第07話 冒険者ギルド
神殿を後にしたユウキは、一路南の冒険者ギルドを目指していた。
(北の端から南か…遠いな。神殿が北にあるのは高位の施設だからだろうな。冒険者ギルドが南にあるのは、力自慢が多そうだから商業区の東西・中央から離されてるんだろうか。)
その通りである。人と同じ思考が可能になったということは、NPC同士の諍いが起きるようになったという事でもある。そんな無駄な演算も必要になるため、量子コンピューターでなければ不可能なのだが。
サナディアに主だった施設の場所を聞いたため、神殿に向かった時よりも簡単に街を見ながら進んだ。
中央広場を通り南へ入ってしばらく歩くと、街並みが今度はみすぼらしくなってきた。
(予想は正しそうだ。よく見ると道の端に瓶の破片みたいなのが細かく残ってるし。これはNPCだからと油断しない方がいいな。)
人と同じ思考で経済をシミュレートすれば、当然富豪と貧民が生まれる。問題が起きないのなら、衛兵NPCなど必要ないのである。
南中央通路を半ばまで来ると、冒険者ギルドが見えてきた。人の出入りも見える。
「おぉ!人が出入りしてる。プレイヤーの人達…には見えないな、NPCと同じ雰囲気の外見だし。NPCも依頼受けたり狩りに行くんだろうか…。」
行くのである。一つの世界を完全にシミュレートするため、NPCも実際に経済活動し生活しているし、目的がある者はパーティーを組んでレベル上げをしている。
実はサナディアのLv13というのは同年代にしてみれば高い方だが、NPC全体から見れば低かった。
ギルド入り口に到着したユウキは、中へ入って行く。
入り口から入って右側にはカウンターが並び、左側にはテーブルとイスが置かれ休憩所のようになっている。正面奥の方には掲示板があり、多くの紙が貼り付けられていた。掲示板の横には、指名手配としてよく目に付くように綺麗に並べて貼られた紙があった。
ユウキはカウンターに向かい、開いている窓口の前に来た。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「初めて来たのですが、依頼は受けられますか?」
「それでしたら、当ギルドに登録をして頂くことになります。よろしかったですか?」
「はい、登録って手数料かかりますか?」
「いえ、登録は無料で行っています。依頼が失敗した際や、ギルドの信用を損ねる行為をした場合に、補償金を支払って頂く必要がありますが。」
「それなら、登録します。」
「では、こちらの台に手のひらを載せてください。」
受付員はカウンターの下から、四角い軽量台のような物を取り出した。
(生体認証で登録できるってことかな?)
台に手のひらを載せるユウキ。すると、台の上部が青色に輝き始めた。まるでスキャンしているかのようだ。
光が収まって数秒後、台の受付員側から金属のような黒いカードが出てきた。表面には冒険者ギルドの入り口に架かっていたのと同じマークが印されている。受付員はそのカードを手に取り、何やら念じているようだ。すると、カードの表面から半透明の情報ウィンドウが現れた。
「はい、無事登録は完了しました。念のため、記載されている情報を確認してください。情報を出す時は、カードを意識してステータスと念じてください。」
受付員にカードを渡される。ステータスとだけ念じると自分のステータスが出てしまうから、カードを意識する必要があるのだろう。
ユウキはカードからステータスウィンドウを呼び出し確認した。
「大丈夫なようですね。間違いはありませんでした。」
「そうですか。では、引き続いて依頼の説明をさせて頂きます。
依頼には主に、無期限依頼と要請依頼があります。
無期限依頼は、常に必要とされる薬草等の素材を収集する物や、周辺で発生しているモンスターの討伐などがあります。
要請依頼は問題を解決して欲しい方が、こちらに申請する一度限りの依頼になります。
無期限依頼はその性質上、必要な物を集めてから請けて頂いて構いません。要請依頼は、誰かがそれを請け負った場合一時的に掲示板から外され、他の方は受けられなくなりますのでご注意ください。
モンスター討伐の場合、討伐した種類と数がギルドカードに自動的に記録されます。この場合は、依頼を完了した分だけ記録から減らします。」
(要請依頼は期限があるだろうし、失敗の心配をして集めてから請けようにも、誰かが請けてたら無駄骨になりかねないな。)
「要請依頼を受ける場合は、掲示板からその依頼を剥がして窓口へお持ちください。無期限依頼は依頼番号を申告してください。依頼の完了もこの窓口で行います。」
「なるほど、分かりました。依頼が無いモンスター素材などはどうすればいいですか?」
「素材類は全て冒険者ギルドにて買い取りを行っています。物によっては扱いに慎重を期する物がありますので、一般の店では買い取りを禁じています。ギルドから素材が供給され商品が作られます。」
(ふむふむ。毒や爆発物、戦略物資が勝手に取引されたらまずいしな。)
「また、依頼にはランクがあります。冒険者のランクから前後1つまでのものしか請けられません。ランクはS・A・B・C・D・E・Fとなっています。ただし、無期限依頼は下のランクに対して制限無く請けられます。
説明は以上になります。何かご不明な点はありますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
受付員はそう言うと礼をした。
窓口を離れ、早速依頼の貼ってある掲示板へ行ってみる。
(素手だけどメイジになった時にマナボルトの魔法を覚えたし、何とかなるだろう。)
ランクFの依頼でモンスター討伐の無期限物を探す。妙なネックレスで強化されたとは言え、ランクEの討伐を請けるほど無謀ではなかった。
掲示板からグランゴブリン討伐、グランスライム討伐、グランウルフ討伐、ドーラの花採取、ピール草採取の番号を確認した。
(大量に受ける場合、番号覚えて行くの大変だな。違う番号言ったらどうしよう。メモ用の紙とか売って…るカナ。)
メモと考えた辺りで、脳内に白紙の枠が現れた。
(メモ機能あるのか。)
番号を書き留める。保存と念じると、コンピューターのフォルダのような場所が現れファイルが作られた。
受付に行き、ギルドカードを出して、依頼番号を言った。受付員はカードを受け取ると、手元の資料からその番号の内容とカードの情報を確認し、カードに何かをした。カードが光っている。
「はい、これで5つの依頼が登録されました。頑張ってくださいね。」
カードを返すと、何やら過剰な笑みを贈りながら応援してきた。
「は、はい。頑張ります。」
(え、どうしてそんなに笑顔なの?何もおかしなこと無かったよね?初心者なのにそんなに張り切ってって事なんだろうか。確かに面倒だからまとめて請けたけど。)
後ろ髪を引かれながらギルドを後にする。
書いていく内に方向性が変わりつつあります。
すでにシリーズ紹介文の
「このゲームがなぜ生産系を大題的に謳い、多くの参加者を求めていたのかを知るのはログイン後の事であった。」
が、説明されない事態に!
どうやって当初のプロットに合流させよう…。