第20話 プレイヤースキル
4体目のグランゴブリンを倒した時点で、ハルカがLv3になった。ユウキのファイターはLv2になっている。
「Lvが上がったわ。パッシブスキルだけだけど3つ覚えたみたい。」
「軽装備マスタリと採取知識・採掘知識だな。」
「えぇ、これで見えるようにな‥‥。」
ログから目を上げたハルカが絶句し、硬直している。
ユウキは昨日の自分を思い出しながら、ハルカが衝撃から戻ってくるのを暖かい目で見守りながら待つ。
少ししてハルカが視線をユウキに移した。それに頷いておく。
「これってNPCもスキル取得したら同じように見えるのかしら?」
「どうだろう…ポップネームはおかしな現象になってしまうから、別の方法で選別できるようになってるかも。」
NPCの場合は、採取可能な素材が僅かに光って見えるのである。このパッシブスキルを取得した段階で、オプションの設定に採取・採掘設定が追加されている。選択肢はポップネーム・発光・両方である。
「あ…。」
「ん?どうしたの?」
「違和感無かったから気づかなかったが、俺今薬草の名前が見えてるな。」
「?クラフターも付けてるんだから当たり前でしょ。」
「いや、今はジョブリンクはファイターにしてるんだ。なのに見えてる…。」
ユウキは慌ててスキルを開き、自分の取得覧を確認する。そこには、メイジとクラフターのスキルが並んでいた。暗転もしていない。ファイターは現在Lv2なのでまだスキルは無い。
「これは…、ジョブを変えても取得したスキルは使えるって事なのか。」
「へぇ~、ラーニング型なのね。それともそれを含めてジョブリンクの能力なのかしら?」
「その可能性もあるか。ハルカ、ある程度クラフターのLvが上がったら転職してみないか?」
「良いわよ。製造だけじゃなく、戦力にもなれるなら試さないとね。」
てっきりそのジョブじゃないと、スキルは無効になるものだと思っていたが、思わぬ結果に早々に確かめた方が良いと考えた。
「じゃあ進もうか、先導頼む。」
「分かったわ。」
ゴブリンエリアはLvが低いにも係わらず、狩りをしているNPCの数が少ない。武器を持っていることや、知能を備えていることから、皆スライムエリアに行くのかもしれない。
その後はハルカが薬草を採取している最中、ユウキは離れ過ぎない程度の距離にいるゴブリンに近づき、魔法を撃ち込んでいた。
しばらくそんな狩りを続けていたら、少し風体の違うゴブリンが見えてきた。
「あれは?」
ユウキはターゲットしてみる。
グランゴブリンファイター Lv6 (PSV)
「上位種か。武器が棍棒から木剣になってるな。皮のようだけどそれよりも強固そうな鎧着てるし。」
「あれは…無制限重装備のブリガンダインアーマーね。」
「名前の通りファイター職なのか。」
2人は新しく見つけたゴブリンを、遠くから眺めながら分析している。装備は木剣とブリガンダインアーマーだけで、他の防具は着けていない様だ。
「鎧だけなら大した防御力じゃなさそうだな。まぁ魔法だし関係ないか。」
「魔法なら大丈夫でしょうね。ただ、物理攻撃する時は鎧を避けた方がいいかも。全体の防御力でダメージが決まるんじゃなく、どこを攻撃したかでダメージが決まるかもしれないわ。」
「それはありそうだな。でもそれを言ったら、俺達もどんな装備を整えても隙間を攻撃されたら危ないという事に…。」
「試してみましょうか?」
ハルカが木剣を構えて前に進もうとする。
ユウキはどうするか迷った。ハルカはまだLv4である。Lv差が少ないとはいえクラフターであるため、戦闘職のファイターとはそれ以上の差があるだろう。しかし調べなければならない事でもあると思っていた。ダメージの有効性を検証しなければ自分達も危機に陥るのだ。
悩んだが、ハルカが既に試す気になっているため任せる事にした。危なくなればヒールで援護も出来る事が決め手となった。
「じゃあ頼む。危なそうならヒールで援護するから。」
「任せて。」
ハルカはゴブリンファイターの動きを伺いながら近づいてゆく。10mくらいまで近づいた時、ゴブリンファイターがハルカに向かって駆け出した。ただのゴブリンよりも警戒エリアが広いようだ。
ハルカは一度止まり、剣を正面に向けて待ち構える。ゴブリンファイターは走りながら剣を振りかぶった。勢いそのままに叩き付ける気のようだ。
(ハルカじゃ受けても支えきれない!?)
