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56話 利己主義者

 扉が強く開け放たれる。

 視界に広がるのは白だった。ここまで通ってきた場所とは違い、装飾すら省かれた広い大部屋には二人の人物がいた。

 一人は、ウォーライクの技術者である菊島。もう一人はウォーライクの創設者である黒木だった。

 二人は零の到着を見て驚きの表情を浮かべていた。

「何故だ……何故ここにコイツがいる!」

 黒木が叫ぶように言う。顔はみるみるうちに赤く茹で上がり、禿げ上がった頭の天辺まで赤く染まった。

「菊島ぁ! これはどういうことだ、早く説明しろ!」

「落ち着いてください、黒木社長」

「この状況で落ち着いていられるか! もうここまで来ているのだぞ!」

 激昂する黒木に対し菊島は侮蔑の目を向けるが、黒木は冷静さを欠いているせいか、気付かない。

「どうやら、こちら側の防衛についた者はほぼ全滅したようです。じきに如月に殲滅されるでしょう。臨時都市に差し向けた魔物共もかなり数を減らしているようです」

 報告を聞けば聞くほど、黒木の怒りは高まっていく。

「黒江は奥間と同士討ちになり、慶吾は臨時都市側に寝返りました。臨時都市に差し向けた魔物が壊滅状態なのはそのせいかと思われます」

「ああ、クソ! 使えない無能共が!」

 怒りをぶつける相手もおらず、黒木は菊島にあたる。

「お前が無能だから失敗した! そうだ、お前のせいだ!」

「わ、私は最善を尽くした!」

「嘘を言うな無能が! 貴様などクビだ、さっさと視界から消え失せろ!」

「なっ……」

 菊島の顔が青ざめていく。

「もうウォーライクは終わりだ! これも全て、無能な部下共のせいだ!」

 喚く黒木に目もくれず、菊島は体を振るわせる。そして、何かが壊れたように笑い出した。

「く、くくく……くはははは……はは、ははははははははははは!」

 大部屋の中で、菊島の笑いだけが響く。その異様さに幾分か冷静さを取り戻した黒木が菊島を凝視する。

「き、菊島……?」

 黒木はどうした? と問おうとしたが、その言葉は遮られた。菊島の手が黒木の胸を貫いていたからだ。

「ぐぅ……ぶはっ!」

 菊島が手を引き抜くと、黒木は口から大量の血を吐いて倒れた。既に絶命しているらしく、力なくその場に倒れたまま動かない。

 返り血で赤く染まる菊島の手には、黒い光が走っていた。

 有り得ないはずの、黒い光。光というには禍々しすぎるそれは、輝く闇と形容する方が正しく思えた。

 辺りを包む殺意の奔流はやがて、零へと向けられる。

「もう、終わりだ」

 零が言うと、菊島は笑う。

「ああ、そうだ。終わりだ。これで、たとえ私が勝ったとしても、味方はいないわけだ」

 その言葉とは逆に、菊島の目は力を持っていた。

「だが、まだ終わらない。私は死にたくないからな」

「あれだけの人を殺めて、まだ生きられると思っているのか?」

「そうは思わない。だが、それでも死にたくはない。だから……まだ、あらがわせてもらおう!」

 刹那、菊島の体を走っていた闇が輝きを増し、菊島の体から放たれる。

「もともとここで待ちかまえていたのはこうするのが目的だった。ここなら、思う存分暴れられるだろう?」

 やはりか、と零は思った。障害物も無く、戦うにはうってつけの場所だった。

「鳴神零。お前の能力値(パラメーター)は既に把握している。今のお前では私に致命傷は与えられない」

「なら、試してみるか?――魔力解放(フルバースト)!」

 零の体を走る赤い光が輝きを増し、光は左手に持つ魔導銃へ流れ込む。限界まで込められた魔力を一気に解放した。

 魔導銃から放たれた赤い閃光は菊島の体を捉える。が、それは菊島の体を貫くことなく止められてしまう。

「思ったよりは効いたが……こんなものか」

 直撃してなお平然としている菊島に、零は絶句する。自身の攻撃が通らないのでは戦いにならない。

「今度はこちらの番だ――杭撃(パイルショット)

 菊島の周囲に杭を象った闇が無数に形成され、零を襲う。

「くっ!」

 その速さと数に圧倒され、零は致命傷となる

位置に飛んできた杭のみを刀で防ぐ。何回も杭が体を抉るが、動けなくなるほどの傷ではなかった。

 攻撃を耐えきった零に菊島が追撃をかける。

 振りかぶられた拳を刀で弾く。実際は切り落とすために手首に当てたのだが、魔力で強化された菊島相手ではわずかに切り傷を残すだけで終わる。

「痛いな。その刀は私が作ったものではないな」

「ああ、お前より遙かに優秀な奴が作った魔導具だ」

「そんな紛い物など、へし折ってやる」

 菊島が再び拳を振りかぶるが、隙が大きい。菊島は技術者としては一流だったが、戦闘の経験はないらしく、零は性能差を戦闘技術で埋めて応戦する。

「クソ、やはり戦闘技術では劣るか……」

 一度間合いを取り、菊島が呟く。

 菊島は何度も同じ攻撃を繰り返していたため、零に攻撃を見切られ、上手くカウンターを入れられていた。

 明らかに消耗してきた菊島はぜえぜえと息を吐き、肩は上下している。

 浅い傷だがかなりの回数を受けているため、菊島は体中から血を流していた。

 零は余裕そうに振る舞うが、菊島以上に消耗していた。

「諦めろ。抵抗しなければ、楽に逝けるぞ?」

「ま、まだだ!」

 菊島は拳を振り上げる。怒りが力となったのか、鋭い一撃が零の腹部を貫いた。

「ぐ、あああああ!」

 痛みを堪え、零は刀を全力で菊島の胸に突き立てる。至近距離で放たれた一撃は、違うことなく菊島の心臓を貫いた。

「あ、あああ……」

 自らの死を悟った菊島の顔から血の気が引いていく。そして、呟いた。

「死にたくない……死にたくない……死にたくない……」

 多くの者に死を与えた技術者は、己に帰ってきた死を拒むように何度も呟き、そして、その言葉は途切れた。

 菊島の死を見届けた零はその場に倒れ込む。

 敢えて菊島の攻撃を受けることで、逆に至近距離からの強力なカウンターを食らわせる。既に体力の限界が来ていた零は、それをやらなければ菊島を倒せないと判断したのだ。

 腹部からドクドクと血が流れていき、意識が遠のいていく。

(死なないと約束した……まだ死ぬわけには……)

 六花の顔を浮かべながら、零は意識を手放した。


バッドエンドじゃないですよ~

まだ続きます。

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