第04話 ログイン
本当にログインする時が来ました。
睡眠ガスによって眠りについた結貴は、夢の中にいる感覚を感じた。
どうやら無事ファヴニルオンラインのログイン画面に辿り着いたようだ。
ログイン操作は生体認証が行われ、パスワードの設定などは必要ないようだ。
(このまま全自動でキャラクター作成に進むのかな?便利だな。)
キャラクターを作成すると思っていた結貴だが、そんな気配はなく、光の帯が自身を駆け回りどこかへ転送するようだ。
(え、キャラクター作成は?)
結貴は知らなかったが、相互フィードバックシステムはその特性上、本人と全く同じアバターを生成する必要がある。本人と違う体格・容姿では、様々な部位で思考とのズレが起きてしまうからだ。
始まりの街グランポリスへ転送される最中、突如結貴の周りにノイズが走った。
(なんだ?…ログインが殺到してラグが起きてるのかな。)
最初に起きたノイズ以後、再度発生する様子がない。それなら大丈夫かと気にするのを止めた。
光の回廊に終わりが見えた結貴はワクワクしながら、イベントで見たグランポリスの広場を思い出していた。終点に着き視界が開ける。
「ついにキタゾー!!……あれ?」
両手を挙げて歓喜するが、そこにいつかの光景はなく、見渡す限り白い大地に地平線である。
「なにこれ?どこ此処?まさかラグでマップロードに失敗した?」
世界初のフィードバック型VRMMOであるため、運営側は膨大な通信量をそもそも想定していた。さらに、想定の2倍まで耐えられるマージンを取った専用量子暗号通信回線で、各施設を結んでいた。そのためラグなど全端末をフル稼働させても起き得ないのだ。
ならば一体何がノイズを引き起こしたのか。結貴は知る由もなかった。
ロードの失敗だと思っている結貴は、一旦ログアウトしてもう一度入り直してみようと考えていた。そんな時、少し離れた場所で光の粒が湧き上がりだした。
光の粒は集まり塊になると、1つの物体に変化した。
「フクロウ?にしてはでっかいな。」
現れたのは高さが1メートルくらいの大きさのフクロウだった。試しにターゲットしてみると、名前とHPバーが表示された。
ミネルヴァの梟(コピー) Lv-- (ACT)
「敵かよっ!しかもアクティブ!?レベルが棒なのはどうしてだっ」
結貴は慌てて自分を見直す。格好はいつの間にか浴場着から、綿のシャツ・綿のズボン・皮のサンダルになっていた。
「これゲームの初期装備か!?なら武器はっ。腰には剣ないぞ!?」
慌てて武器を探すが見当たらない。
インベントリに入っているのかと、インベントリと念じる。脳裏にPLインベントリの選択肢が浮かんだ。
「なるほど、クラフターになった場合はJBインベントリと2つ表示されて、開くのを選ぶわけか。」
PLインベントリを選択すると、目の前の空間にポケットのような切れ目が現れる。それに手を入れてみると、脳裏に中身の一覧が浮かんでくる。
「思ったものが引き出せるわけだな。……って空っぽじゃん!」
武器が自分の身にないことから、インベントリに入っていると思ったが、どうやら武器はないようだ。それどころか初期装備を買うお金もなかった。
「うそだろ!?普通ショートソードとかダガーとかあるんじゃ…。」
まさかの事態に困惑するが、フクロウは結貴を認識し動き始めてしまった。翼を広げ僅かな距離を飛んで来るフクロウ。
「くっ!まさか素手で倒せってか。」
飛んで来たフクロウを間一髪避ける。避けられたフクロウはすぐさま旋回に入り、再び向かってくる。
「飛んでる以上軌道は分かりやすいが、当たったらやばいだろうな。」
今度はすれ違い様に横っ腹にパンチをお見舞いする。HPゲージが多少減ったようだ。
「一応これでもダメージ入るんだな。でもこのペースだと時間かかりそうだな。」
フクロウから一撃もらうとどれだけHPが減るか分からない以上無理はできない。結貴は危なげなく避けられる場合にのみ攻撃をしていった。しばらく戦っていると、胴体より翼の方がダメージが大きいことに気づいた。
「翼は飛ぶために薄いからかな。」
それからは翼を狙うことにした。胴体を狙うときは翼や爪を気にする必要があったため、こちらの方が簡単だった。
「ここなら避けることを考える必要が少ない分、蹴りもできそうだな。」
何度か蹴りのタイミングを図りながらパンチを入れていく。しばらく様子を伺うと、蹴りを入れるのに最適な場面がやってきた。
「よし、ここだ!」
結貴は余裕を持って交差できる位置から、地面を踏みしめて後ろ回し蹴りを放った。その軌跡はフクロウの左翼上腕骨を打ち抜いた。
翼が折れ、飛行が困難になったフクロウが地面に不時着し転がった。今がチャンスとばかりに駆け込む勢いのまま、胴体にシュートを打ち込む。
立て続けに強力な蹴りを叩き込まれたミネルヴァの梟はHPを消失し、膨大な光を撒き散らして消滅した。
その跡には透き通った水色の宝石が嵌ったネックレスが落ちていた。とりあえず拾い上げてみる。
「ドロップアイテム?装備品が出たのかな。」
ミネルヴァの結晶:最大MP+300 魔力+50 詠唱速度+5% 全属性耐性+10
ユニークスキル『ジョブリンク(ACT)』
なんかスキル付きなんですけど…。
ふと、ドロップアイテムの説明を読んでいたら、急激な力の上昇を感じた。レベルが上がったみたいだ。
インベントリが念じたら出たのだから、ステータスも同じだろうと思い、念じてみる。
九条結貴 Lv08 [未設定]
ジョブリンク [未設定]
ファイター:Lv01 スカウト:Lv01 メイジ:Lv01 クラフター:Lv01
装備:綿のシャツ、綿のズボン、皮のサンダル、ミネルヴァの結晶
持ってる時点でもう装備してることになっていた。
「名前の横のレベルはプレイヤーレベルだよな、その横の未設定って一体。設定してない?…今の状態で設定してないのは…ジョブか?」
プレイヤーレベルが上がったのに、ジョブレベルが上がっていないことがそれを示していた。
「ジョブリンクの横に[未設定]ってあるな…名前から行くとここにもジョブを設定できそうだ。複数ジョブを使える可能性が高いな。こっちはスキルだし今から設定できるかも。」
ジョブリンクと念じると、脳裏に設定可能なジョブが一覧になって表示された。
「最初はとりあえずメインに戦闘職を設定するから、ジョブリンクに設定するのはクラフターか回復でメイジか…。いや、アクセサリーで魔法系が強化されているからメインをメイジにするべきか。」
街に行ったらメインのジョブをメイジにする可能性が高いことから、ジョブリンクにはクラフターを設定することにした。
九条結貴 Lv08 [未設定]
ジョブリンク [クラフター]
ファイター:Lv01 スカウト:Lv01 メイジ:Lv01 クラフター:Lv01
装備:綿のシャツ、綿のズボン、皮のサンダル、ミネルヴァの結晶
「とりあえずこれでいいか。おぉ?」
設定を終えた頃、結貴の体を光の帯が包み込む。転送のエフェクトだ。
こうして妙な空間へ来てしまった結貴は、本来のログインポイント、グランポリスポータル前へと送られた。