彼女はスマート、彼はスウィート
Author:大和麻也
巷ではスマートフォンとやらが流行しはじめている。
聞いた話では携帯電話の機能を持ち、そのサイズになったパソコンなのだという。そのため従来の携帯電話よりもずっと多様な機能があるようで、メールや通話のほかに、インターネットへの接続を利用してチャットやゲームを興じることができる。
そして、ぼくがいまいる駅でも、そこらじゅうでスマートフォンのタッチパネルをつんつん、つんつんとやっている。時間はもう夕方、土曜日にもあくせく働いたお父さま方が家で待つ妻や子供たちに連絡を入れているのかもしれない。高校生の制服も見られ、こちらはチャットを使って別れたばかりの友人と名残を惜しんでいるのだろうか。
どちらにしても、スマートフォンは誰かと繫がるためにはいいものなのだ。
折りたたんで使うごく普通の携帯電話を持つぼくとしては、すでにいま持っているもので要は足りている。一方で高校生の正直な心理としては、そうしたもので絶えず誰かと連絡を取り合っていたい気持ちもある。どうにも複雑だ。
そこで、隣で一緒に待つ女の子の意見も訊いてみる。
「ねえ、才華」
「なあに、弥?」
ぼくの目とほぼ同じ高さにある退屈そうな目が、アイボリーのアイビーキャップの奥からぼくを振り返った。もう五分は電車を待っているから、ちょっとは会話がないと正直面白くない。
「スマートフォンって、興味ある?」
「ない」
「……即答だね」
「だって、高いじゃない」
才華は良く言えば倹約家、悪く言えばケチな女の子だ。高価への不満に留まらず、次世代のハイテク機器をさらに畳み掛けて批判する。
「それに、まだまだ商品として未熟じゃない。ニュースでたまに、やれ煙が出ただの、やれ充電器がショートしただのって。まったく、もっと生産量が増えて市場からも認められないとね」
「……はあ、そうなんだ」
「そう言う弥は?」
才華がぼくの顔を覗き込む。
「ううん……正直、興味がないと言ったら噓になるかな」
「へえ、そうなんだ」
「誰かと繫がっていたいのは、ちょっと解るんだ。やっぱり高いから無理だとは思うんだけれど、ネットが使えるのは魅力なんだ。ネットが見られるなら……」
「見られるなら?」
「タイガーズの試合結果が見られるやないか! 土曜日のきょうはデーゲームやったのに一日見るのを我慢せなあかんかったから、正直めっちゃ気になるねん! もうとっくに試合は終わっとるんやから、早う見たいわ」
「……ああ、はいはい」
途端に才華は呆れて、電光掲示板を見ようとそっぽを向いて背伸びした。
きょうは校外学習で、各クラスが思い思いに企画して都心を散策していた。才華とはクラスが違うけれど、乗換駅で会って合流したのだ。そして、いまホームで電車を待っていた所なのだが、それにしても――
「電車、来ないね」
「……うん」
電車を待ち続けて久しいのだ。
電光掲示板と時計を見るに、本来の電車が出ていくであろう時刻から、そろそろ五分は経とうとしている。ダイヤに正確な運行が自慢の鉄道においては、少々開きが大きいのではないか。帰宅の時間だから本数は多いはずだし、妙な遅さだ。
「何かあったんやろか?」
ぽつり、とそう言ったのがあかんかった。
「何か、あったんだろうね。ううん……気になる」
退屈そうな顔をしていた才華の目が、ぼくの些細な一言をきっかけに輝きだしたのだ。才華と言えば少々人情に欠ける女の子ではあるけれど、一方でその好奇心と向学心ときたら感服するものがある。ほんの少しの疑問も、洗いざらい調べつくして結論を探し出そうとする。つい先日にも、ふたりで「数学がさっぱりわからない」という他愛無い話をしていたら突然、「偶数」の「偶」という漢字の意味が気になって仕方なくなったらしく、漢字辞典や百科事典を読み耽っていた。
そう、暇を持て余した才華に対して、「何があったんだろう」などと疑問のタネを提示してはいけないのだ。その疑問は言わば起爆スイッチ、才華の好奇心が爆発する。
