第17話 パーティー結成
朝、目を覚ました。
目の前には昨日見た筐体の蓋ではなく、石壁の天井があった。そのまま左右を確認する。
「戻ってない…か…。」
ゲームの中で意識を無くせば、セーフティーが働きログアウトする可能性を考えていた。しかし、それはなかったようだ。
しばらくそのままベッドでまどろみ、あやふやな意識でこれからどうするかを考える。
(これが事故なら救助に動いてるだろう……。しかし、意図的に行われた可能性も捨てるべきじゃない…。なら目的は実験?何の?
1つ目はフィードバックデータの収集分析か。
2つ目はAI用データと人の思考データの比較検証か?
3つ目はこの世界の秩序に基づいたプレイヤーの行動観察…か。
大体この3つくらいだな。なら、目的を設定してそれに向けて誘導するかもしれない。何が起きてもいいようにレベルと装備は上げておくべきか。)
考えが纏まると共に意識もはっきりしてくる。ユウキは起きると、食堂へ向かうことにした。
食堂は夜よりも空いていた。近隣の人は家で朝食を取るために減るのだろう。適当な席に着いた。
朝は軽めに食べたいが、魚の骨を避けながら身を解す作業をするほど気力は出ていない。夜にハルカが食べていたグラン鳥の唐揚げ定食を頼む事にした。
少しして、定食と飲み物が運ばれて来たため、食事を始める。すると、直にハルカが食堂へやって来た。ユウキを見つけたため、そのテーブルへやって来て座った。
「おはよう。早いのね。」
「おはよう。時間が分からないから早いかは知らないが、目が覚めたからな。」
「ん?時計はこの世界には無いみたいだけど、メニュー開けば見えるわよ。」
「メニューにシステム時計あったのか…。」
ユウキはメニューを開いてみる。枠の外右側にメニュー項目が縦に並んでいる。枠の中は空っぽだが項目を選ぶとそこに表示するのだろう。枠の上にバーのようなものがあり、そこに時計がデジタル表示されていた。
その間にハルカは給仕を呼んで注文していた。
「時計を表示するにはこのバーは広すぎるな。何か他にも表示されるのかな?」
「そうね。ありそうなのはメールの着信とかクエストの発生アイコンかしら?」
「メール…なるほどあるな。」
メニューの項目にメールがあるのを確かめる。それを選ぶと、枠内に受信箱・送信箱・登録帳のタブが上に付いたページが表示される。最初に開かれているのは受信箱だ。
「登録できるのか。ハルカ、登録していいか?」
「えぇ、いいわよ。」
登録帳のタブを選択し切り替えた。当然ながら誰も登録されていない。そこに追加・削除・編集ボタンがある。
追加を選択すると、対象をターゲットしてくださいと表示された。ハルカをターゲットして、再度追加を押す。今度は要請中と表示された。
ハルカはテーブルの中ほどに視線を落としている。登録申請が来たのだろう。
「ん。どう?登録できた?」
視線を上げると聞いてくる。
『三島遥歌』が登録されました。
表示が変わると、登録帳に三島遥歌の名前が表示されている。編集で表示名をハルカに変えた。登録情報は変えられないが、一覧の表示名は自由に変えられるようだ。
「あぁ、出来てる。そっちからの申請は?」
「どっちかが申請受諾したらお互いに登録されるのよ。」
「そうか。昨日はすぐに寝ちゃったから、メニューにある機能は時間があるときに調べた方がいいな。」
「?時間ならいくらでもあるじゃない。」
ハルカが何を言ってるんだこいつはという目で見てくる。確かに救助を待つなら時間はあるが…。
「それなんだが…。俺は事故だけでなく、故意の可能性も考えて行動しようと思う。」
「故意って…確かにその可能性も残ってるけど。何をする気なの?」
「故意だった場合は、俺達に何かしらの目標が設定されるはずだ。RPGだからこの場合はボスを倒せとか、ある場所に隠されているゲートを見つけろとかね。」
「なるほど…。生活する必要もあるし、装備は欲しいわね。丁度いいわ、パーティー組みましょう。」
ハルカは納得すると、メニューを操作してパーティー申請してきた。断る理由もないので受諾する。自分のステータスバーの下にハルカのステータスバーが追加された。
「それは構わないけど。いいのか?街で待ってなくて。」
「事態が動くのをじっと待ってるくらいなら、適当に遊ぶわ。」
「遊ぶって…。」
ユウキは呆気に取られるが、同時に1つの事に気づいた。
(そういえば、昨日狩りをするのは暢気な奴くらいと言ってたが、なんでハルカは冒険者ギルドにいたんだ?)
