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トーラス工房まったり生活記  作者: 玖堂詩乃
第1章 世界の理
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第14話 プレイヤーの追憶2

「で、話を戻すと。広場で武器が無い事に気づいた後は、ジョブを貰いにみんなで神殿に行くことになったのよ。」


 突然現れた集団が広場で騒いだ後、ゾロゾロと神殿に向かった様は、さぞNPCに奇妙に映った事だろう。


「神殿に着いて、中に入ろうとしたら人がいたのよ。」

「神官のサナディアさんか?」

「えぇ。ということは今日も居たのね。他の人はいるのかしら。」

「まぁ普通に考えればいるんじゃないかな。」

「人と同じ行動が売りだものね。」


 納得した空気が流れた。


「それでそのサナディアさんが、入り口にいた私達に話しかけてきたのよ。」


---------------------------------------------

☆神殿にて☆


「皆さん大勢で、どうなさいましたか?」


 大所帯で押しかけたことに驚いた様子で、サナディアが話しかけた。


「あ、僕達はここにジョブを貰いに来たんですが……ここで貰えますよね?」


 流石にチュートリアルもなく、以前イベントで聞いただけの情報なので、出来るかどうか心配だった。


「はいそれでしたら、祭壇で祈りを捧げればお望みの祝福が与えられますよ。」


 その言葉にホッとした様子のプレイヤー達。

 しかし、そこで問題があった。


「そういえば、ジョブって何選んだらいいんだ?普通なら好きなものを選ぶんだろうけど、武器が無いならメイジ一択か?」

「あぁ~考えてなかったな。」

「魔法で攻撃出来ても壁いなきゃダメじゃない?」

「確かに、今の状態じゃソロで倒せるかも分かんないね。」


 本来なら操作に慣れるための初期に、アクティブやソロで倒すのが難しい敵はいない筈である。が、武器が無い状態では不安だった。


「ならパーティー組むか?どうせこのまま狩りに行くんだろう?」

「そうだな、強制的に全員メイジになるよりマシだろう。」

「じゃあ希望の職毎に別れて並ぶか。」


 インターバルが12時間あるので、パーティーを組んでから転職することにした。


「壁役ってファイターなんだろうけど、盾以前にまともな防具もないんだが、意味有るのか?」

「最初は意味ないんじゃない?メイジ以外は前衛で一括りでしょ。」

「じゃあどっちみちメイジが多いんじゃ。」

「育てないことにはどうしようもないから、好きなの選べば?」


 周りの人と相談しながら各々別れて列に並んでいく。

 神殿前はレイド討伐前のパーティーマッチング状態だった。

 通りかかってそれを目撃した人達は、城への討ち入りか魔王討伐かという目で呆然と眺めながら足早に去って行った。衛兵が飛んで来ないことを祈るばかりである。


「あ…あの、皆さん何を…。」


 神殿の前で大勢の人間が行き成り並びだしたことに、サナディアが動揺している。サナディアからは、道を歩きながらこちらを見ている人の表情が見えていた。


「あ、今ジョブ変更の準備してるので、もうちょっと待ってください。」

「はい?準備ですか??」


 ジョブを変更するだけなのに、何の準備が必要なのかとサナディアは更に混乱した。


 並び終わったところで、ファイター志望をリーダーとしてパーティーを組んでいった。パーティーの最大人数は6人のようだ。

 ゲームの宣伝上、クラフター志望が多く、前衛が3職なのでメイジはパーティーに1人という状態だ。

 

「メイジが足りなくなったな。」


 あと13人くらいというところで、メイジ志望が全員パーティー済みになった。

 みんな自分のやりたい職に正直だったようだ。

 その時、まだパーティーに入ってなかったハルカが言った。


「私は別にソロでいいわよ?のんびりやるつもりだったし。」


 その言葉にまだ残っていた何人かもソロでいいかと思ったようだ。


「そうか、それもあるな。前衛だけでパーティー組んでもいいし。既にパーティー組んでる人もソロのがいい場合は組み直してくれ。」


 その言葉によってガヤガヤと組み直しが始まった。


「ソロがいい人は先にジョブ変更して来てくれ。時間がかかりそうだ。」


 ハルカは列から抜けて神殿内に向かう。


「お邪魔します。」

「あ、はい!どうぞ。」


 事態の推移を見守っていたサナディアは、ハルカに声をかけられたため、慌てて応対した。

 サナディアの横を通って祭壇へ向かうハルカ。

 その時、サナディアはふと疑問を抱いた。


(ここでジョブを替えられる事を、知っていらっしゃるようでしたが、確認なさいましたね。

 以前に祝福を受けたことがないのかしら?でも、十代半ばの人からお年寄りまでいらっしゃるのに、そんな筈は…。)


