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六乂六乂(むかむか)  作者: 枝野メル
第二部 ボーイ・ミーツ・ガール・アンド・グッド・バイ
14/14

第十二話 葦原との出会い

 指比たちと出会った翌日の放課後.上司になった中音に予定を空けろと言われていたので,広路は生徒会室にいた.駐屯地までは吉原の家より西日暮里の学校の方が近いからだ.

 昼食を兼ねた正規の生徒会活動は既に終わっているため,部屋には広路と仁志しかいなかった.二人きりになってからは沈黙が空間を隅々まで支配していたが,広路にとっては望むところだった.このまま終業時刻まで行けるかという期待が生まれた頃,あざ笑うかのように広路のケータイへ蘆原先輩からテキストメッセージで所在確認が入った.三年生は午後の補習でまだ大半が残っているらしい.

 メッセージに応えると,すぐに葦原先輩がやってきた.扉の向こうで少し間を置いてから部屋へ入ってきて,挨拶もなく広路にいきなり告げる.

「悪い話がある」

「良い方からどうぞ」

「……あたしはあなたにずっキュンドッきゅん」

 真顔で酔い声,不自然なハートマークによって,プロレスラーの決めポーズみたいになっている.

「良い方からどうぞ」

「魂の重さとされる四分の三オンスは,元の実験の一部でしかなく,その実験結果も不正確な計測や自然現象よるもので,犬やマウスの実験では変化がなかったから正しいとは言えない」

 広路は全力で何事も無い振りをした.

「今から正しい数値が分かる.はい,良い方からどうぞ」

 蘆原先輩は鞄を机の上に放り,いつもの席に腰かけた.

「……例のいじめ,もとい不正アクセスな,主犯が自首した.被害者と同じく一年だった.自主退学だって」

 これは,生徒用メールアカウントが不正ログインで乗っ取られて影で猥褻なメールなどが送られていた事件で,入学式直後から起きていた.本人が気づかない内に変態扱いで無視されるようになり,そのせいで発覚が遅れた.最初は生徒会マターだったのだが,今は法人のセキュリティ委員会が扱っているはずだ.

「証拠は?」

「別件のインシデント,先週の巨大数研の機械学習兼採掘用鯖乗っ取りで,高校セグメントの緊急遮断した時に侵入ログが残ってたらしい.上,大学の基盤センター情報な.多分そのうち一斉メールかグループメッセが来る」

「偶然ですか」

「だな.操作中に遮断,改ざんできなくてあれやばくね? からの」

「ろくでもないですね」

「な.手に汗握るカタカタ攻防もよーしいいこだもなし.で,悪い話.駒女さんとの交流会が中止になった.向こうの一年にも共犯者がいた.わかったのはこっちが先だ.しくって助け求めたのが運の尽き.三人とも同中の『怪我人』で,なんか色々あったらしい」

 怪我人,言い換えると手負いの人.地下やインディーズ市場で自称芸の担い手を追っかけてる人を表す葦原先輩考案の駄洒落だ.

「それはそれは.残念でしたね」

「なー.アルティメット可愛い女の子たちとの情報交換が」

 情報交換と言うには一方通行な手の動きだ.

「卑猥な動きやめてもらえますか.仁志もいるのに」

「これを卑猥だと認識するお前のライブラリが卑猥なんだ」

「失敬な.ソース開示しましょうか」

「広路のコードリーディングとか広路のコミッタ,て方が卑猥だ.術語がみんな隠語に見えてくる」

「オープンじゃないんで改変はちょっと.脳内にフォークするのは勝手ですけど」

「誰がお前で妄想するか」

「俺は先輩との問答は想定しますけど.こうしたら喜んでくれるかなー,と」

「……おう」

 そして予想通りである.  

「先輩と広路さんは,ずっとそんなに仲がいいんですか?」

 ずっと黙って宿題をやっていた仁志が口を挟んできた.観察で忙しいからか,仁志はいつも宿題に追われている.手伝うつもりは元からないが,楽しんでいるようなので何も言わないでいる.

「……ふたりはなかよし,か?」

「これで険悪なつもりだったら人間不信になりますけど」

 手を差し出したらぺちりぺちりと往復で叩かれた.

「少なくとも,お二人の私への態度よりは自然かと思います」

「そりゃすまん.まだ慣れてないんだ.嫌いとかじゃない.可愛いから好きだ」

「俺はそんなに不自然か?」

「言い方が悪かったです.基準が異なる」

「なら同じく慣れだ」

 嘘だ.

「初めの頃はどうでしたか,蘆原先輩」

 吐きなれないせいで嘘がばれたのか,仁志は広路に聞かなかった.

「あたしか.初めて会った時はなー……怖かった」

 先輩は手をぺちぺちするのをやめ,怖かったと言いながら広路を指した.