ユウキは魔法で倒してしまうべきか悩んだ。このままでは頭か肩に致命的な攻撃を受ける危険性がある。
「大丈夫。やってみるからヒール掛け損なわないでよ?」
ユウキの逡巡を見越したハルカが声を掛けた。困惑しながらも、ユウキはターゲットをハルカに固定し状況を見守る。
ゴブリンファイターは最後の一歩を大きく踏み込み、力を乗せた剣を大きく振り下ろした。ハルカはゴブリンファイターが踏み込んだのを理解した瞬間、後ろに飛んでいた。ゴブリンファイターの一撃は、地面に突き刺さり土を掘り起こす。しかし、勢いのついたゴブリンファイターは止まらない。着地したハルカは直ぐに右斜め前に移動しながら剣を横に振り抜いた。
その剣はゴブリンファイターの鎧に当たり、その衝撃をハルカの手に返している。そのまま数歩駆け抜け距離を取ってから、ゴブリンファイターのHPを確認する。HPは20%ほど削れていた。
それを確認すると、次は剥き出しの腕を狙う事にする。ゴブリンファイターも体勢を立て直し、ハルカに向き直っている。今度は警戒してハルカの出方を伺っているようだ。
むしろ狙いやすいとばかりにハルカは接近し、僅かに遠い距離で踏み込んだ。ゴブリンファイターはその間合いの遠さに、笑いながらかわそうとする。だが、狙いは最初から腕である。剣の軌道を腕だけで変えて追随し、足に意識が行き剣を構えて固定されている腕を打ち据えた。今度は25%ほどHPが削れている。
「全防御力じゃなく、部位依存か…。」
ユウキはそれを確認すると、マナボルトでゴブリンファイターに止めを刺した。
「どうだった?」
ハルカがユウキの元に歩いて戻って来ながら聞いてくる。相手の動きに集中するため、HPは確認していなかったようだ。
「あぁ、鎧を打った時に20%くらい、腕を打った時に25%くらいのダメージだった。部位計算だな。厄介だ。」
「そう…。プレイヤー自身の戦闘技術が必要になるわね。」
「…そういえば、なんでハルカは紙一重な見切り戦闘してたんだ?ていうかなんで出来る。趣味は剣道か居合いな人ですか?」
最後は妙に敬語になっていた。
「え?あぁ…ここってバーチャルでしょ?脳の命令を送って動かしてるのよね。だから……イメトレは任せて!」
ハルカは運動が苦手な分、運動系の夢を見た時には嬉々として縦横無尽に遊び回っていた。このゲームは脳の信号をアバターに送って制御しているため、体を動かす感覚さえ完全に想起できれば、実際の肉体以上の動きが出来るのである。ただし、パラメータが許す限りではあるが。
「妄想が得意?もしかして腐女s「どりゃああぁ!!」ぐっふぉ。」
ハルカの跳び膝蹴りがユウキを襲う。はるるん事件同様に腹部に命中していた。
自分で言って、ちょっとこの言い方はなかったかなと思っていたハルカの反応は、先程の戦闘並みの速さだった。
「違うわよ!」
「違うのに…意味が…分かるのか。」
息も絶え絶えに追求するユウキ。
「違うけど。言葉は聞いた事があるわ。」
有名になったものだと思いながら、ユウキはしばらく座り込んで休んでいた。
7/1にルビの振り方を()から《》に変更しました。
ヘルプでは()はルビにも使用できますが、ルビにしたくない場合にお使いくださいと書かれていたので。