 仕事をするには、冒険者にしろ商人にしろスキルが必要なので、NPCは親に連れられて10歳までにはジョブを得て、レベルを上げに行き始める。

 この年で神殿に行ったことが無い人などいないのである。

 ハルカの後姿を見つめながら考え込むサナディア。


 ハルカは祭壇の前に寄ると、どうしたものかと考えた。


(転職ってどうやるのかしら?司祭に話しかける訳じゃないみたいだし。…適当に試すしかないかな。)


 祈りを捧げるとサナディアが言っていたのを思い出し、手を胸の前で組んでみた。


(何も起きないわね…何か唱えるのかしら?

 アーメン。あぁ神よ。出でよ!申します申します。……ダメか。)


 祭壇で手を組み祈りを捧げているように見えるハルカを見て、サナディアは感心していた。


(よく分からない人達だけど、敬虔な心をお持ちなのね。)


 全く見当違いな事をしているのだが、サナディアには知る由も無く勘違いしていた。


(もーーー!なんで何も起きないのよ!ジョブチェンジしたいだ‥け…ナノニ。)


 お望み通りジョブ変更画面が脳裏に浮かんだ。


(キャンセル。ジョブチェンジ。キャンセル。ジョブ変更。)


 念じる都度その通りに脳裏の映像が変わる。

 ハルカは組んでいる手を降ろして、今すぐ逃げ出したかった。

 しかし、動揺してしまえば周りにバレてしまうので、さも粛々と変更が進んだように振舞うことにした。


(クラフター。…なるほど、そういうことね。

 メイジ。あれ?なんで魔法職なのに攻撃力まで上がってるの?攻撃力が下がって、魔力が上がるものなんじゃ。)


 変更後ステータス画面を見ながら試行錯誤し、ユウキと同じ疑問にぶつかる。


(まぁいっか。クラフター。確定。)


 上がる分には何も問題ないので、特に気にしない事にした。

 ハルカを祝福のエフェクトが包み込み、転職が完了した。

 それを後ろで順番を待っている他の人達が、勘違いしながら見ていた。


((ああすればいいのか。))


 なまじ最初にやってしまったがために、その後は男も女も関係なく手を胸の前に組んで転職していくことになった。

 サナディアは、今まで神殿の前で怪しげな事をしていた人達が、敬虔な信者のように祝福を受けるのを見て警戒を解いていた。

 ハルカが転職を終えて出て行こうとすると、サナディアが話しかけてきた。


「あの、お待ちください。」

「はい!?何か変な所ありましたか!?」


 不要な事をしていた意識があるハルカは狼狽した。


「変な所?とんでもありません!神殿には初めて来られたように見えますが、お手本のような御祈りでした!」

「え?そっそうですか?普通のつもりだったんですけどね。あ、あははは。」


 簡単に終わるようなことを、妙なポーズをして長々とやっていたように見えるのではないかと、ハルカは思ったが違ったようだ。


「確かに来たのは初めてですけどね!」

「まぁ、やっぱり。でもどうしてでしょう?お年寄りもいらっしゃるようですが、全員初めていらっしゃったのですか?」

「えぇ、みんなさっきログインしたばかりなので。」

「ログイン?」


 聞き慣れない言葉に疑問を返すサナディア。


(あぁ~もしかして、NPCってこの世界の住人としての知識しかない?)


「えっと、この世界にさっきやって来たばかり?という意味です。」

「この世界?……。」


 引っかかった単語に何やら考え込むサナディア。


「もしかしたら皆様は『冒険者』の方々でしょうか?」

「冒険者ですか?確かにこれから冒険はするつもりですけど。」

「『冒険者』というのは、伝承に残っております、異世界からやって来る方々の事なのです。」


(あぁ、そういう布石を打ってるのね。)


 ハルカは、NPCの社会にプレイヤーがすぐに溶け込めるよう、設定が用意されていたことにホッとした。


「はい、私達はその冒険者です。」

「まぁやっぱり!ではこの世界の事が分からず、お困りなのではないですか?」

「えぇ、色々想定外だったので困ってはいます。」

「では、私でよろしければお答えしますわ。」


 サナディアは伝承の存在が目の前にいる事と、それが敬虔な行動を取ったことで舞い上がっていた。

 ハルカは、これからの生活で必要になりそうなことを色々聞き、転職が終わって神殿の前に再集合したプレイヤーに説明した。


 その後、彼らはサナディアのアドバイスに従って冒険者ギルドへ向かい、各々狩りに別れた。

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