第15話 夕食
「と、こういう流れで他の人達とはギルドで別れたのよ。」
ハルカは神殿からギルドで別れるまでの行動を説明した。
それはすべき事が決まっているため、ユウキとあまり変わらないものだった。
「そこでソロするのかよ。せめて武器買えるくらい稼ぐまでパーティーすればよかったじゃないか。」
「そ、それは!…だって…いやじゃない……。」
ハルカが何やらモジモジしている。
「何が?」
「私達キャラクターじゃなくて本人なのよ!?見ず知らずの人とパーティーってハードル高いわよ。」
「…そういえばそうだった。」
他のプレイヤーを見かけることも無く、NPCとモンスターだけを見ていたユウキは自分の姿を意識していなかった。自分が本来の姿をしている事を完全に忘れていた。
しかもある程度の感覚がプレイヤーにフィードバックされ、映像でさえHMDの網膜投影から脳への直接出力へ変わっている。
そんな状態で女性が気軽にパーティーを組めるわけもない。
「……ある程度?」
「どうしたの?」
「そうだ、感覚情報はある程度でしかないんだ!」
「行き成りどうし…あ、あぁ!!」
ハルカもユウキが言わんとしている事に気づいた。
「この世界が転移してしまった異世界なら、感覚だって本物のはずなんだ。」
「そうね!こんなに中途半端なわけないわ!」
「つまり、ここはゲームの中なんだ。ログアウト出来ないのはやっぱり事故だったって事になる。」
2人共その結論に至り、周りの事など考えずはしゃいでいた。
ハルカが叫んだ時点で周りの注目を集めていた。そして、その中にはプレイヤーも混ざっている。最後の会話を聞いた他のプレイヤーも内容を理解するに従って喜んでいた。
慌てて外に飛び出していくプレイヤーがいる。彼は隣の酒場に飛び込むのだろう。
「…でも待って?それじゃあどうして優待プレイヤーしかいないのかしら?」
「そればっかりはなぁ。俺達じゃ分からないんじゃないか?」
「そうね。異世界じゃない事が分かっただけでも収穫だし、いいか。」
最悪の可能性が無くなっただけでも満足だった。
その時、給仕が2人に向けて料理を持ってきた。丁度いいタイミングで出来上がったようだ。
「お待たせしました。こちら、ご注文の料理になります。お茶はすぐにお持ちしますね。」
「はい、ありがとうございます。」
ハルカもユウキもやたらニコニコしているため、給仕はそんなにお腹が減っていたのかと勘違いした。
先に料理を並べ、一度戻ってお茶を持って来た。
「追加のご注文があればお呼びください。それではごゆっくりどうぞ。」
一礼して給仕が去っていく。
「来た来た、それじゃあ食べよう!」
「えぇ、いただきます!」
ユウキは喜び勇んで焼き魚に箸を向ける。すると、
「……。ナニコレ?」
動きが止まった。
「…ギムリなんでしょ。」
「…ギムリだろうね…。」
そこには出目金のような目を出っ張らせた黒い魚が、口を開き歯を見せながら、コンガリ焼かれていた。その目は白く濁ってこちらを見ている。
「ふふっ。だから言ったのに。焼き魚なんて形が丸々残ってるような物頼むから。」
ハルカが不敵な笑みでユウキに言った。
「おぉぉぉぉ。」
ユウキは頭を抱え、激しく後悔している。
「メニューにあるんだから一般的な魚なんでしょ。食べてみれば?美味しいはずよ。」
ハルカは、ユウキを横目に自分が頼んだ四角く切られた唐揚げを頬張り始めた。
「くっ、食べますよ!いや~塩焼きはご飯が進むなぁ~。」
ユウキは白々しく言いながら覚悟を決め、食べる事にした。
「…美味い。臭みのない白身魚だ…。でもあんまり嬉しくない。」
「美味しいならよかったじゃない。」
釈然としない表情で食べ始めるユウキ。
ハルカは自分の料理を嬉々として食べながら、ユウキの反応を楽しんでいる。
「まったく、教えてくれてもいいだろう。」
ユウキは憮然としてハルカに抗議する。
「ギムリの焼魚定食は私も頼んだ事ないもの。知らないわ~。」
その抗議を軽く受け流しながら答える。
「でも、その魚ならまだマシね。」
ハルカは若干苦い顔をしながら、思い出したように言う。
「なんでだ?」
「昨日の夜みんな酒場に集まって話したって言ったじゃない?その時色々注文したのよ。そうしたら……ヤモリやクモの唐揚げっぽいものがあったのよ…丸々形を残して。」
「うわぁ……。」
「いくつもの料理を大人数で頼んだもんだから、どのメニューがそれなのか特定出来なくて。酒場で唐揚げっぽいものは頼めないわ。」
「ここじゃあシレっと唐揚げ定食頼んだくせに。」
「鳥って書いてあるもの。唐揚げなら形も残って無いだろうし。丸焼きとか姿焼きとか書かれてたら頼まないわね。」
重大な情報を得たユウキは、酒場では他の人の注文を盗み聞いて確認してからにしようと心に決めた。
実は、いくらなんでも日常的にそんなものを食べていたりはしない。その時出てきたのは、その後街に繰り出したりする人向けの料理なのだ。パーティーで稼いだ人がここからここまでという注文をやってしまったが故の悲劇だった。
食事を終えてしばらくゆっくりとする2人。
「そういえば、私の話はしたけどあなたの話はまだだったわね。」
「俺の話って…みんなとほとんど変わらないけど。」
「街での行動はね。でもあなたソロでLvがとんでもないことになってるじゃない。報酬額も。」
「あ!ちょっとストップ!」
ユウキが慌ててハルカを止める。その後周りを見回した。
プレイヤーらしき人達は、入って来た時に見た表情とは違い、晴れ晴れとしていた。そしてテーブルに多くの皿が並び食事中だった。
2人の会話を聞いて不安が和らいだために食欲が戻ったようだ。それ以上かもしれない。
「何よ?自分の事は話せないわけ?」
「そうじゃない。ただ…、他の人に聞かれるのはまずいかもしれない。」
神妙な顔をして話すユウキにハルカは怪訝な顔をした。
「なんでまずいのよ。…まさかGMですとか言うんじゃないでしょうね。」
「いや、違うけど。それくらいまずいかもしれない。」
「??なら私の部屋に行きましょう。それなら聞かれないでしょ。」
「え!?へっ部屋に!?」
ハルカの大胆な発言にドギマギするユウキ。
それを見たハルカは自分の言葉を思い出し考える。と、
「っ!?ちっ違うわよ!話をするのよ!部屋には追放機能があるから、変な事考えたら放り出すからね!」
「あっあぁ大丈夫。分かってる、心配ない。」
慌てて席を立ち、出口に向かうハルカ。ユウキは急いで後を追う。
受付で鍵を貰う時にまで言い訳をしていたので、女将さんに誤解され、それを否定するのにまた騒いでいた。