「そのうち情報が入って来るよ。待っていればいい。ほんの些細なことかもしれないじゃないか」
少し窘める。こんなところで好奇心を爆発させたとして、誰か他の人の神経を逆なでするような発言をしてしまってはいけない。でも、止まるはずもない。
「だって、気になるんだもん――間違いなく何かあったはず。駅員さんの無線も騒がしいから、そろそろ構内放送があっていいころ」
才華がそわそわしていると、ちょうど頭上でざざざ、とスピーカーから雑音が響く。ほらきた、と言わんばかりに才華はにやりと笑い、駅員の声に耳を傾けた。
『大変ご迷惑をおかけしております、ただいま下り線、隣の――駅で非常停止ボタンが押されました関係で安全確認を行っているところです。まだ電車停車しているとの情報が入っております。申し訳ございません、安全が確認されましたらすぐに電車運転再開いたします、いましばらくお待ちください。電車遅れております。繰り返します、――』
才華は同じ旨が繰り返し放送されるのもしっかりと聴き、それが終わるとぼくと目を合わせた。才華の表情には、確信と疑問が同時に現れているように思え、ぼくは早速尋ねてみた。
「いまの放送だけで、何かわかった?」
「ううん」才華は唸るが、それでも不安げなふうはない。「わからないことはまだ多いけれど、ある程度見当のつくことはあったよ」
「たとえば?」
「ひとつは、駅員が焦っていることからして、対応に時間のかかる事態があったってこと。荷物が挟まって発車したくらいなら、非常停止ボタンを押されてもすぐ安全確認できるはずだからね」
なるほど、確かに言う通りだ。そもそも非常停止ボタンが押されたという時点で、荷物が挟まる程度の小さな事態とは考えにくい。時間帯からして、入りきらない乗客を押し込めるよう、ホームには多くの駅員が配備されていたはずであることも考慮に入れるとなおさらである。
話を続ける。
「まだほかにも、わかったことがあるの?」
「ある。もうひとつだけ。いま言ったことも併せて、平常通りの運行に戻るまでかなり時間がかかりそうだということね」
周囲の視線が集まってきた。今後の運行に関して、誰もが気が気ではない。
「根拠はあるの?」
「非常停止ボタンはホームにあるものでしょ? ホームから見た車両に異常があったとすれば、荷物なり体なりが挟まる程度だろうから、事態は軽い。けれども、いまはそうでもなさそう。つまり、車内で何か異常があったらしく、車内からの訴えに気がついたホームの人がボタンを押した、そういうことになると思わない?」
「ははあ、もっともだよ」
「車内での異常なると、対処には時間もかかると思うんだ」
そう言って、才華はううん、と唸りながら背伸びをして腕を上に伸ばした。一週間学校に通った土曜日に丸一日外で活動して疲れたのだろう、正直ぼくだって一刻も早く安らぐ家に帰りたいところだ。
「もう少し、続報を待とうか。家まではまだ遠いし、再開してから帰ったほうが結果的に早く帰れるかもしれない」
才華の提案に、ぼくは頷いた。
ホームには、人々の囁きや独り言の集まったぼそぼそという音が響いているのみ。普段の発着を知らせる構内放送は、遅延が発生してしまった以上情報の錯綜を招かないようにスイッチを切られてしまっているようだ。そんな空間は静かで、弱弱しくて、孤独を感じさせて、不安にさせる。
周囲を見渡せば、静かであることにはほかの理由もあることに気がつく。人々が俯いて、携帯電話の小さな液晶を注視しているからだ。中には電話をかけている人もいるけれど、やはりメールを送る人が多数で、そんな人たちは一心不乱に黙りこくって文面を打ち込み続ける。
それぞれの家族への愛を遠隔地へ届けようとすれば、その発信元は冷え切る。遠くの誰かと繫がることは、すぐ近くの誰かを見放すことと紙一重なのかもしれない。
にわかに、頭上のスピーカーが再び騒ぎはじめる。先刻とは違った駅員の声で、やや落ち着いている。
