第13話 プレイヤーの追憶1
右に見える木製の扉を開いて食堂へ入った。
酒場の活気とは違い、こちらは談笑をしながら果実酒を飲むくらいの人が主のようだ。
食事時からは少し遅いかもしれないが、それでも多くの人で賑わっていた。宿泊客以外も利用できるそうなので、近隣の憩い場になっているのかもしれない。
プレイヤーもいたが、一人か数人で静かに食べていた。
席を見回すと、空いている所があった。
「あそこが空いてるな。注文はカウンター…じゃないな、ウェイトレス式か。」
「えぇ、少し高い宿だから給仕は備えてるわ。」
カウンターで注文し受け取る方式だと、席を確保しておく必要があるため、一人では注文し辛い。今は二人だが、今後の事を考えるとありがたかった。
「お金無いんじゃなかったのか?」
「必要経費よ。安い宿屋は…安いのよ…。」
ハルカが何やら遠い目をしながら呟いている。
まだ見たことはないが、耐え難かったらしい。流石に日本の中流層の生活環境は、世界的に高いレベルなので一定のラインは必要なようだ。
席に座りメニューを探す。厨房に出入りする入り口の横に品書きが貼られている。
「懐かしい…。」
「え?何が?」
ユウキがそれを見て思わず呟いた。
「あの品書きだよ。チェーン店だけでなく、個人店でも今は写真入りの電子ペーパーメニューだったりするだろ?」
「あぁ、そういうこと。でもどういう料理か名前だけ見ても分からないわよ。」
「幸い食材の名前は大きく違わないみたいだから、何とかなるんじゃないか?」
「試してみなさいな。」
ハルカが自身有り気に勧めてくる。
「注文はあの人を呼ぶんだよな。すみません、注文お願いします。」
ユウキが給仕に向かって手を挙げ呼ぶ。すぐにその人がやって来た。
「お待たせしました。ご注文を伺います。」
「ギムリの焼魚定食と、ホーロー鳥の串焼き、アスラ茶を。ハルカは?」
「グラン鳥の唐揚げ定食と、アスラ茶で。」
給仕は紙に注文を書き留めた。
「ギムリの焼魚定食、ホーロー鳥の串焼き、アスラ茶で、55Sになります。」
給仕はユウキの注文を復唱し代金を請求した。
会計は最後ということはなく、その場で支払うようだ。よく見るとレジのような会計場所は無い。
「銀貨なんですが、お釣りありますか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「では、これで。」
給仕に銀貨を渡す。給仕は服のポケットからお金を確認すると、お釣りを渡してきた。
「大銅貨4枚、銅貨5枚のお釣りになります。」
「はい、確かに。」
お釣りを受け取りインベントリに入れる。
「では続いてのご注文が、グラン鳥の唐揚げ定食と、アスラ茶で、45Sになります。」
ハルカはインベントリからお金を取り出そうとするが、動きが止まった。
「あ、私も銀貨だけど大丈夫かしら?」
「少々お待ちください。……。はいっ、大丈夫です。」
給仕はポケットのお金を確認している。あまり多くはポケットで持ち歩けないので、厨房に戻る都度減らしているのだろう。
「じゃあこれ。」
ハルカは給仕に銀貨を渡し、お釣りを受け取る。そのままインベントリに入れた。
「では、出来上がるまで少々お時間を頂きます。」
給仕は一礼し厨房へ向かった。
注文が一段落し、ユウキは待っている間何を話すべきか考えていた。
(流れで一緒に食事する事になったが、そもそもさっき会ったばかりだ。何を話せばいいんだ…。)
飲食店で相席いいですか?と聞かれ、相席することになった時のような気まずさが湧き上がっていた。プレイヤー同士である事や、事前に話しをしていた分まだマシだろうが。
「なんで行き成りヨソヨソしくなってるのよ。人のことはるるん言った癖に。」
バレていた。そして根に持っていた。
「あぁ、よく考えたらさっき会ったばかりなのに、なんで一緒に食事する事になってるんだろう。」
開き直ってぶっちゃける事にした。
「……。なんでだろう?」
ハルカも気づいたようだ。途端にソワソワし出した。からかいたくなってくる。
元々はハルカが声を掛けてきて、能天気呼ばわりしたのが始まりなのだが。
「ま、まあいいわ!とりあえず今の私達プレイヤーの現状について確認しましょう。」
「そうだな。何から確認する?」
「色々聞きたいことはあるけど、1日早くこっちに来ている私達の状況から言うわ。」
ハルカは姿勢を正して語りだした。
「ギルドでも大筋は話したけどね。私達は初日に次々とグランポリスのポータル周辺にログインしたの。そこでチュートリアルクエストを探したのだけど、見つからなくて。」
「あぁ、頭の上にアイコンもそれっぽい目印も見当たらなかったな。」
「チュートリアル無しなんてありえないわ。私達はイベントで神殿で転職する説明を受けたから分かったけど。システムの説明がなければ他の人は全く分からないのに。」
「そうだな。だがそれは、ここにいるプレイヤーが全員優待者だからということも考えられる。」
「事故じゃなくて、故意って事?ここはわざと独立しているサーバーで、一般参加者はチュートリアルのある別サーバーに接続しているって?」
「可能性はありえる。」
「……。まぁ口論したい訳じゃないから、可能性としては覚えておくわ。」
「それで、見つからなかったんだろ。どうしたんだ?」
「とりあえず他のゲームと一緒かなと思ってメニューと念じたのよ。そうしたらメニューが表示されたのね。
他の人は直接スキルやステータス、インベントリを開いているらしい人もいたわ。」
「そうしたら…、武器が無い事に気づいて声を上げた人がいて。それからは周りの人と確認して、全員持って無いことが分かったわ。」
「なんで無いんだろうな?」
「ミスだろうって事になったんだけど。生産系を宣伝してた事から、全部プレイヤーで作るためにそうしたんじゃないかって意見もあったわ。」
「全部って、防具はあるのに?」
「キャラクターじゃなくてプレイヤーの姿そのままだから。下着姿とかで放り出すのはまずいからじゃないかって。」
「…なるほど。でもそれじゃあ、お金稼いだらNPCから武器買えるじゃないか。」
「そうね。それで、後で店を確認したんだけど、この街の武具店にはやっぱり色々なランクの装備が揃ってたのよ。」
「ランクってLv制限のことか?」
「えぇ。店主のNPCに聞いたらクラフターの鍛冶スキルにLvがあって、それに対応したものまで作れるみたい。Lv制限はその鍛冶スキルのLvに対応してるって。Lv1は無制限、Lv2は制限Lv10、Lv4は制限Lv20ってなるらしいわ。」
「Lv3が抜けたぞ。」
「間に1つ挟むみたい。Lv3は制限Lv10のアイテムの上品質が、たまに出来るようになるって。Lv2だとどれだけやっても普通のしか出来ないらしいわ。」
「なるほど。鍛冶スキルについては良く分かったけど、結局装備は普通に売られてたんだな?」
「えぇ、だから結論としてミスだろうって事になったの。その結論が出たのは昨日の夜なんだけどね。」
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九条結貴 Lv10 [メイジ]
ジョブリンク [クラフター]
ファイター:Lv01 スカウト:Lv01 メイジ:Lv08 クラフター:Lv08
お金: 0(BG) 0(G) 5(BS) 5(S) 8(BB) 5(B)
三島遥歌 Lv02 [クラフター]
ファイター:Lv01 スカウト:Lv01 メイジ:Lv01 クラフター:Lv02
お金: 0(BG) 0(G) 0(BS) 0(S) 7(BB) 5(B)