「そうか、昨日冒険者ギルドにいたのは暢気な奴だったからか。」
ユウキは温かい目でハルカを見守る。
「その顔腹立つわ。別に遊びたいからだけじゃないわよ。もうお金が無いの。朝食食べたらスッカラカンよ。」
少し高めの宿に2泊している。Lv2になるくらいしかモンスターを倒してない上、採取知識なしに薬草の収入に頼ってたのなら確かにないだろう。
そうこうしているとハルカの食事もやってきたので、一旦話はやめて食べる事にした。
食後、ゆったりしながらこれからの方針を決めることにした。
「それで、これからの行動だけど。ハルカのLv上げとお互いの装備を整えることにしよう。」
「私は助かるけど、いいの?」
「むしろ今日だけじゃなく、今後も一緒に行動して欲しい。」
「え!?」
ハルカが何やら慌てている。それをユウキは、
(適当に遊びながら待つハルカは、自分のペースは本意ではないんだろうな。)
と受け取り。対してハルカは、
(今後も一緒!?え!?それは何、相棒的なそれなの!?パーティーじゃなくパートナーなの!?)
と勘違いしていた。
「そ、それは構わないけど、勘違いしないでっ!飽く迄時間があればよ。」
「ん?あぁ、それで大丈夫だ。助かるよ。」
(え、あれ?あっさり引き下がった!?)
ハルカが何やら違うでしょとかブツブツ言っている。
それをユウキは今後の予定を立てているんだなと思い、終わるまで待っていた。
しばらくしてもユウキから何の行動もないと見たハルカは、釈然としないながらも諦めた。行動がないならと、直接聞いてみる事にした。
「そ、それで、一緒に行動するのはいいけど、どうしてなの?」
若干ドモリながら声が上ずっている。横を向いているのにチラチラ視線を向けていた。挙動不審にも程があった。
どうしたんだろうと訝しがりながら、ユウキは答えた。
「色々な場所に行くのならジョブもそれ相応の種類が必要だからな。ハルカはクラフター系列をやるんだろう?なら生産を任せたい。」
何でも無いことのように割り振りを決めるユウキに、ハルカは呆気に取られ、そして気づいた。自分がセリフを深読みして勘違いしていた事に。
「えぇ、いいわ。任せて。」
ユウキから見ると、ハルカはなぜか若干俯いて、声が低くなったように聞こえた。
「あぁ、頼んだ。……どうしたんだ?」
「なんでもないわ。こっちの事だから。そろそろ逝きましょうか。」
「あ、あぁ。それじゃあ行こう。」
ハルカから妙なプレッシャーと視線を感じるが、本能がそれに触れてはいけないと感じていた。背後に重圧を感じながら急いで食堂を後にした。
13話かけて1日目がやっと終わるような書き方していたことに自分で驚いております。1話辺りの文章量が少ないのもあるかと思いますが。
今後はある程度スムーズに進んで行くといいなと思っております。
とか言いながら朝食だけで1話なんですけどね。
おかげさまで日刊ランキング88位になりました。
まさか載るなんて…。その影響か2日でお気に入り登録数が倍になりました。
更新は不安定ですが、忘れた頃にお気に入り小説更新ログに出てきたら見るくらいで見守ってくださるとうれしいです。
感想は返信はしていませんが、読ませていただいてます。ありがとうございます。