9話 無線機
戦闘シーン以外だと書きづらいですね(汗)
翌日、朝。この日は物資調達は行わず、避難所内で久しぶりに休暇を取ることになっている。疲労が溜まっていることを考慮されたのだ。六花は今頃、ベッドで寝ていることだろう。
零は修理を終えた無線機を持ち、佐倉のもとへ向かう。休暇を貰えたのは零も同じなのだが、無線機の報告は早い方がいいと考え、この空き時間を有効活用するのだ。
佐倉の部屋は基地の最深部にある。多少なりと他の部屋よりは広いが、絵画などの私物が持ち込まれているせいか、あまり広くは感じない。
「失礼します」
「零くんじゃないか、どうしたのかな? 今日は休暇だと聞いたが」
零は無線機を見せることで返事をする。佐倉は驚いたように目を見開き、すぐにいつものニヤリとした表情に戻る。
「無線機か! いやあ、よくやってくれた」
零を誉めながら、佐倉は無線機を受けとる。少し見回したあと零に返し、何かを考えるように腕を組んだ。多少の間を置き、佐倉は顔を上げる。
「今から始めるとしよう。私は扱いがわからないから、君がやってくれるかな?」
「わかりました」
零が無線機をいじる。ノイズ音が聞こえるだけで、人の声らしいものは聞こえない。ゆっくりと調節しながら人を探すが、十分ほど経過しても見つかることはなかった。
佐倉が腕を組んで考え込む。生き残りを見つけるには、やはり時間がかかるのだろう。交代で無線機を使わせようと考え、電源に手を伸ばす。ちょうど手を添えた辺りで、無線機の音に変化が現れた。
ノイズが強いのは変わらないが、何やら人の声のようなものが聞こえる。ノイズを軽減すると、やがてそれは鮮明に聞こえてきた。
「こちら臨時都市。食料、生活用品、魔族対策、すべてが揃っている。聞こえているなら、応答を願いたい」
無線機から聞こえたのは、多少疲れ気味な中年くらいの男性の声だった。恐らく、ずっとこの呼び掛けをしていたのだろう。本人は意識していないのだろうが、疲労がこちらにまで伝わってくるようだ。
無線機を佐倉に渡す。彼は頷いて無線機を受けとると、一度咳払いをしてから通信を入れる。
「こちらは避難所。臨時都市、応答してくれ」
ややぎこちない話し方だが、佐倉は相手に応答を求める。
「こちら臨時都市。生き残りがいてよかった! 人数と状況を教えてもらいたい」
相手は興奮気味に返事をする。
「人数は約五十人、負傷者が二人。地下に穴を掘り、避難所にしている。物資は十分ではないが、辛うじて足りている」
佐倉は冷静に対応をする。こういったところは、流石は市長と言うべきだろう。
「了解。こちらと合流できないだろうか? こちら総人口約一万人、物資は有り余っている」
一万人という数に零は驚く。あれだけの襲撃を受けて、一万人も生き残っているとは。条件も悪くはないが、無線機を握る佐倉は、どこか浮かない表情をしていた。
「合流はまだ出来ない。負傷者の回復及び周囲の安全を確保しなければならない」
「こちらから人を送ることも出来る。どうだろうか?」
佐倉は何かを渋るように、返答を出来ずにいた。理由はわからないが、零が見た限りでは、渋る理由など見当たらない。
佐倉に目を向けると、彼は仕方ないといった様子で返事をした。
「了解。どれくらいかかるだろうか?」
「無線機の発信元から位置は特定した。一週間とかからないだろう」
佐倉は通信を終えると、疲れたようにため息を吐く。零は、何か引っ掛かると感じながらも見当もつかなかった。