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モフモフ中編


 なんでこんなことになったんだろう……

 開かれた王宮と評判の美しい建物の廊下は今日も賑やかだった。


 私が王宮にいる理由は昨日に遡る。


 「えーと傷薬の薬草切れてるからイーンさんに依頼でそれから……」

 ブツブツ言いながら薬品庫の様子を確認していた。

 「……セシルさん所長がおよびです」

 アイアさんがわざわざ呼びに来た。


狸親父(所長)がおよびって何なんだろう……


 「どんな……」

 「……とりあえず来てください」

 アイアさんが転移(ポートアポート)と唱えた、光が周りを覆う。


 えーと、一般職員に転移魔法使うということは、私、怒られるんですか?


 光が収まると机に座った狸親父(しょちょう)がいた。

 なにかの書類送検を凝視しているみたいです。


 「……連れてきました」

 「ああ、アイア君、ご苦労様、セシル君、仕事中(研究中)に悪いね」

 狸親父(所長)が顔を上げた。

 「あ、あの何か御用ですか? 」

 「うん、セシル君王宮から非公式に呼び出しが来てるんだけど」

 狸親父(所長)見ていた紙を渡した。


 モリターイェル王国の紋章が型押しされた立派な紙に見覚えのある名前が書いてある。


『王立魔法研究所所属 高等治療士(ハイヒーラー)セシル殿』

 と書いてあるよ……ひぃぃ〜エルリック王太子殿下から非公式に出頭命令が出てる。


 つまり王太子妃(アリーナお姉ちゃん)のところでクレシオールの件で話があると……


 「私……なにかしましたか? 」

 「イアスール殿下の件だと思いますが、ちゃっちゃといって断ってきてください」

 狸親父(所長)がニコニコと無理難題をはいた。


 エルリック王太子殿下といえば近隣諸国に鳴り響く天与の才の持ち主ですよ、無理です……心の底から断われません。


 それに、私、狼獣人で王国に仕える戦士の忠誠が本能レベルで入ってるんです〜さからえっこありません。


 「行ってきます……」

 私はうなだれて部屋から出た……後で頭痛薬草も追加しておこう。


 王立魔法研究所は王都の西にあって、ついでに東の山にうちの集落があり、そのふもとにある王都のど真ん中の水堀に囲まれた広大な敷地にあるのが案外あっさりした建物の王宮だ。


 基本的にモリターイェル王宮は開放的だ、6つある門は昼間は開いている。


 戦闘能力の高い獣人と魔法のエキスパートのエルフの王族がウロウロしてるので戦闘を仕掛けても返り討ち間違えなしということでかなり奥まで申請出せば入れるらしい。


 私は実の姉が信じられないことに王太子妃様になってしまったので奥の王太子殿下の宮まで顔パスってまずいと思う。


 書類を見せるとなぜかここにまで通されたんだよね。

 王太子殿下はお忙しいのでここでお待ちくださいって……お忙しいならいいのに〜。


 落ち着いてるといってもさすが王宮で上質なインテリアにかこまれている。


 王太子妃殿下(アリーナお姉ちゃん)にあわせたというそのインテリアは王宮のわりに小ぶりでかわいいなぁ……


 このローズピンクのティーセットも可愛いけどロイヤルプーアシアのマークついてたよ、高いんだろうなぁ……


 少し遠い目をしていたらアリーナお姉ちゃんにキラキラした目で見られていた。


 「セシル、お嫁に行くのですか? 」

 小柄で可愛い狼獣人の姉のアリーナが小首をかしげた。

 人妻に見えないくらい愛らしいけど一人の子持ちだ。

 「セシルおばちゃ、およめ? 」

 まだ幼児のアリーナお姉ちゃんの息子なリエアード王子殿下がアリーナお姉ちゃんのお膝のうえで小首を同じようにかしげた。


 可愛すぎる二人にコンプレックスが刺激される。


 「お嫁に行くというよりペット扱いなんじゃないですか? 」

 私はため息をついてお茶を飲んだ。

 だって相手はナイスバディな女性翼人だったし……


 普段なら感嘆するロイヤルなお茶もちっとも心が動かないよ。


 「ペット扱いはキリルちゃんなのです」

 はいっと片手を上げてアリーナお姉ちゃんが言った。

 穴落ちのキリルさんはアリーナお姉ちゃんの幼なじみで狼獣人戦士の中でも小柄で最弱クラスなんだけど……そういえばウニシス君によく似た名前のエルフさんによく捕獲されてるよね……従兄のガルフォ兄ちゃんにもだけど。


