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雲間の中に 中

 僕らの学校府庁扉学園は東京の真ん中にある。真ん中といっても新宿とか池袋とかにあるわけではない。地理的に言って、ということだ。そこは普通の学校で賢い子もいればヤンキーもいる普通の私立高校だ。自称進学校でありながら、大した実績は出していない。


そんな学校にも一つ普通でないことがあった。その学校には数人の超能力者が存在していた。その、超能力者といういささか時代遅れにも聞こえる者たちはそれぞれが特殊な能力を宿しており、表向きにはそこはシェアハウス同好会という名前になっている。名前なら僕だって不満だ。でもそれくらい酔狂じゃないと能力者じゃないものが近寄ってこない保証がないから仕方ない。今の説明からわかるように僕もその同好会の一員だ。で、ネーミングからわかるようにシェアハウスに住んでるものは全員がそうだ。


超能力といっても大した力じゃない。念動力なんて使えないし、ビルを倒せるなんてこともできない。とりあえず、この同好会の目的は能力を有することをひた隠しにすることだ。なんでかって、それは危険な目にあうことを阻止するためだ。フィクションの話だとこういうのには必ず政府が絡んできて能力者には最悪の待遇がされるんだろうが、僕らの場合だと逆だ。政府の高官は幸か不幸かとてつもなく臆病で今更世界を取ろうなんて気概はない。でも、僕らの存在が明るみに出れば世界中が大変なことになるのは目に見えている。だから、政府の目の行き届くところでおとなしくしていてくれ、というわけだ。


だから、この同好会の顧問は当然政府の人間でそいつが捕まったってことは何かがあるっていうわけで。僕らはせっかくの夏休みながら学校へ出向くことにした。


 「暑いです。とても暑いです。あ、そうだ先輩アイス食べましょう。ほら!そこにコンビニ!」

「ダメだってば。急がないといけないことわかってるでしょう。つーかアイスなんてそんな毎日食べてたら太るよ?昨日冷蔵庫に入ってたの全部食べたのお前だろ?」

「太るよ?とか言われてへー!そうなんだ!気を付けますね!とかいう奴いませんよ。そんなのはわかってるんです。悪いのは暑さなんです。要するにアイスを食べるんです。」

「まったく筋が通ってねえよ。急げってば。」

「競馬の馬だってたたかれすぎたら走りませんよ。私だってせかされたら行く気失せますって。」

「わがままだなあ。せっかく急いだらアイス買ってあげようと思ってたのに。」

「うわー。卑怯ですね。そんなのに今時引っかかるバカがいますか。そんなのに引っかかるのは欲望がぶれてるやつですよ。今食べたいって言ってるじゃないですか。今じゃなきゃ意味がないんです。」

「むちゃくちゃだな。無視しよう。」


僕はすたすた歩き始めた。後ろで文句を言い続ける布田も渋々ついてきている。僕は一つ懸念事項を見つけていまだに文句を言ってる布田に話しかけた。


「顧問がいないのに誰に話しゃいいんだ?」

「そりゃ、副顧問でしょう。」

「でも、あのひと面倒じゃん。」

「え、だから先輩よんでるんじゃないですか。」

「はあ?いやだよあんな奴相手にするの。」

「まあまあ。そんなこと言わずにあ、もう着きますよ?」


確かに坂から見下ろす形で学園が見えてきた。相変わらずなんとなく学校らしくない現代風のビルのようだ。隣のマンションのほうがなんとなく学校っぽいかもしれない。校門をくぐり階段を上って職員室まで向かう。


「すいませーん。柴崎先生。来てください。」


布田が元気よく声を張り上げると嬉しそうに駆け寄ってくる若い女性が奥から見えてくる。


「はいはーい。来ると思ってちゃんと準備してたよ。はい。」

「なんですか。これは?」

「ふふーん。夏休みの宿題です。忘れてったでしょ。」


斜め上の返答が来た。しかも名前のところには僕でない名前が書かれている。


「いや、僕のじゃないじゃないですか。」

「うん?あれ?ほんとだ。まあいいじゃん。やっとけ少年。多いに越したことはない。」

「めちゃくちゃいわないでください。先生だって今日なんで来たか知っているでしょ。」

「そりゃ、もちろん。今日私の誕生日だもんね。で、プレゼントは?」


また斜め上だった。布田を振り向くと目をそらされる。前に向きなおると先生が目を輝かせている。


「あ、えっと。そうなんですか。それはおめでたいですね。いくつになられたんですか?」

「いくつかはどうでもいいでしょ。まだ花の二十代よ。で、プレゼントは?」

「いや、その手違いで今は持ってないんですよ。」

「ふーん。そうなんだ。じゃあなんできたの。」


とたんに不機嫌になって職員室の中へと戻っていく。僕らは先生についていく形で中に入った。


「あ、ちなみに誕生日ってのは嘘だよ?」

「は?」

「からかっただけ。」

「でも今不機嫌になったじゃないですか。」

「そりゃ、面白いリアクションくれないんだもん。」


僕らはため息をついた。布田が思い出したように新聞紙を先生に見せる。


「これなんですけど。」

「ああ。捕まっちゃったね。神代ちゃん。で?どうかしたの?」

「いやいや。知っての通り顧問は政府の先生じゃないじゃないですか。」


布田が食いつくように主張する。


「まあ、犯罪は犯罪でしょ。」

「でも、顧問はそんなことするような人じゃないし、ましてや捕まるなんてへますると思います?というかそれ以前に政府が黙ってないでしょう。」

「さあねえ。何があったのかはわからないけど。とりあえず今確かなのは神代ちゃんは捕まってるってことよ。」

「そんな簡単に言わないで下さいよ。私たちはどうなるんですか。」

「どうって?」

「同好会のみんなですよ。」

「まともに活動してないじゃないの。部員3人だし。」

「3人でも!」

「そのうち一人ほとんど見ないし。今はどこ行ってるの?」

「さあ?自分探しの旅じゃないですか?ありがちな。」

「あきれるわね。とりあえずらちが明かないからそっちのソファに座ってくれない。今お茶淹れるわ。」


先生はそう言って席を立った。僕らはおとなしくソファに行く。数分経つといい匂いとともにお茶が出てきた。


「これは、いいですねえ。カモミールですか?」

「当たりだよ。博識だね。染地くんは。」


ちなみに染地とは僕の名字である。下の名前は一だ。普通にそのまま数字のように読む。


「いやいや。結構特徴的じゃないですかこの匂いは。」

「まあね。布田ちゃんはわかった?」

「もちろん。」

「へえ。布田案外鼻いいんだな。」

「もちろんわかりませんでした。」

「紛らわしいわ。」


とんと音を立ってカップを先生が置く。


「さて、本題に入るわ。」


僕らもカップを一度おいて先生の顔を見た。


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