『場内のお客様に連絡いたします。先ほど隣の――駅で非常停止ボタンが押され停止しておりました電車ですが、現在、体調不良を訴えたお客様がいるとのことで、救護活動が行われております。まもなく救護が終了するとの情報が入っております。救護が終了しましたら、安全を確認し、順次運転を再開してまいります。ご帰宅をお急ぎのお客様、迷惑をおかけしております、申し訳ございません。いましばらく再開をお待ちください。ええ、先ほど隣の――』
才華は今度も、二回の放送をすべて真剣に聴いていた。
「どう? また何かわかる?」
「それほど具体的にはわからないけれど……駅員が嘘を言っているのは間違いないと思うんだ」
「噓? いま、噓、って言ったかい?」
「そう、噓」
周囲のお父さま方もそわそわしはじめた。才華の語り口はその意外性のある内容のせいもあってか、少しばかり、良くも悪くも人の気持ちを煽るきらいがある。
「だって、おかしいじゃない。いま、隣の駅では救護が行われているわけでしょ? それは事実だと思うけれど、それだと前回の放送と噛み合わないところがある」
「というと?」
「さっきは言っていたよ、『現在安全確認を行っております』って」
「……もう少しはっきりお願い」
「普通、非常停止ボタンが押されたなら何をする?」
「原因を調べて、安全かどうかをチェックするよね」
「原因がわかったら、解決するよね?」
「そうだね」
「それって、『安全確認』とは違うはずじゃない?」
「つまり……前の放送では『原因を調査している』と言うべきだ、ってこと?」
才華は頷いた。
「そういうこと。『安全確認』は非常停止の原因を見つけて解決してからすることだから、次の放送の『救護中』という情報と矛盾する。要するに、原因なんてまだわかっていないのをあやふやにしようとしているんだよ」
「……言い間違いじゃないかな?」
「それは、わたしもまだ考えているところ。とにかく待とう」
才華は少々、話し疲れたように俯いた。それを見て、ぼくは大人しく黙る。
ホームにはいよいよ人がごった返してきて、遅延の最初のほうから待機しているぼくたちの気分は滅入る一方だ。
ぼくも才華が話してくれなければ退屈だから、自分の携帯電話を取り出す。スマートフォンではないそれを開き、液晶に待ち受け画面を点灯させ、電話番号のリストを開く。そして、数時間前に別れたクラスメイトに通話をしてみた。
数コール後、その友人が電話に出た。
『どうした、久米』
「やあ、平馬かい? いまぼくたち、悪いことに遅延にはまってしもた」
『はあ、そりゃ運が悪い』
「平馬は遅延に巻き込まれなかったのかい?」
『ああ、平気だったぞ』
いまぼくたちのいる駅でぼくと才華が合流する少し前まで、ぼくは平馬と一緒にいた。その平馬は、才華を待つぼくを置いてさっさと電車に乗ってしまったので、ぼくたちよりも二、三本ほど早い電車に乗ったはずだ。
そのため、平馬はぼくたちと同じ方向に向かう電車に乗ったけれど、遅延にはぶつからなかった。
「じゃあ、何があって電車が遅延しているのかも知らないか」
『知らないな……でも、いま駅で運休って話している人もいたぞ』
「運休だって?」
声が少し大きくなってしまったので、囁くように続ける。
「……それって、本当にこの路線のことを言っていたの?」
『たぶん。現段階で、上下線とも動いていないことはわかっている』
「そうか、そういえば上り線も一向に電車が来そうにない」
ホームの放送が切られて静かだと思ってはいたが、その静けさは上下線とも放送が切られていたせいだったのだ。普通の遅延ならば、遅延していないもう一方のホームの放送は続けられるはずである。
電話の向こうの平馬は、さて、と話を切り上げた。
『これから駅に停めた自転車に乗るから、通話を切るぞ』
「ああ、うん。教えてくれてありがとう」
携帯電話を閉じ、鞄に入れる。
一息つくと、才華が訊いてくる。