 あれ、ペット扱いだったんだ。


 そんなことを思ってると王太子殿下、ご帰室でございますという侍従の声がして扉が開いた。

 麗しき黒髪のエルフの王太子エルリック殿下が侍従を引き連れて入ってきた。


 エルリックお帰りなのです〜。

 おとうしゃんお帰りなの〜。

 小柄な銀狼獣人な王太子妃と銀の髪のエルフ幼児の可愛い二人が嬉しそうにソファーから手を降ったら次の瞬間二人まとめて抱き上げられてるのを見た。


 「セシルちゃん、急にわるかったね。」

 大事な妻子(宝物)を抱え込んだ王太子がやっと私に意識を向けた。


 人の良さそうなふりして目を細めた視線は鋭いです。


 怖いです。


 二人を抱き込んだままソファーに座るとお茶が最速でしかも優雅なしぐさで侍女さんが出すのが見えた。


 そのお茶を器用に妻子(宝物)を抱えたまま召し上がってる麗しき王太子殿下が微笑んだ。


 「実は、君に縁談がきているんだ」

 どこか寒気のする美声で王太子殿下が切り出した。

 「縁談……ですか? 」

 ペット扱いじゃなかったんですか?


 縁談ってなんなのですか〜? 


 セシル縁談なのです?

 えんじゃんにゃの〜。

 と可愛い母子が言ってる声が少し遠く聞こえる。


 「クレシオール王国のイアスール殿下って知ってるよね」

 「研究所においでになりました」

 私の答えにエルリック王太子殿下は微笑んだ。


 な、なんか本格的に風邪ひいたかも震えがとまらない。


 「それなら話が早い、イアスール殿下が君を嫁にほしいらしい」

 「あ、あの人女性なんじゃ……」

 「クレシオール王国の王族は両性なんだ、どっちよりかは本人の心次第だけど」

 だから安心して嫁いでいいんだよとエルリック王太子が妻子(宝物)を撫でながら微笑んだ。


 はい、セシルはお嫁に行くのですか? 

 とアリーナお姉ちゃんが手を上げたのにエルリックがとろけるような笑みをむけてうん、お嫁入りの仕度をしないとだねとアリーナお姉ちゃんの手を握った。


 嫁入り決定ですか?

 王族の翼人に狼獣人の平民が嫁いていいのですか?