「新歓の時期なのにチラシ一枚用意せず一人研究室に籠ってちくちくしてたら,三人,小径ちゃんと澁衣ちゃんと広路が来たんだよ.お,かわいこちゃんが二人もかーらーのー,こいつ.二人は可愛いからいいんだけど,こいつ,このガタイでさ,エロ同人みたいなことされると思った」

 仁志にその例えは通じないと思う.

「美浦よりは穏和な体型だと思うんですけど」

 向こうは筋肉がっちり付けても動き落ちない系.

「脚と腕と手,特に手だよ.あいつはチャラいから却って気になんねえんだよなあ」

 一応,高校生になってからは手にマメを作らなくなっているが,それまでの蓄積が抜けそうにない.

「彼は一途です」

「見た目の話してんだよ.ほんの二週間でまた真っ黒じゃねえか.どこで焼いてんだよあいつ」

 当人曰く,地黒だそうだが,話がそれているので何も言わない.

「閑話休題.んで,会は良くない状態だったんで,せっかくの入会希望も歓迎できなかったのよねん.逃したら会潰れるけど,新入生のブレイブニュー生活に嫌な思い出持たせたくなかったし,って言ったらいい先輩っぽくね?」

「恥ずかしいからって誤魔化さなくても,みんな気付いてましたから」

「ほげえ」

「中等部にまで伝わる良くない評判で不安がってた澁衣は親切そうな先輩で安心したと」

「ほえ」

「今は不安視されてますけど」

「ほげえ」

 またそれていく話に仁志の困惑が深まっているようだったので,蘆原先輩をつつく.

「とにかく,あの時は継がねばならぬ何かがあると思って,それ優先して拒絶せずに受け入れたんだよ」

 続けて先輩はちょいちょいと広路をつついてから上目遣いで聞いてくる.

「なあなあ,覚えてるか? 落ちてた針を見つけたの」

「入会した時ですか? ……思い出せません」

 本当に覚えていない.

「えー.あの時あたしがボソッと蜘蛛男かって言ったら,地獄から来た訳じゃありませんよ,って返したから,踏み切れたんだよ.こやつ出来ると思って」

「ああ,そういえばその後,どこ住みかで吉原の話になりましたね」

「そうそうそれそれ.で焼鎌姉弟の母君が卒業生だというので,会員名簿引っ張り出して来てな」

 今度はすぐに仁志が軌道修正してくる.

「ということは,すぐに打ち解けたのでしょうか?」

「打ち解けた,とまでは言えないな.さっきも言ったけど,こっちの都合,会の継続を優先したから,最初のうちは罪悪感があって,今もあるけど,その辺が壁になってた自覚はある」

 事実,今では考えられないほど真面目で腰が低かった.広路にもさん付けだったし.付きっきりで小径の勉強を見ていたほどだ.

「伝統っていう幽霊が絡むと,好む好まざる問わず,合理非合理の余地なく,受け入れなきゃなんねえんだろうなー.小娘の戯言だけどなー.受け入れについては,脱落した連中に悪いが,結果的にはこの通りだから,あたしはやっててよかったと思ってるよ.お前らも良かったって,せめて悪くないと思ってくれてると嬉しい」

 広路の方は,安易に裁縫の技術を身に着けようと思ったから来ただけで,こうなる可能性は全く検討していなかった.仁志を除く現状が良いかどうかは決められない.

 小径の動機は広路と同じだと言っていたが,本当のところは分からない.今のところ不満はないらしい.澁衣もだ.

「広路ん家はやっぱりそういう話,理より優先される伝統ってあったりするのか?」

 自分が話しすぎたことを気にしてか,葦原先輩は広路に話させようとしてくる.

「そうですねえ…….せっかくなので部外者に話しちゃいけないことになってたもので,命名規則とかどうですか」

 一応,この名には理由がある.仁志は……素っ気ない反応を見る限り,ちゃんと知っているようだ.

「ことになってただと,今いいのか悪いのかわかんねえよ」

「今は別にいいです.聞きますか」

「はい,超拝聴」

 広路は眉一つ動かさずに話し始める.

「では,まず路から.道に関する文字は,家の剣術流派の伝統です.吉原来る前は別の家の人が継いでて,継承者のみだったんですけど,今は家系と一致してるので,継いでない人,母なども含まれてます」

「小径ちゃんは継ぐのかね?」

「聞いてません.で広は……家がこっち来てからある公卿の血が入りまして,家女房の子どもなんですけど,その人が男子に広の字を継がせてたのが加わって,続けた結果が,祖父広道の俺広路です.あと続くかは分かりませんが,あるなら広衢あたりですかね」

「くの字どう書くんだ」

 ホワイトボードまで移動するのが面倒なので,部首を読みながら空中に指文字で書く.

「ユニコードで……八八六二ですね」

 何故か仁志が字を調べていた. 

「ふーん…….名前のそれ,何だか叙事詩感あるな」

 意味がわからないコメントだ.

