第11話 初めてのプレイヤー
精算が終わり、受け皿のお金をインベントリに放り込む。その時だった。
放り込んだお金が枠に収まらず消えてしまった。
「ちょっ!?」
慌てるユウキ。目の前の空間に手を突っ込みかき回している。
「どうしたんですか?」
シェリスが不思議そうな顔で聞いてきた。
「いや、お金が消えて!なんで!?」
「えぇ!?」
シェリスも慌てだした。
その時だった。休憩室の方から声が飛んで来た。
「インベントリの枠の外、下の方を見なさい。」
誰が声を掛けたのか確認する間もなく、意識を集中させる。
(枠の外。下の方。)
意識を枠の外に向けると、アイテムが入っていた枠の列と行は、別の枠に収まっていた。
外側の枠の上の方には『PLインベントリ』と書かれていた。
(これは‥ウィンドウだったのか。)
意識を今度は下に向けると、そこには各硬貨の絵と枚数が表示されていた。
「あったーーー!」
思わず叫ぶユウキ。
パチパチパチパチパチと、周りから拍手が寄せられる。
「よかったですね。」
「いやいや、お騒がせしました。ど~も、ど~も。」
声をかけたシェリスに答えると、周りにお辞儀する。
そして教えてくれた人を探そうとするが、ここからでは見えなかった。
「では、私はこれで。」
シェリスに断り休憩室に向かおうとする。
「もう無茶な事はしないでくださいよ!」
よほど心配をかけたのだろう、最後まで念を押してくる。
「そ‥それと!私別に背は高くないと思います!」
最初の失態を覚えていたようだ。別に背のことを言ったわけではないのだが。レベルを見られていたとは思っていないようだ。
(もしかしてレベルまでは見えないんだろうか。でもサナディアさんはメイジに転職したことに気づいたしなぁ。)
プレイヤーとNPCでは見え方が違っていた、というより本来は見えないのだ。そもそもターゲット自体ない。サナディアがメイジになった事に気づいたのは、多くの人の転職を見てきたことで、微妙な祝福の光の差異を経験則で見抜いたからだった。
「え‥えぇ、そうですね。あ、モウ オレ イカナイトっそれじゃあ!」
慌てて窓口から離れる。
シェリスは文句を言おうとしたが、次の人が進んだため仕事に渋々戻った。
「ふぅ、焦った。俺の方がもう忘れてたのに。」
願わくば明日会うときには忘れてますように。と念じつつ、休憩室へ向かう。
キョロキョロと辺りを探す必要もなく、同じ声の人がユウキに近づきながら話しかけてきた。
「貴方プレイヤーでしょう。とんでもなく目立ってたわよ。」
呆れた表情でそう話しかけて来たのは、背中の中頃まであるストレートの黒髪の女だった。
(プレイヤー?冒険者じゃなくそう呼ぶのは…。)
ユウキは目の前の女をターゲットする。
三島遥歌 Lv2 (クラフター Lv2)
(やっぱりか、初めて見た。)
ついに自分以外のプレイヤーに遭遇したユウキだった。
「あぁ、冒険者じゃなくプレイヤーって聞くって事は、君もプレイヤーだね。」
「えぇ、そうよ。」
「さっきは助かったよ。意識を枠の外に向けないといけないなんて思わなかった。」
「みんなそこに引っかかったのよ。直感的にアイテムを引き出せる弊害でしょうね。」
「なるほどな。それにしても初めてプレイヤーに会ったよ。」
「初めて?もしかして貴方、今日ログインしたの?」
「あぁ、当たり前だろ?今日サービス開始したんだから。」
「え?何を言ってるの?開始日は昨日よ?」
「へ?そんな筈ないだろ?3月1日って公式に書いてあったぞ。」
「だから昨日じゃない。」
「へ?……あ、もしかして閏年か?公式が今年閏年なの忘れてて2月29日に始めちゃった的な。」
「違うわよ。昨日3月1日だったでしょ。」
「……いや、それは今日だろ。」
堂々巡りをする会話。何かがすれ違っている。
ユウキは今日が3月1日だと言い、ハルカは昨日だったと言う。
「どういうことだ?今日は朝にログインして、神殿と冒険者ギルドに行った後狩りに出たんだ。それで夕暮れまで狩りをして帰ってきて、今ここだ。このゲームの1日は現実では2日ってことなのか?」
「…違うわ。私を含め、数十人のプレイヤーはゲームの世界で2日目なの。」
「俺は施設の開場と共にログインしたんだぞ。それじゃあまるで俺が1日行方不明だったみたいじゃな‥い……。」
「その通りよ。あなたが開始と共にログインしたのなら、1日足りないの。その様子だと心当たりがあるみたいね。」
「一つ聞くが、君が最初にログインした時、真っ白な妙な空間に最初来たか?」
「そんな妙な所には行ってないわ。ログインしたらグランポリスのポータル前よ。」
(あのノイズか!?ただのエラーとかイベントじゃなかったのか?)
ユウキは自分が何か妙な事に巻き込まれている不安に苛まれていた。
「なるほど。だから貴方のほほんと狩りなんてしてたのね。」
「?狩りしてたら何か問題があるのか?」
「今、プレイヤーで暢気に狩りをするのは貴方位よ。もしくはただの廃人ね。」
「何でだよ?」
「ログアウト。試して御覧なさい。」
その言葉に背筋が冷たくなってくる。
既に頭では意味を理解しているが、心がそれを拒絶している。
インベントリやステータスは開いていたが、今までメニューに類するものを開こうとした事は無かった。
それを激しく後悔していた。
(…っメニュー!)
脳裏にメニュー画面が現れ、インベントリやステータス、スキルなど、今まで直接開いていた名前が、一覧になって現れた。
しかし、一番下のログアウトは暗くなっていた。
(…ログアウト。)
何も起きない。ログアウトまでの待機時間がログに出ることもなく、全くの無反応である。
意識をハルカに戻す。
「…どういう…ことだ?」
「それが分かったら私達はみんなここにいないわね。」
「つまり、ログインした人間が全員ここに閉じ込められてるってことだな。」
「そうね、全員かどうかは知らないけど。」
「数十人て言ったな、俺がログインした施設だけでも50台以上あるんだぞ。施設の数や一つ辺りの設置数を考えると2万人以上いるはずだ。」
「どこにいるのかしらね。そんなにいたら街中ですれ違うわよ。NPCより多いんじゃない?」
「……。」
「それについては分かってるわ。」
「何?」
「昨日集まって散々話し合ったもの。この世界にいるプレイヤーは恐らく全員優待者よ。あなたもなんじゃない?」
「…あぁ、そうだ。」
頭を抱えるユウキ。そして、一般参加者と別になった部屋を思い出していた。
(まさか一般参加者を隠れ蓑にした集団拉致?いや、ログアウトできなきゃ帰宅しないんだからすぐにバレる。)
一瞬人体実験が頭をよぎるが、すぐにそれを否定した。
「貴方の今日の行動は分かったわ。私達の昨日の行動そのものね。」
「プレイヤーに今まで遭遇しなかったのは…。」
「そう、みんな出歩くような心境じゃないのよ。宿屋に篭ってるか、酒場で集まって黄昏てるわね。」
その光景がクッキリと浮かんだ。
西側はお金が出来てから行くつもりだったために、今まで遭遇しなかったのだ。
そして、自分がこれから何をしたらいいのか、どうすべきなのかも考えられなかった。
ヒロインと遭遇のはずなのですが、なぜかデスゲームの香りがして参りました。
おかしいな…まったり生活のはずなのに。