 アリーナお姉ちゃんが殿下にうながされて両親と一族に連絡して来るのですと息子を抱いて出ていった。


 エルリック殿下はそれをうっとりと眺めてから私に視線を戻した。


 鋭い眼差しに少しだけたじろいだ。


 「イアスール殿下は狙われてる、玉座に関係しているのか分からないが、あの方はモリターイェルとクレシオールの友好に欠かせない方だ」

 「そ、そうなのですか」

 エルリック王太子殿下のますます鋭い眼差しにふるえた。


 こ、怖い……怖いよ。


 「忠義深き狼の一族にモリターイェルの王太子が命じる、クレシオールのイアスール殿下にお仕えし憂いの元をたて」

 高貴な威圧でエルリック王太子殿下が立ち上がり私はソファーから降りて膝まずいた。


 「ご命、つつしんで賜ります」

 刷り込まれた本能で胸に拳を当てて狼戦士の礼をした。

 「そなたの忠義嬉しく思う、頼む」

 エルリック王太子殿下の言葉が頭上から響いた。


 やっちゃいましたと少しだけ後悔した。


 王太子妃殿下、王子殿下お戻りです侍従のと声がした。

 エルリック王太子殿下が入れてと嬉しそうに微笑んだ。


 アリーナお姉ちゃんが戻ってきたらしい。


 「王妃様も手伝ってくれるそうなのです」

 「セシルちゃんもお嫁入りなのね」

 アリーナお姉ちゃんと少しだけゾクゾクする声のエルフの美女な王妃様がリエアード王子を抱いて入ってきた。

 「そうですか、セシルちゃんは一度ご両親を呼んだ方が良いですね」

 アルフィード近衛騎士団長は卒倒するかもしれませんがとエルリック王太子が微笑んだ。


 うん、アリーナお姉ちゃんが王太子妃になった時も本気でなると思わなかったぁ〜。と叫んで地面に倒れ伏してたしね。

 お母さんは王妃様に弱みをにぎられてるみたいだから役に立ちそうにないや。


 とりあえず……解放されたから帰ろうかな。

 あのあとしばらくクレシオール王国の文化風習とか聞かされたけど……覚えてないからきちんと覚えないと……でも縁談……本気かな……


 ヨロヨロと王宮の廊下を歩いてると見覚えある長身の銀髪の近衛騎士の装いの狼獣人が向こうから足早に歩いてきた。


 お、お父さんどうしてここに……


 「セシル、嫁入りとはどういうわけだ」

 父親のアルフィードが不機嫌そうにしっぽを揺らした。

 「え? 私もよくわからないです」

 ほとんど瞳が合う父から目をそらして答えた。

 「王妃様が隠しキャラがどうのとウキウキ来ていたのはともかくとして……どうしてお前まで王家に嫁ぐんだ〜」

 お父さんが絶叫して廊下の影からお父さんの副官の狐獣人さんが飛び出てきた。

 「団長、娘さんを威嚇したらダメです! 」

 お父さんのおしりに尻尾攻撃(テールアタック)が決まった。

 「痛いぞ〜ロイル! 」

 「痛くしたんだから当たり前です! 」

 お父さんとロイルさんがどつき漫才をはじめたのでそっと抜け出した。


 「おい、お母さんにもあって帰れよ、嫁入りなんて許さないんだからな〜」

 お父さんがロイルさんにヘッドロックをかけられながら叫んだ。


 お母さんに会ったらまためんどうだよ〜。


 さっさと逃げよう。


 廊下をかけていくと向こうから翡翠色が見えた。


 「避けてください」

 勢い良くはしってたからとまれないです。

そのまま翡翠色の翼人……イアスール殿下にぶつかって抱きしめられた。

 「あら、セシルちゃん」

 「あの、すみません」

 わ~ん不味すぎだよ。

 「いいのよ、お話聞いた?」

 顔を上げると色っぽい笑みを浮かべたイアスール殿下の顔をがあった。

 「あ、あの……突然のお話で……」

 「私の事知らないものね」

 イアスール殿下が私の頭をなでた。

 「は、はい」

 「……そうね……とりあえず、クレシオールにお客に来てくれないかしら? 私の体調管理もしてもらいたいのよね」

 イアスール殿下が微笑んだ。


 そ、それならいいかなぁ……


 「それにモリターイェルとクレシオールだと植生が違うから研究にもなると思うわよ」

 「よろしくお願い致します」

 イアスール殿下の提案にいちもにもなくうなづいた。


 しょせん研究バカです、ごめんなさい。


  来るのを楽しみにしてるわよ。

そうに囁いて私の額にくちづけて麗しい翡翠色の翼人は側近にうながされて去っていった。


 やっぱりかすかに青黒い匂いがするその綺麗な姿を見送って



 「と、とりあえず里に帰ろうかな……」