「公卿の人の次男が本家だったんですけど,将軍家の遠戚の高家で,待遇が違いすぎるってんで,ご先祖はかなり妬んでたらしいです.本家の二代目が蟄居隠居させられたんですけど,その原因は吉原で,裏で画策したんだそうです.さらに実子ができないように色々やってたそうです」

「ごめん,怖いからそういう話やめよう」

「あ,今のはまだ秘密ですよ」

「ほげえええ」

「というのは冗談半分です.あと,ほげ飽きました」

「半分かよ!」

 落ちたところでお開きとする.

「はー,今日もお仕事楽しかった.そろそろ帰った方がいいよな.広路,予定大丈夫なら悪いけどまたお願いできるか?」

 普段は五時間目が始まる前に帰れるなら問題ないのだが,今日はいつでも同じだ.

「それが今日は……まあ行くだけ行きましょう」

「いや,何かあるならそっち優先してくれねえと」

「待ちなので,来たらそうします.それまでってことでもいいですか」

「そうなのか.ごめんな」

 表面上は仁志と別れて,露骨ともいえる寒気を感じながら蘆原先輩を送っていく.

"〇五時三五分":"蘆原宅に移動",

"〇六時〇〇分":"荒川自然公園着",

 蘆原先輩は道中ほとんど話しかけてこない.それどころか,かなり離れて歩こうとする.でも,公園へ着くと近づいて饒舌になる.足や顔につけられた傷はすっかり目立たなくなったものの,まだ忘れがたいのだろう.

「今日は今後の話題考えようぜ」

「そうですね」

「よし.まず,OPまたはEDで主人公は走るべきか否か」

「OPまたはEDで踊るべきか否か」

「EDでは本編のシリアス度にかかわらず常に水着等のエロいカットを使うべきか否か」

「最終話でOPは劇中でのみ流れるべきか否か」

「新人声優に喘がせた作品」

「ラジオが本編扱いの作品」

「原作漫画版でしかAAが作られてない作品」

「ネタ切れです」

「だらしないなあ.まあ,今回は別にいいや.そろそろだし」

 そう言って,葦原先輩は自宅の方ではない方向へ歩いていく.

"〇六時〇〇分":"南千住A5ビルへ移動",

 広路が黙ってついて行くと,葦原先輩は公園近くのとある雑居ビルの前で止まった.上から制服もどきや学校用かばんを扱う学校用洋品店,ゴスロリ専門店と来て,一階がコンビニ,地下が古着屋だ.ここのは古着といっても特殊な奴,いわゆるブルセラショップだ.正規のブルマが絶滅した現代では,ハパセラと言った方がいいのかもしれない.昨日,あの後で広路が寄ろうとしていたビルだった.

 蘆原先輩は地下への階段の近く,ややコンビニ寄りのところに立って広路の方を向いた.

「何故ここに?」

 葦原先輩は声を潜めて答える.

「例の件,まだ終わりじゃなさそうだから」

 長くなりそうだったので,広路は辺りに人が近寄らないよう殺気を撒き始めた.コンビニで立ち読みをしていた人は逃げるように出ていき,店員さんは奥に引っ込んだ.

 ついでに周囲を探る.指比は探索可能範囲内にいない.仁志もだ.上の店からはそれぞれ水漏れの音とガムを噛む音がする.店員さんしかいないようだ.ゴスロリの方は柔道有段者っぽい.そして地下からは,雪を踏み潰す音が聞こえる.深読みかもしれないが警戒しておこう.

「はぁ.つまり黒幕がいると」

 言いたくないために遅れたという演技をしながら広路は応えた.

「多分な.犯人はどっちも入学したての一年.手口は標的型で,きっかけの偽メールの文面は去年の正式なものとほぼ同一だってことがわかった.てことはどっかで手に入れたんだ.調べた限りじゃ直近の卒業生に身内はいない.ってことは……」

「二年か三年が関わってるかもだと.それが何故,特殊な古着屋に」

「駒女は自由服だ.けど,私服の奴はほとんどいない.ここの上にもある学校洋品店の類で買った偽制服で来てる」

 考える時間が欲しいので横道にそらす.

「もしかして,同じ経営者ですか」

「ああ.カジノの景品交換所みたいなもんだな.定期的に服を替えられるから他所でもやってる.上で購入証明が貰えるから買い取り価格が少し上がるんだよ,ここだと.まがい物とうちみたいな本物でかなり差つくけど,それでも小遣いにはなる.吉原が手を出さない分野で,法の網を抜けるから学校の近くでできるし.ただ,神の手は届くから,需給調整がないと値崩れするのが問題だな.例外はどこぞにあるオーダーメードコスプレ服屋なんだが,そこ風祭に聞いたことあるか?」

 その問いで,広路はこれらの店が井路端傘下である可能性に初めて気づいた.

