第10話 無謀な冒険者
南門からだったので直に冒険者ギルドに着いた。
こちらは朝同様結構人がいるようだ。朝に依頼を請けた人が精算に来ているのだろう。
ユウキは窓口の列に並んでしばらく順番を待つ。周りの人達は背負い袋や籠に今日の成果を入れて持っていた。
そんな中、手ぶらで並んでいるユウキはやはり目立った。周りからジロジロとお使いの報告か?という目で見られていた。武器を持っていないことも、街中での依頼をこなしただろう想像に一役買っていた。
ようやく自分の番が来る。
窓口にいたのは朝に登録してくれた人だった。そういえば名前知らなかったなと、名前を確認してみた。
シェリス Lv18 [クラフター Lv15]
「ぶっ!高っ!?」
「いらっsy え!?え!?何!?」
思わず噴出してしまい、シェリスを狼狽させてしまった。
「あ、あぁいえこっちの事なので気にしないでください。ちょっと待ってくださいね。」
慌ててインベントリを開き、ギルドカードを取り出す。それを受付に出した。
「何なんですか一体?」
シェリスはギルドカードを受け取り、情報を表示する。
「あ、今朝登録された人じゃないですか。どうでした?薬草見つかりました?」
朝の妙な笑みを貼り付けて聞いてきた。
「くっ、そういうことか。」
初心者には見つけるのが難しいことを見越していたからだったようだ。
きっと登録したばかりの初心者は、モンスターを倒すより薬草を探す方が簡単だと考えて、皆同じ目に会うのだろう。物が手に入ってから請け負えばいいので、この洗礼を通ったら誰も事前に申請しないのかもしれない。
「えぇ、なんとかそれなりに採ることができましたよ。」
「そうですか。それはすごいじゃないですか。」
強がりと受け取ったようだ。恐らく虚勢を張る者も多いのだろう。
2・3個くらいは採れたのかなと思っているに違いない。
シェリスは手元のギルドカードから依頼内容を確認する。
「完了された依頼は、グランスライム討伐、グランウルフ討伐ですね。……ウルフ?」
シェリスが信じられない物を見たような目でユウキを見てきた。
「えぇ、他にもあるので今出しますね。」
ユウキはインベントリからドーラの花38個、ピール草43個を取り出した。
受付に薬草が積み上がっていく。
「……」
シェリスも並んでる人達も他の受付員の人まで、動きを止めてこちらを見ている。
「請け負った依頼はこれで全部ですね。ただ、他の薬草も手に入ったので、追加で請けたいのですが。」
「……」
「あの、シェリスさん?」
「…え?あ、は‥い。依頼完了ですね。追加というのはどれでしょう?」
「これなんですけど。」
ユウキはリームの花19個、パルメラ草24個を受付に置いた。
シェリスの顔が引き攣っている。よく見ると他の受付の人も引き攣っていた。周りは見ないようにしよう。
「あの、ユウキさん。」
シェリスはギルドカードに表示されている名前を呼んだ。
「はい?」
「グランウルフの討伐が完了しているので、まさかとは思ったんですけど…。森に入られました?」
「え?えぇ、薬草が平原より有りそうでしたので。」
「お一人でですか?」
「?はい、一人しかいないですね。パーティー組める知り合いもいないですし。」
「……」
節操に包まれていたギルド内がいつの間にか静寂に変わっていた。
「なんて危ないことするんですか!森はモンスターのテリトリーですよっ!?パーティーでも常に警戒しないと危ないのに!」
思いっきり怒られた。
「もちろん!音や気配を逃さないように慎重に入りましたよ!」
嘘だった。
薬草に釣られてホイホイ収穫してたら、奥まで入ってしまって囲まれてたなんて言えない。
「慎重とかそういう問題じゃないんです!一人で入ることが問題なんです!」
お説教が続きそうだったので、ユウキは急いで話題を変えることにした。
「シェリスさん!!ほら!他の人も待ってますし、精算したいんですけど!」
その声にハッとなったのか、シェリスだけでなく他の受付員も動き出した。
「むむ~。言いたい事は色々あるんですけど、追加の依頼は薬草2種類ですね。」
「はい。」
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依頼内容
グランスライム討伐 10体 100S
グランゴブリン討伐 10体 150S
グランウルフ討伐 10体 200S