 お母さんが暴走してるといやだしね。


 狼族の集落は王都のすぐ近くの山奥にある。


 「あ、相変わらず遠い……」

 私は息切れしながらも里の門までたどり着いた。

 「お帰り、うーちゃん」

 幼なじみのガルディナがちょうど見張り番してて相変わらず大っきいのに体力無いねと言った。


 体力はありませんが大っきいは余分です。


 「セシルなの〜おかえりなの〜」

 ちっちゃい狼戦士が綺麗なエルフの男性に抱き上げられてやってきた。

 「キリルさん、えーとウニシス……ウニアスさんただいま帰りました」

 「また、間違えましたね、まあ、いいですけどエレンさんが手ぐすね引いて待ってますよ」

 エルフさんが愛しそうにキリルさんに頬ずりした。


 ウニシス君とウニアスさん名前が似過ぎで間違えやすいんですよ〜。


 足取り重く家まで歩いていくと家の前でお母さんが待っていた。


 「おかえりなさい、ねえ結婚ってどういうことなの? 」

 「ただいま帰りました……とりあえず家に入れてください」

 相変わらず元気一杯のお母さんにがっくりしながら答えた。

 「そうねシルビアたちも聞いたいって言ってたわ」

 お母さんがそう言って後ろを振り向くとシルビアおばちゃんがひらひら手を振った。


 ああ、脱力感……

 お母さんと一番仲良しのガルフォお兄ちゃんのお母さんがシルビアおばちゃんだけどさ……


 明らかにほかのおばちゃんもいっぱいいるよね。


 「大っきいのに玉の輿ってすごいねぇ」

 アルプおばちゃんがクッキーに大きな口で噛み付いた。

 「そうですね、ちっちゃいアリーナちゃんが王家に嫁入りした時もびっくりしましたけど」

 ルポディおばちゃんが目をキラキラさせた。

 「セシルちゃんは可愛いから」

 ニコニコとシルビアおばちゃんがお茶を飲んだ。

「でも大きいよね〜」

 同級生のポエニーが何故か混じってる。


 みんなアリーナお姉ちゃんじゃないけどそこそこのおっきさで私より小さい。


 「それで本当のところ結婚するの? 」

 お母さんが真剣な眼差しで私を見た。


 「と、とりあえず研究するためにクレシオールにお客に行くだけだよ」

 みんなに食い入るような目に少し身体を後ろにそらした。


 そうよね〜そうだと思ったのよというアルプおばちゃんの言葉にみんながうなづいた。


 確かにそうだけどなんか悔しい。


 でも結婚はしたくない。


 みんなが口々に好き勝手な事を言ってる中シルビアおばちゃんが私を見た。


 「嫁の貰い手がなかったらガルフォに取らせるから大丈夫だよ」

 シルビアおばちゃんが微笑で指を立てた。


 「あら、ガルフォ君はキリルさんが好きなんでしょう?」

 「ありゃウニアスさんの勝ちだから大丈夫じゃないかい? 」

 「割れ鍋に閉じ蓋と言う事ですか? 」

 ポエニーとアルプおばちゃんとルポディおばちゃんが口々にいって笑った。


 どうせ……私は大っきくて嫁の貰い手ないですよ。


 「セシルは、アルフィードににて美青年なんだからきっとお嫁に行けるわ」

 お母さんが私の頭をなでた。

 「それあげて落としてるからエレン……」

 シルビアおばちゃんは突っ込みをいれた。


 どうせお父さん似のおっきい狼獣人戦闘能力なしですよ。


 ああ、里は暖かいけどきつい……やっぱり早々帰りたい……



 どうせ夜にはおじさんたちにお父さんに似ている癖に戦闘能力がないなぁと笑われるんだ……


 悪気はみんなないんだけどね……


 いっそのこと何処かに行きたい……


 そういえば、行くんだよねクレシオール……

 いったいどういうところなんだろう。


 どんな植生があるのか楽しみだなぁ……

 少し涙が出た。


 次の日の朝、お母さんが送り出してくれた。


 「あのねセシル、あなたは優しいいい娘なのよ、だから自分に少しは自信をもちなさいね」

 お母さんの心配そうな眼差しに少し涙が出そうになった。

 「うん、行ってきます」

 私は手を振った。


 私、頑張るよ。

 精一杯研究して治療士(ヒーラー)としての能力を高めるよ。


 うん、仕事さえあれば、生きがいさえあればがんばれるよね。


 私は空を見上げた。

 この空の向こうにクレシオール王国があるんだな。

 そう思ったら元気が出た。

読んでいただきありがとうございます♥

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