「はい.矢摩も一着持ってます.写真見ますか?」

「んだと!? ……やべえ……すげえ……肉が微かに乗ったこの絶対領域には感謝しかねえ.ありがてえ」

 考えるべきことが増えて面倒臭くなってきたので先に進める.

「それにしても先輩,詳しいですね」

「需給調整するカルテルのサーバ,今はあたしがホスティングとメンテしてるから」

「……ほげえ」

「言っとくがあたしは売ってないからな.裏方だからあたしのこと知らない奴がほとんどだ.野良もいるから完全じゃないが,南の混沌,目線なしエロ自撮り付き生脱ぎパンツ毛付きでようやく四千円に比べれば,この辺はだいぶ穏当だよ.もう二十年くらい調整してるらしいし」

 援交やJK商売が関東じゃ成り立たないから代替として供給が多いってことか.

「そうですか」

「おお.で話を戻すとな,共犯者の駒女の一年,さっそく売ってるんだよ.リボンとソックス,それから駒女の校章刺繍入りハンカチ.需給調整で高値のだけな.なんで売ったのがバレたかは秘密.んで,この協定情報を見るには参加者の招待が要るんだが,招待者リストになかった.招待外が売ること自体は調整範囲に収まるなら良いんだ.でも,今回は別の問題がある」

 葦原先輩が秘密にするのはそれが違法行為だった場合なので,広路は聞かないことにした.

「誰が招待せずに教えたか,ですか」

「そう.ここはその娘の行動圏内じゃないし,事件での行動見る限り,避けられるほど頭が回る方でもない.買い取り価格はネットに出ないから,店員か売り手の誰かが教えたと考える方が妥当だ」

「それで,招待しなかったということは,その候補も招待者以外だと」

「ああ.ざっと探索ツール走らせただけだが,招待済みとその娘の学内外でやり取りは見つからなかった.犯人と発覚後の陰口大量放出祭りにも交友関係は見られなかった.掛かったらアラート鳴る設定なのに未だ無反応.要は高校デビュー失敗ぼっち.そもそもできるなら招待すれば問題にならない訳だしな」

 それにしても,いつの間にこんな調査をしたんだろうか.

「もしかして,補習出てなかったんですか?」

「今はそんな話するな.その娘が売った時の調整は前日に入ったやつだ.卒業式後の初調整な.金が何に必要だったかはわからんが,攻撃用文書の情報提供料かもな」

 他には生活費とか追っかけ費,薬代あたりか.

「それを見られた誰かで,一年の娘にそれなりに信用される二年か三年が件の黒幕と.直接は話つながってないですけど,ありえなくは無い話です.それで,何でここなんですか.店員さんに聞き込みでも? ……まさか蜂の巣つつくつもりですか?」

「ご明察.今年度二回目の調整が昨日入った.当分の間うちので売れるのはスカーフ一点のみ.普段なら抽選だ.それをどっかの誰かがまた断りなくすぐ売ったらどうなるだろうな」

「漁夫の利とはいかないと思います」

 手を挟まれるだけでは済まないかもしれない.そもそも黒幕などいない可能性だって充分にある.

 止めた方が良いのだろう.

「そこまでは期待しないさ.メッセージが届けばいいんだよ.お前を追ってるぞってな.つーことで,待っててくれ」

 そう言いながら,葦原先輩は三つ編みをといて,前髪を垂らし,後ろはゴムで縛った.広路は鏡代わりにケータイをかざした.

「やるにしても,探偵研にやらせちゃダメなんですか」

「探偵コスプレ研究会が何だって? こんな楽しいこと他人にやらせる訳ないだろ.よし,じゃ,逝ってくる」

 先輩は眼鏡を外した.

「待った」

 止めるだけ止めたが,鐘は鳴ってくれない.

「……何故ですか?」

「楽しいから……じゃダメだよな.えーと,前にも,あの自動破壊USBメモリ事件の時,言ったのと同じだ.情報技術をあたしの生活圏で悪用されるのに耐えられない.違法かどうかじゃなくて,理不尽なことに使われるのな.行為じゃなく対象を簡潔に言えば,黒幕ってのが嫌いだ.それを殴れる数少ないチャンスなんだよ」

 後半の言葉に広路は動悸を感じた.

「ノリで来たから今さらだけど,頼ったの迷惑か? ならやめるよ」

 動揺したせいで止めきれなかった.何かあったら何とかすればいいか,と思ってしまった. 

「無茶しやがって」

 先輩は敬礼してから覚束ない足取りで階段を降りていった.あれなら写真を見ても生徒会役員以外はすぐに気づかないだろうが,そういう問題でもない.

"〇六時十分":"南千住A5ビル地階に移動",

 五分後,蘆原先輩が紅潮した顔で元いた所へ戻って行った.

「はーっ,緊張した…….おい,どこだ? おーい? 誰かいませんかー?」

「前には二百三十メートルくらい誰もいませんよ」

 広路は後ろから返事した.