「運休しているんだって?」
「そうみたいだけれど……あ、また情報が入るみたいだ」
スピーカーは騒がしい。駅員のマイクが無線の音声までも集音しているらしく、無線からも、放送している駅員からも、ただならぬ焦燥が感じられた。
『電車遅延に関しまして続報をお伝えします。先ほど、隣の――駅での救護活動が終了したとの情報が入ってまいりました』
おお、と安堵する声がホームに広がったが、駅員は続ける。
『続いて安全確認の作業に入っているとのことですが、一部のお客様が非常ボタンでドアを開いて線路に降りているとのことで、その確認と安全の確保が行われております。そのため、申し訳ございませんが、電車運転再開の目途がまだ立っておりません。まもなく、振り替え輸送の準備が整いますので、順次改札を出て他の交通機関へ駅員が誘導いたします。もうしばらくお待ちください』
ホームの人々は再度騒ぎ出した。その中でも、才華は冷静に耳を傾けていた。
すると、何かに納得したように頷いたかと思えば、不愉快そうに眉をひそめ、口に手を当てて下を向く。それでもやはり自分の確信が強いらしく、すぐにまた自信たっぷりに顔を上げた。
「挙動不審だね、才華。何か引っかかるの?」
「いや、まあ、何があったかほとんど判ってはいるの」
こともなげに言う才華に、ぼくは一抹の不安を覚える。
「じゃあ、その真相がちょっとまずいってこと?」
「そうではないかと睨んでいる段階ってだけ。あと一度でも放送を聴けばきっと判るよ」
ふう、才華は息をついた。
それにしても、と思う。才華は結論を保留したように言ったが、その中に真相を解き明かす自信が満ち満ちていることにぼくは気がついたのだ。なぜならば、才華は『あと一度でも放送を聴けば』と言っていて、それはつまり最低でももう一回放送があることを予言しているに等しいからだ。
ホームでは人々が携帯電話を未だにずっと見つめている。連絡ならもうとっくに済ませたはずなのに。電車の運転再開や振り替え輸送の続報よりよっぽど夢中のようだ。
ただひたすら、縋り付いている――そう感じた。
いくらか待つと、才華の予言が的中する。
『大変長らくお待たせしました。運転再開の目途が立ちませんので、振り替え輸送のご案内をいたします。ただいま準備が整いましたので、順次、駅員の指示に従い改札を出てください。上り方面へは――』
そうして、駅員は淡々と、それでいてはっきりとした抑揚をつけることで必死に訴えている。人々はようやく液晶画面から顔を上げ、がやがやと動き始める。才華に行こうか、と促したが、返事はない。まだ、運休の真実を突き止めようと集中しているようだ。
ひととおり案内が終わると、繰り返しの連絡が放送される。そのときちょうど、原因についても触れられた。
『只今、隣の――駅にて、ドアを開けて線路に出てしまったお客様の安全を確認していたため、電車運転を停止しております。また、現在ドアが閉まらないという故障の疑いがあるのとことで、改めて調査を――』
「――なるほど、そういうことか。簡単な話だったね」
才華はついに、そう口走った。
周囲がちらちらと、才華の話の続き気にしているのがわかる。ぼくはわくわくしながら才華に尋ねた。
「じゃあ、この遅延の原因はどういうことだったんだい?」
「最初、どういう放送だったか憶えている?」
「非常停止ボタンが押されたんだよね?」
「そう。そのあと、急患の救助が行われた……このとき、その後の放送とおかしなことがあるよね?」
「というと?」
「『線路に降りた人がいる』っていうのは明らかに異常でしょ。救助ならそう長くもないだろうから、降りることなんてないのに。しかも、車内からドアを開けるには手動に切り替えるボタンを押すことになるから、狭い満員電車じゃなかなかの労力になるもん」
「うんうん」
「つまり、車内で『乗客が危険を感じること』があったということだよ」
ぼくは考えた。電車で危険を感じるとはどういう場面か。
