのあとに布田も三振をさせた。
「よっしゃ!」
布田がマウンド上でガッツポーズをとる。それぞれのポジションから漱石チームメイトたちが駆け寄ってくる。
「やったね!」
「よくやった!」
「最高じゃんか!」
即席とはいえやはり勝利というのはうれしいものだ。僕もチームメイトたちと声を掛け合って祝った。しかし、やはり体への負担が大きい。布田もかなりしんどそうだ。
「布田、次の試合やれるか?」
「それは私にできないって言わせたいんですよね?自分だって休みたいのに。」
「そんなに皮肉らなくてもいいだろうよ。ああ、そうだ。こいつはちょっと体に優しくないな。」
「ノルマは達成したし、いいですよね。」
「だな。」
そこで、僕らは本部のほうに向かった。そしてぱぱっと辞退するのでチーム府中組に勝ち進んでほしいとの旨を伝えた。
そして僕らは帰途に就いた。
「先輩、そういえば白糸台ってどこかで聞いたことあるといえば数か月前に行方不明になって少しニュースになった人ですよね?」
「ああ、そうだな。別にいいだろ。死んでるわけじゃあるまいし。」
「ばれなきゃ事実じゃない、ですか?」
「そうだよ。みんなが知らない事実なんて知ってるやつの妄想さ。」
「そういうなら構いませんけど。でもああいう風に出られると目立ちますよ。」
「自己判断だろうよ。野球がやりたかったんだろ。」
「それならいいですけど。」
後日談的な話を加えておこうか。
ノルマは達成されたので僕らはもう何も活動しなくてよくなった。万々歳だ。働かないほどいいことはない。少なくとも野球はしたくない。生徒会は会長以外も野球の楽しさに目覚めてしまったらしく、小島姉妹はカープ女子なるものに目覚めたらしい。僕個人の超私情の混じった視点から言わせてもらうとそんなにわかは死んでしまえと思う。まあ、こういう人が経済を支えていることも確かなのだろう。だから表立っては言わない。ただそう思うだけだ。ちなみに先日の大会の優勝はチーム府中組だったそうだ。僕らはそんなところに勝ってしまったらしい。めんどくさいこともしたもんだ。ま、終わったことということで。
二日後、白糸台は死体で発見された。
やっぱり最後が短いなあ。
次は1話だけでのショートです。