ドーラの花採取 1個 30S
リームの花採取 1個 30S
ピール草採取 1個 30S
パルメラ草採取 1個 30S
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ギルドカード情報
ユウキ [F]
グランスライム 34
グランゴブリン 0
グランウルフ 15
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「スライムが100Sx3、ウルフが200S、ドーラの花が30Sx38、リームの花が30Sx19、ピール草が30Sx43、パルメラ草が30Sx24 で4220Sです。」
計算が速い、確認すると受付の人は皆クラフター系の職のようだ。
その結果を暗算スキルで自分でも確認する。
「はい、合ってます。」
「では大銀貨4枚、銀貨2枚、大銅貨2枚で、こちらになります。」
シェリスは受け皿に硬貨を置いて差し出す。
そしてギルドカードに何やら念じる。カードが光って情報が更新されたようだ。
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ギルドカード情報
ユウキ [E]
グランスライム 4
グランゴブリン 0
グランウルフ 5
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「ポイントが必要量貯まりましたのでランクがEになりました。」
(ポイントでランクが上がるのか。でも載ってないな、請ける依頼が偏ると困るからだろうか。)
「あと、モンスターからのドロップを買い取って欲しいのですが。」
「少々お待ちください。今ここを片付けますので。」
一人では無理なのだろう、手伝いを呼んで種類ごとに箱に収めて運んでいく。
少しすると戻ってきた。
「お待たせしました。」
「いえいえ、じゃあ出しますね。」
ユウキはインベントリからスライムの粘液34個、ウルフの毛皮15個を取り出して積み上げた。
その時、毛皮が1個だけ別枠に入っているのに気づいた。
「あれ?なんだろ。」
その毛皮を取り出して置く。並べて見ると、他の毛皮とは毛並みや色が少し違うようだ。
それを見たシェリスさんがまたも目を丸くして固まっていた。
「ユウキさん…。それ…。」
「なんだか他のと違いますね。」
魔狼の毛皮:魔法に対する抵抗力を宿した毛皮。
レアっぽかった。
「その毛皮はグランウルフリーダーという変異種の物ですよ!たくさんのウルフを従えていて、10人くらいのパーティーじゃないと全滅しかねないんです!」
「いやいや、そんな大げさな。」
「普通の毛皮が15個……まさかこれ単体で狩ったんじゃなくて、リーダーの群れに襲われたんですか!?そもそもリーダーの群れなんて森のかなり奥を縄張りにしてるんですよ?慎重に進んだって言ってましたよね!?」
一発でバレていた。
既に周囲の人達は、何この人ヤダワーという顔をしていた。
「ん?んん~?群れ?ちょっとウルフに襲われるのが多いかなとは思いましたが、群れに狙われてましたか。ハッハッハ参りましたね~。」
「笑い事じゃないですよ!よく生きてましたね!」
「まぁ何とか。紙一重的に。」
そこは正直だった。
あまりの事態に、長くなることを見越したユウキの列の最後尾に近い人達は、別の列に既に並び直していた。
「今日登録したばかりなのにあなたって人は!」
「あの、シェリスさん…。買い取りなんですけど。」
「くっ!スライムの粘液は30S、ウルフの毛皮は60S、その毛皮は150Sで買い取りますよ!」
(ふむふむ、150Sか。さっきの報告でかなり入ったし、魔法耐性付きの防具の材料になりそうだから取っておくか。)
「じゃあこの毛皮以外をお願いします。」
ユウキは魔狼の毛皮をインベントリに仕舞った。
「スライムの粘液30Sx34、ウルフの毛皮60Sx15 で1920Sです。」
「はい。」
シェリスは受け皿に、更に大銀貨1枚、銀貨9枚、大銅貨2枚を置く。
合計 大銀貨5、銀貨11、大銅貨4 が置かれている。
「銀貨が11枚あるので大銀貨に両替しましょうか?」
「いえ、このままで大丈夫です。」
買い物する必要があることを考えると、両替するより細かい方が使いやすいだろうと考え断った。
全部で6140S、結構な金額になったようだ。