「ひぁ! びっくりした!」

 この高いよそ行きの声,久しぶりに聞いた気がする.葦原先輩は興奮した様子で続ける.

「スカーフ,何故かマニア受け度が高評価で買い取り価格が少し上がったぞ! たい焼きでも食べようぜ! 高い羽のやつ!」

 これは良い話なのか悪い話なのか.今回は悪い話か.

「とりあえずご無事で何より.換えのスカーフは?」

「今日の今日だから無い!」

「そんなこともあろうかと」

 売った直後に隠れて買い直したものと目線付き写真を袋のまま渡す.

「は? お前な!」

「逆算できれば先輩が追ってることは伝わるでしょうけど,俺がいることも併せられるならその方が圧力は強いはずなので」

 あと陳列期間が長くなって噂立っても困るし.

「ぐっ……言える立場じゃないが,せめて一言断われ.売値は?」

「直後だったので二割値上げされて四千八百円.会の予算から立替請求しておきます」

「書類はあたしが書くよ.しっかし,相場は分かっちゃいたが実物と領収書見るとやっぱ高えな.これのこれだぜ? 原価半分弱か.安全料とはいえ,これなら西の学校がカルテルありの個人取引に流れるのも頷ける」

 これのこれだからな気もする。

「スカーフだけなのに意外でした」

「スカーフ欠品てのがあるからな.制服上着の場合,付属物がないと一万円近く変わる」

「それだともっと高いんじゃ?」

「んー? それもそうか.価格表じっくり見たのが今日初だから気にしてなかった.双方ともに足元を見ない方が良いっていう経営判断かねえ.中古屋は在庫が命らしいし」

 ここで広路は,常人ならざる速さで近づいてくる指比の気配を捉えた.よくここが分かったな.

「どした?」

 葦原先輩がこちらの様子の変化に気付いた.

「待ち人が来ました」

 そう言った直後,公園の方から小径車に乗った指比が息切れもなく現れた.さっき五十キロは出てた気がするんだが.

 当然と言えば当然だろうが,昨日と違い,指比は制服もどきを着ている.厚手の黒タイツなのでスカートの中はよく見えなかった.

 行動とタイミングから,指比が黒幕ということもありうると広路は思った.美形で生徒会役員なら知り合ったばかりでもそれなりの信用は得られるだろう.動機? 知らんがな.可能性は広げておいた方が後悔しない.作家じゃないから畳まなくても良いし.

 指比は自転車を二人の目の前に停め,降りてから会釈をした.

 広路はまず指比に葦原先輩を紹介した.浄化とやらをしたなら知っているはずだが,話の流れを予想するとこの方が良いと判断した.

「どうも指比先輩.こちら,うちの学校の先輩で,同じ生徒会で会計をしている蘆原紅音さんです」

 蘆原先輩は急におどおどした様子で縮こまり,酔いとも呼べないかすれた声でぼそりとつぶやく.広路と初めて会った時とほとんど同じだ.

「……ども」

「こんにちは」

 指比は整った笑顔で挨拶だけした.

 こっちは予想通りにすぐ終わった.次は逆だ.

「こちら,お隣りの駒女生徒会の書記をしている指比憧子さんです.蘆原先輩と同じ三年生です.バイト先が同じで,今日の現場に案内してもらう予定でした」

「初めまして.例の件で交流会がなくなってしまったので,とても残念です.うちの焼鎌くんがお世話になっています」

「いえいえ,こちらこそ……うちの広路がお世話になっております」

 驚きの白さ,輝きの光.エンジョイ,エキサイティング.

「あれ,どうして名前で呼ばれてるのかな?」

 この指比の質問は予想外だった.

「双子の姉がおりまして」

「それは知っているけれど,ここにはいないよね?」

「それはきっかけなだけで,いつもそうですので」

「なら,私も名前で呼びます」

「それは別に構いませんが」

「では広路くん.お仕事に行きましょう」

「すぐにですか? もう十分だけ待って頂けませんか.諸事情で蘆原先輩を送っているところなので」

 二人乗りが見つからなければ五分を切れるだろうと思い,蘆原先輩を目で促す.しかし,先輩はこちらに背を向けて言う.

「広路.あたし,ここから一人で帰るから.じゃな」

「え,ちょっと」

 これも予想外だ.

「すぐだし,一目散に走って帰るから大丈夫なはずだ」

 ちなみに,先輩は自転車に対して「不可解」という立場なので,貸す訳にも行かない.

 広路は慌てて進行方向を探索する.幸い,ほとんど人がおらず,いても無害そうな老人だけだった.

「ごめんなさい.埋め合わせは必ずしますから.前に危ないのはいないので,躓かないように気をつけて」

 言い終わる前に指比は広路の腕をつかんで連れて行こうとする.