揺れる――なんてことは停車中にありやしない。停電――いいやそれならもっと大きな事態になっていたはず。追突――車内からは見えないはずだし、これもやはり事態がさらに大きくなっているべきだ。大きな音がすれば怖いだろうけれど、線路に降りるほどの大事かどうかはすぐにはわからない。強い光が瞬けば驚くだろうけれど、電線から火花が飛ぶくらいのことは往々にして起こりうる。
おそらく、車内で何かを見て、音や臭いなど複数の感覚で「危険だ」と捉えられることがあったと考えられる。電車から降りたのは複数人だっただろうから、ひとつの感覚だけではドアを開けるには至らない。
そんなことを才華に伝えてみると、才華は喜んだ。
「すごくいいところ。でも、わたしはこうじゃないかって考えているの――」
――発煙したのよ。
はつえん。
才華らしくない突飛な推理に、ぼくは驚いて声を上げた。
「そんな、まさか! 日本の電車はとっても安全なんや、そないな危ないことはそうそうあらへんって。鉄道会社が設備不良に気づかへんかったってことやろ? そんなのあかんやろ」
「うん? わたしもそう思うよ」
「え?」
「だってわたし、一度も『電車が故障して煙を出した』なんて言ってないもん。煙を出したのは乗客の所有物――携帯電話よ」
そうなのかな?
ぼくは才華を疑った。いや、疑ったのとも少し違う。理屈は通っている、通せているのだと思う。けれども、その結論をあえて導き出そうとしているのではないか、正直ぼくはそう考えたのだ。
才華はさっき、携帯電話、具体的に言えばスマートフォンを批判していた。商品として未熟だと、『煙を上げた』というニュースを根拠に話していたのだ。
「整理すると、こう。最初はたぶん、本当に些細なことで非常停止ボタンが押されたんだと思う。そのとき、車内で誰かが、高い可能性で同じ車両の人が『病人だ』『遅延だ』なんてことをメールなりネットなりに書き込んだ。まあ、その人も携帯電話の扱いが粗かったんじゃないかな、ゲームだとかネットだとかで運行中も復旧中も使い続けていたんでしょうね。結果、熱暴走を起こして故障、発煙する。
そうなると、同じ車両の人は何か車両が危険な状態にあるんじゃないかと混乱するし、駅員も故障の確認に動くだろうね。煙を吸った人の中には体調の悪くなった人もいるかもしれない――これで、運休の完成」
才華は自信たっぷりにそう言い切った。そういう才華の笑顔は本当に楽しそうで、見ているこちらが嬉しくなるのだけれど、今回ばかりは正直どうしても腑に落ちない。
ぼくの浮かない顔に気がついて、才華はぼくの顔を覗き込む。
「どうしたの? 何か変なところがあったら言ってよ」
「いや、才華の推理について文句はないさ。才華の推理がいつも正しいことを、ぼくが一番よく知っているんだから」
「じゃあ、どうしたの?」
才華はやはり、少し人情に疎い。
「ただ、その……」
そのとき、頭上でがさがさと雑音が響き、『大変申し訳ありません』の流れから振り替え輸送の連絡が再び伝えられた。この放送でついに駅にとどまることを諦めた人々が階段のほうへ動きはじめると、放送の内容が運休の原因と復旧の進捗へと移ろうとした。
これには、才華が口角を上げる。
「ほら、答えあわせだよ」
でも、ぼくは才華の手を引き、階段のほうへ向かった。え、と声を漏らす才華にかまわず、ちょっと強引かもしれないくらいの勢いで駅の外を目指した。才華の考えが正しかろうとそうでなかろうと、復旧はもっと遅くなる。それに――
突然のことに、才華は焦った声を上げる。
「ねえ、弥。せっかく本当かどうかわかるのに、出ちゃうの?」
「いいんだ、とにかく早く帰りたいんだよ」
「ええ、ちょっとくらい。気になるんだもん」
「そうだね、ぼくも気になるよ。でもね、ぼくは正直――誰かと繫がっていたい気持ちを否定できないんだ」
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