夢と運命 6/19
冷姫氷牙、鎌の使い手。大きな鎌から放たれる風魔法によって、衝撃波などを生み出すのを得意とする。
鳳爽乃、狙撃銃の使い手。目に装備している特殊なコンタクトによって、風速や距離などを計算し、射撃成功確率を見抜く魔法に特化している。
そしてこの俺、大空正義。基本装備は片手剣。音を操る魔法を使う。闘いでの使い道?それは聞かないでくれ。
おっと、早速接触があったみたいだ。
速水流星か。彼は、流れ星のような魔法を使う事を得意とする、学年でも有名な男。整備担当の目から見て、あれは火と光の合成魔法と推測する。
ふむ。速水対冷姫。なかなかの見ものだ。
速水の魔法のスピードはかなり速いが、どうやら冷姫の風によって、綺麗に逸らされている。体ど真ん中に入りそうなものは、冷姫の優れた身体能力を活かして、鎌を使った軽業で避けたり、風魔法を纏った鎌で打ち落したりしていた。まもなく軍配は冷姫に上がろうとしている。
しかし、冷姫の後ろから新たな刺客。
「冷姫、後ろだ!」
俺の声が届き、ギリギリで学年トップの、闇を刃物状にした攻撃を避ける。
真霧聖司、闇魔法の使い手。闇でどんな物でも構築するというチート能力の使い手。流石、学年第1位だと言える。もしかすると、それは特待生をも凌ぐ魔力で、学園内の10本の指の中に入る日も遠くはないと謳われている。更には、容姿は端麗で、黒色の髪に白いメッシュがアクセントを加えている。性格も良いらしく、全ての男子が嫉妬心を抱くと言っても良い。
「おい、流星。お前は他二人相手って約束だろ」
「ごめんごめん。じゃあ、ここはよろしく」
俺はこの瞬間、戦闘を繰り広げていた場所と微妙に近い位置で傍観していた事、冷姫に呼びかける際、通信手段を用いなかった事を悔やんだ。そう、速水に俺の場所がばれた。
どうする、俺には音を使う魔法しかない。そうだ、倒すのは鳳に頼めば良いのではないか。
小型マイクを扮したトランシーバーを使い、鳳と連絡を取り合う。
「鳳さん、君がいる場所から速水は撃てるかい?」
『ギリギリ範囲内だけど、動きが速すぎて狙いが定まらない』
それで良い。
「じゃあ、俺は速水相手に一瞬だけ時間を作る。それを狙って狙撃してくれ」
その無謀な賭けに、鳳は少し驚きつつも了承してくれた。
『信じて、いいのね?』
「きっと、大丈夫さ」
チャンスは本当に一瞬だけだ。速水は火と光の魔法を錬成し始める、その一瞬を狙うしかない。
速水の攻撃の仕方は、一つ。魔法を生成した右腕を前に出すモーション、それたった一つだけだ。そうすれば、流星の如き攻撃が飛んでくる。
つまり腕を上げた時、つまりモーションに移った瞬間が勝負なのだ。それこそが、走るという動作を停止する時であり、周りに集中を切らしている時なのだ。
速水が全力疾走で向かってくる。速水は走りながら、右手を前で止めた。俺は速度が緩んだその瞬間を見逃さなかった。密かに仕込んでいた魔法を解放する。
「おい、速水!待て!」
「何だ、真霧!?……いや、違う!」
本当に一瞬だけだった。速水は完全に、静止した。
そう、先程出した音魔法は、俺が、相手の主将の真霧の声を"真似た"音魔法だ。速水は正しい行動を起こした。それ故の失態。
誰もリーダーの指示には逆らえない。それを利用した一度限りの戦略。
『ナイス!大空君!』
鳳が放った、ライフルからの会心の一撃で、悔しそうな顔をした速水は一発退場となる。刹那の静止は、生死を分ける一発を撃ち込むには、十分な時間だった。
「君は一体何をしたんだ……」
真霧の視線がこちらを向く。冷姫は闇で押さえ付けられて、動けそうにない。鳳も銃で応戦しているが、闇のガードによって、その弾丸も無に帰す。
「弱者の足掻きさ。それ以外何でもないよ」
そう言い放って、俺も真霧からの闇の一撃で退場させられた。その魔法を見て、圧倒的な力の差を思い知る。ブラックホールに吸い込まれていくように、ゆっくりと時間が経っていくような気がした。
気が付くと、既に戦いは終わっていた。
「完敗だね、冷姫君。俺がこんなので本当に申し訳ないよ」
結果は、真霧の独壇場。速水以外は倒せず、終い。あの冷姫でさえ、全く歯が立たなかったようだ。敵チームの最後の一人は動きすらしてないらしい。
冷姫と鳳が、きょとんとした顔を見せる。
「……完敗じゃない」
冷姫がボソッと呟く。
「それの事なんだが、お前、大空って言ったか」
「そうだけど、何?」
「俺達のチーム『ブレイヴ・ハーツ』に入らねえか?バトルメンバーとして。整備士兼任で」
「……へ?」
俺は冷姫の言葉が信じられなかった。
「勿論、無理にとは言わねえ。考えてくれ」
そう言って、冷姫達は立ち去った。
「君、面白いね。君に興味が湧いてきたよ。僕達のチーム『ダーク・クルセイダーズ』の一員にするのも良いけど、是非もう一度、成長した君と戦いたいよ。
良ければ、名前を教えてくれないか?」
真霧がそう言って、歩み寄ってくる。
「……大空。大空正義」
「へぇ、正義君か。覚えておくよ」
そう言って、真霧達も立ち去っていった。
その後に、各チーム主将と握手を終えた駿河が歩み寄ってくる。
「学年最下位が自分の得手を活かして、主席のチームの一人を倒す、か。
私も君の事、気に入った。大空正義君。私、決めた」
「決めたって、何をですか」
「私が、この学校の祭典、『エルドラード』に連れて行く」
特待生を除いた各学年の1位のチームを決める、三大バトルイベントの一つ、それがエルドラード。参加チーム数は、学年で18チーム。そこから第一次リーグ、第二次リーグと進み、最後に待ち構えるのはファイナルリーグ。更に、ファイナルリーグでの各学年上位3チームが、特待生を含めた魔装学園1位を決めるラグナロクへの切符を手にする。
「いや、無理ですって!」
「大丈夫、私が誰だかわかってる?」
この勝負こそが、俺のこれからの運命を変えたのだった。