「今から駐屯地へ向かう.ついて来きなさい」

 指比は言い終わった後の一歩目で急加速し,南千住駅方面へ向かう.市ヶ谷なのに直接あるいは地下鉄で行かないとは予想外だ.広路は辺りに警官がいないことを祈ろうとして,無駄なことに気付き,それを誤魔化すようにペダルを思いっきり踏んで指比を追った.少しして追いつけたので,辺りを探索しながらケータイで電話する.

"〇六時一三分":"南千住駅へ移動",

「もしもし,焼鎌広路です」

「お,なんだ.家なら,もう,目の前,ってか,今,着いた.はあ,ただいま」

「そうでしたか.さっきは本当にすみませんでした.また月曜日」

「はぁはぁ……謝ることじゃないだろ.それよりもおかえりっていえよ」

「おかえりなさい」

「お前いまうちにいないじゃん」

「失礼しました.では」

 前の指比がペースを上げたので,悪いとは思ったがさっさと通話を終えてしまう.

「広路.南千住駅のそばで停められる場所は知ってるかな?」

「お寺かお稲荷さんのところなら切符切られないかと.このまままっすぐで,右側です」

 最近こっちには来ていなかったのですぐに出てこなかったが,変化しにくい場所なら大丈夫だろう.もっとも,駐輪場を使えば済むことだが,予算の事を考えて触れなかった.

 駅の近くへは数分で着いた.今度は予想通り,お稲荷さん側の目立たないところに停められた.ここなら後で取りに来るのも楽だ.

 指比は自転車から降りると,制服もどきのポケットからガムらしきものを取り出し,噛み始めた.

「貴方も要るかな?」

 至極どうでも良さそうに指比は聞いた.

「結構です」

 そもそもガムは一枚しか見当たらなかったので断ったが,求めていたらどうなっていたのか.

「さあ,電車に乗って移動だ」

"〇六時二二分":"上野駅へ移動",

 指比はここでも営団地下鉄ではなく国鉄の駅に向かった.これだと日暮里の方まで行かなければならず,乗り換えも増えてやや時間がかかる.もしかして遅い時間でないといけないのだろうか.広路の疑問をよそに,指比は何も教えようとせず先を行くだけだ.

 常磐線は久しぶりに乗っても混んでいた.成田からのようで,大型のバッグやスーツケースを持った乗客がちらほら見える.

 指比は黙ったまま,全員寝ている優先席の前に立った.広路は隣に立ち,暇つぶしに家まで探索範囲を伸ばせるか試し始めた.しかし,電車が発車した途端,バランスを崩したわけでもないのに指比が彼女のごとく身を寄せてきたため,中断させられた.

「何でしょうか?」

 指比は此方を見ずに小声で聞いてくる.

「仕事抜きで聞いてもいいかな?」

「内容によりますがどうぞ」

「ああいうの,貴方は望んでいるのかな?」

 窓の外を見たまま指比は続けた.

 ブルセラでのことか.やはり何か関係があるのか.広路は分からないふりをして情報を引き出そうとする.

「何がでしょうか?」

「戻れないのに危険地帯に足を踏み入れようとするところ.あるいは戻ろうとしないところ」

 指比は整った顔のまま不愉快そうな声で答えた.

「そういうのに生まれついたのでないなら,一時的にこういうことに関わったとしても,元に戻るべきだと思いますよ,俺は」

 広路は思っている通りのことをそのまま言った.

「こういうこと,か.それは内容次第だ」

 どちらかと言えばそういうのの方が重要だ.

「今回はそこまで険しいとは思いませんけど.何かご存じなら教えて下さると助かります」

「見つけたものはあるけど,それは仕事の範疇だからできない.それよりも貴方,戻れると思っているのかな?」

「いいえ.戻るべきだと思っているんです.戻してやりたい」

 広路は呪詛に紛れて湧き上がる不快感を抑えるために,異なる対象の話に移した.

「……何か噛み合わない」

 原因は分かっている.だが広路は何も言わなかった.別に言ったところで何も変わらないと思ったからだ.

"〇六時三五分":"秋葉原駅へ移動",

 その後は何の会話もないまま電車を乗り継いでいった.

 途中,最後尾付近の車両で,指比がずっと噛んでいたガムを吐き出して手に取り,そのまま連結部の手すりの下に擦りつけた.広路はわざとらしく目を見開いて凝視したが,指比は気にする素振りを全く見せなかった.

"〇六時四五分":"市ヶ谷駅へ移動",

 駅から出ると,指比は近くの小型スーパーに真っ直ぐ向かった.そして店に入るなり,買い物カゴに野菜ジュース,飲むヨーグルト,コーヒー,栄養ドリンク,歯磨きガムなどを放り込んでいった.流れるように見たことのない白い電子マネーカードを使って会計し,両手に袋を持って駐屯地の方へまた進み出す.

 広路は黙って袋の片方を貰い,後をついていった.

 駅の近くで待っていた仁志の方はまたハンバーガー屋に陣取ったようだ.駐屯地の中は近くでないと観察できないのだろうか.

"〇六時五〇分":"友好会館ビルに移動",

 昨日,駐屯地から出てくるのに使ったビルに着いた.指比は施錠された扉に掌で触れ,何語かわからない言葉を発した.

 鍵が開く音がするなど,特に何かが起きた様子はない.しかし,指比はノブをつかみ,こともなげに扉を開いた.

「早く入れ」

 促されて入った先は確かに昨日の建物だった.帰り道の逆を辿って中音の部屋まで向かう.

 言いつけ通り,ここからは探索なしの気配絶ち状態で進む.

"〇六時五五分":"市ヶ谷駐屯地に移動", 

 指比の後を素直についていくと,昨日と同じ何も掲げられていない部屋に着いた.

 中音は昨日と同じ服装と昨日よりさらに悪い顔色で二人を出迎えた.室内には消臭制汗剤の匂いが充満している.

「こんにちは,中音指令」

 そういえば中音の階級はなんだろうか.知っている創作物のキャラからすると,少佐あたりか.

「ご苦労.司令などと呼ばなくていい.さて,今回の作戦,作戦名ルアーは既に始まっている.貴方たちは直ちに装備を揃えて移動を始めろ」

「はい.準備し,移動します」

 指比は買ってきたものを袋ごと部屋に置き,出ていこうとする.広路はそれに慌ててついていく.見てないとこうなるのが新鮮だ.

 部屋から出た指比は,また黙ってロッカールームに向かっていく.その背は怒っているようには見えなかったが,ポジティブな感情とも思えない雰囲気だ.

 ロッカールームでは,広路は鞄と制服の上着をしまった.ロッカーには鍵をかけたはずなのに目出し帽が入れられていた.取り出して指比に見せると頷いた.指比の方はテニスラケットを入れるような鞄を取り出した.

「中身は刀,鎖鎌,煙幕」

 簡潔に説明をし,外へ出ようとする.広路はそれを止める.

「その格好でいいんですか?」

「私の下着が見たいのかな?」

 チャラとマジで少し悩んだが,広路は沈黙を選んだ.

「冗談だ.気にするな」

 指比は慌てたようにこちらをしっかり見て言った.

"〇七時一五分":"市ヶ谷駅に移動",

 先ほどと同じ出口から出て,また駅に向かう.

"〇七時二八分":"秋葉原駅に移動",

 今度も秋葉原駅で東京方面への山手線に乗り換えるようだが,指比は中音と同じ腕時計を見ながら電車を見送っている.

 仁志は探索できる範囲外にいない.

「さて,準備はできたかな? できてないならすぐしなさい」

"〇七時五ニ分":"外回りに乗車",

 指比は何本目かの電車に乗り込んでから言った.

 よくわからないながらも,広路は軽く体を動かし,目だし帽をすぐかぶれるように準備した.覚悟などというものはする気がなかった.鎖鎌を使われた相手とのやり取りをいくつか想定してから,改めて言い訳を繰り返す.

 その内に東京駅を過ぎたが,何かをする様子も起こった様子もない.

 さらに有楽町駅を過ぎた所で,車内アナウンスが入る.よくわからない「お客様の安全のための車両点検」をするので,品川止まりになるそうだ.

「あれ? 何で?」

 広路はアナウンスの方ではなく,探索範囲内に例の生物兵器らしき気配が入ってきたことに驚いた.それは明らかに車内にいて,先頭車両の方からこちらに近づいてくる.

「来たようだな」

「車内にいきなりですよ」

 広路は慌てた.有楽町から乗ったのなら範囲内で気づいたはずだ.広路でなくても,あの外見なら誰でも気が付くだろう.まさか異なる外見なのか? あるいは…….

「落ち着きなさい.まだだから」

 指比には一切の動揺が見られない.

 浜松町を出たところで,再度,車両点検により回送電車に変わる旨の放送が車内とホームに流れる.生物兵器は乗客を避けながらゆっくりと近づいてくる.

「気配を絶て」

 指比に引っ張られて連結部に隠れる.そこには指比に付けられたガムがあった.

「これは餌.ここは針」

 指比はまた簡潔に説明した.ああ,ルアーってそういう…….

 品川駅に到着し,ドアが開く.乗っていた人々は何も言わずみな粛々と降りていく.

"〇八時〇九分":"品川駅新幹線ホームへ移動",

 連結部に隠れて辺りを探る.降りた人とホームにいた人が反対側へ移動していくのが音だけでもわかる.訓練された乗客たちのおかげか,車内の方は放送から数秒で運転手と車掌,生物兵器,指比,そして広路だけになった.

 再度放送が入り,ドアは閉まった.生物兵器の方はこちらに来るのをやめ,座席の下に身を隠しているようだ.異状を察知したのか.

「この電車は臨時ホームに向かう.そこで一時的に隔離.すぐに仕留めて搬出.分かったかな?」

 指比がようやく段取りを説明した.悪びれる様子は微塵もなかった.

「こっちからだと前方,運転手側に追い込む形になりますけど,逃げられませんか?」

「近づけば私たちを倒して餌を取りに来ようとする.そこで私が回り込む.行くぞ」

 言い切って駆け出した指比を追う.生物兵器のいる一つ前,真ん中辺りの車両に来たところで指比は鞄から鎖鎌を取り出した.

 広路は呼吸を整えつつ指比の前に出て,扉の脇につく.指比が頷くのを見て,扉を開き射線を通す.間髪入れず,指比は鎖鎌の分銅を放る.

 分銅は,座席の下から這い出てきた生物兵器の腕を掠めた.そして,指比が手首を捻ると,その腕に鎖が巻き付いた.

 鎖を解こうともがいたところで,電車がホームに到着した.揺れで生物兵器が左側の座席の方へ寄る.

 それを見て,指比は手すりに鎌を巻き付け,鞄から円盤を取り出す.そして,生物兵器の足元の床に円盤を叩き付けて言う.

「目と耳塞げ!」

 閃光手榴弾,いやセンサー地雷か.

 広路は二つの気配を捉えつつ,目を閉じ耳を塞いで背を向けた.それとほぼ同時に,ドンという破裂音が響き,微かな爆風が背を撫でる. 

 指比はその間に右側の座席の下をスライディングで通り抜け,生物兵器の前へ躍り出た.

 忍者だ.いや吸血鬼ハンターだ.

 指比は刀を素早く正眼に構えて生物兵器を牽制する.間髪入れず,生物兵器がこちらを向くより先に,広路は後ろ向きのまま間合いへ入った.二対一ということもあって今回は大きく余裕が感じられる.

「やれ」

 指比は指示すると同時に,やや大きい動きで鋭い突きを放つ.

 間合い良し,言い訳良し.

 突きを横にかわした相手のアゴ目掛けて,広路は後ろ蹴りを最大の速さで放った.

 避けてくれたらいいと思っていたが,生物兵器はこれを避けきれなかった.蹴りはアゴの下を直撃し,勢い良く頭の向きを変え,アゴと首に骨の折れる嫌な音を奏でさせた.

 それだけに留まらず,広路は刈り取るように弧を描いて足を戻し,今度は反対の足で横蹴りを放つ.

 生物兵器は,頭を本来とは真逆に向けた状態で,傀儡人形の操り糸が切れるように膝から崩れ落ちた.

「指比先輩」

 広路は指比に確実なとどめを頼んだ.単に時間あたりの攻撃力不足を懸念してのことだ.

「いや,ここではもう良い.よく出来た.さあ,搬出するよ」

 指比の合図でドアが開き,外に待機していた男が二人が乗り込んでくる.一人は昨日も指比と一緒にいたはずだ.

 二人は生物兵器を拘束具付きのごつい担架に乗せ,搬出していった.

「ついてきなさい」

 指比は鎖鎌と地雷の破片を鞄に放り込み,階段の方へ駆け出した.

 広路は念の為に車両内に落し物がないか確認してから指比を追った.見たことのない通路を通って駅の地下らしき場所へ出ると,搬出口近くにトレーラ付きの無地トラックがアイドリング状態で停まっていた.先行した二人は生物兵器をトレーラに素早く運んで,そのまま乗りこんだ.広路たちもそれに続く.

 トレーラ内部は救急車のようになっていて,中央には小型の檻がある.中には拘束具とキャスター付きベッドがあって,生物兵器はそこに固定されていた.天井は何やらよくわからない機材で埋まっており,檻を挟んで厚い壁のそばには収納式の長椅子がある.

 広路はこれが昨日近くにあったかを思い出そうとしつつ乗りこんだ.

 指比が手招きしたので隣に座ると,反対側の奥に座った坊主頭の人がはきはきした声で挨拶してくる.

「やあ,短い間だがよろしく.俺は黄野.こっちは青谷.運転手が桜川だ」

 青谷さんは軽く会釈をした.

「ご挨拶が遅れてすみません.焼鎌です.よろしくお願いします」

 この距離で握手はできないが,顔付きがもう一般人とは思えない.

「皆,傭兵だ.上司でも部下でもない」

 YO! HEY! ってな.

「YO! HEY! ってハハハ」

 青谷さんが言うべきことを言った.

「黙ってろ」

 黄野さんも言うべきことを言った.

「すみません」

「何故,広路が謝るのかな?」

 青谷さんはこちらを見て苦笑いした.

 トレーラの扉が自動で閉まり,トラックは走り出した.

"〇八時二〇分":"市ヶ谷駐屯地へ移動",

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