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50話 真実

 夜千夏と別れた零と翔はウォーライク本社の地下へ降りた。

 そこは白を基調とした造りになっており、技術の高さを感じさせる。ウォーライクの技術を注ぎ込んで作られたこの地下施設は、臨時都市の技術を上回っていた。

「懐かしいモンだな。まさか、ここに攻め込むことになるとはなあ……」

 翔が呟く。

 現在、二人は地下一階に居る。辺りを軽く見回してみても、とくに見回りの兵士がいるわけでもなく、やけに静かだった。

 その異様なまでの静けさに、これは罠なのではないかと二人は警戒する。地上ではあれだけの戦力が現れたのだから、地下の守りが薄いとは考えにくい。

 零は辺りを見回すと、一瞬、考えるそぶりを見せてから頷いた。

「手分けして捜索する。お前は左側を頼む」

「りょうかーい」

 零の指示を聞き、翔がやる気無さげに返事をして、ふらふらと歩いていく。

 零は右回りに、翔は左回りに捜索を始めた。

 目的はウォーライク本社の技術者の抹殺及び機材の破壊、最終的にウォーライクの社長である黒木の抹殺だ。ウォーライクを完全に再起不能にすることで完全な勝利を得るためだ。

 あらかじめ水野からは「ウォーライクの人間に情けは必要ない」と言われている。要するに、生き残りを出す必要はないということだ。

 その理由は単純で、報復を防ぐためだ。二人としても、あれだけの被害をもたらした人間に情けをかけるつもりは微塵もないためとくに問題は無かった。

 地下一階の地形は回廊になっており、相当な規模ではあるが、道は一本になっているため迷うことはない。捜索を終えたら階段付近で合流し、次の階へ向かう予定となっている。

 二人で手分けして探すのにはメリットもあるが、デメリットもあった。

 メリットは時間の短縮だ。少しでも早く臨時都市に帰らなければ、たとえウォーライクを再起不能にしたとして帰る場所がなくなってしまう。

 現在は蝶花が奮闘しているが、一人では守りきれないだろう。彼女が時間を稼いでいる間に、少しでも早く帰らなければならない。

 デメリットは危険度の上昇だ。いかに二人が強いとはいえ、ウォーライク側にも魔道具はあるのだから、勝てるかと聞かれれば五分五分だろう。

 もし魔道具を持つ人間を二人同時に相手をしなければならない状況になれば、必ずとまではいかないが、勝ち目は無いだろう。

 メリットとデメリットの釣り合いを考えた上で、二人は手分けして捜索することを選んだ。

 零は部屋を片っ端から覗いていく。部屋にある資料類や機械類を使用不可能にしてから次の部屋に向かう。

 今のところ敵と出会ってはいない。不自然なまでの静けさが零の心を焦らせた。

 零は次の部屋の扉に手をかけた。危険は感じなかったが、そこにはそれ以外の何かあると、零の第六感が告げていた。

 扉を開けると、そこは研究室だった。様々な器具が散乱しており、資料なども散らばっている。それはどう見ても、誰かが暴れた後であるかのようだった。

 零は部屋の中を捜索する。しかし、部屋の中にあるのは実験等のデータばかりで、とくに目につくものは見当たらなかった。

(思い違いだったか……?)

 部屋の捜索を終えて資料類を処理しようと魔導銃を構えたときに、ふと、一冊のノートに目がいった。“研究日誌”と書かれたそれは、ウォーライクの技術者である菊島要一のものだった。

 零はそれを手に取ると適当なページを開く。そこには、零たちにも知らされていなかった情報が書かれていた。



『2042年、1月10日』

 就職初日である今日はウォーライク本社を見て回った。やはりこの会社は素晴らしい! あらゆる設備が揃っているし、人手も不足していない。ここなら、私の夢であった武器開発がいくらでも出来る。この会社を選んで正解だったようだ。



『2042年、1月25日』

 この世界には魔道具というものが存在するらしい。実際に見たことはないが、科学の力では解明出来ないほど難しい問題らしい。ならば、私が解明してやろうじゃないか。



『2042年、5月4日』

 ついに魔道具が手に入った。調べてみたが、これは戦国時代に作られたものらしい。出土した場所はちょうど、桶狭間の戦いがあった場所だ。かの信長も魔道具を使っていたということか。価値も知らずに渡してくれた方には感謝してもしきれないな。



『2043年、3月13日』

 魔道具の仕組みが少しわかってきた気がする。おそらく、刻み込まれている印は何か文字の一種なのだろう。しかし、解読するには複雑すぎる。かなりの時間を要するだろう。



『2045年、4月7日』

 ようやく文字が解読出来た。まさか二年もかかるとは思わなかったが、私はまだ若い。武器開発の時間は十分に残っているはずだ。これから魔道具の複製を試みようと思う。



『2045年、5月2日』

 試行錯誤の末、ようやく複製に成功した。これは大きな進歩だ。使用してみたが、とくに異常も感じられない。身体中に力がみなぎってくる感覚があり、私でも五十キロのバーベルを軽々と持ち上げられた。これは素晴らしい!



『2045年、6月24日』

 実験中に、いきなり視界が切り替わった。何かと思ったが、どうやら私は瞬間移動をしていたらしい。こんなことまで可能だとは思わなかった。偶然とはいえ、素晴らしい発見だ。それから、私はこの魔道具作成の技術を魔印技術(マギテクニカ)と呼ぶことに決めた。近々、論文も出そうかと考えている。



『2045年、6月27日』

 今日は黒木社長に呼び出された。何事かと思ったら、私に魔印技術(マギテクニカ)を外部に漏らさないようにとのことだった。論文を出せないのは少し残念だが、軍事会社なのだから、このような技術は秘匿したいだろう。給料も上がるようだし、悪い話ではない。



『2045年、9月4日』

 再び黒木社長に呼び出された。今回は違った用件で、私に生体実験をしろと言ってきた。私としても次の段階に進みたかったため、その提案を受け入れた。



『2046年、2月2日』

 ついに生体実験が成功した。犬に狂暴性と知性を与えてやったら、化け物のようになってしまったのだが……愛らしいチワワが巨大なケルベロスになってしまったのは驚きだ。神話に出てくるような生き物は、もしかしたら魔印技術(マギテクニカ)の産物なのかもしれない。もう少し改良の余地があるだろう。



『2047年、5月8日』

 実験体の数がかなり増えてきた。魔印技術(マギテクニカ)によって産み出されたため、魔物と呼ぶことにしよう。そろそろ数を減らさなければならないか。



『2047年、5月10日』

 失敗した。ただの重火器を持った人間では、魔物には勝てず、死者が大量に出てしまった。数を減らすには実用化された魔道具を使うしかないようだが、まだあれは使い勝手が悪い。使用者に適正が必要なようだ。近々、魔道具の使い手を探そうと思う。



『2047年、5月26日』

 魔道具を扱えるものが集まった。あまり普通の人間には見えないが、とりあえずは六人集まった。彼らに魔物の掃除を任せよう。



『2048年、3月9日』

 また黒木社長に呼び出された。あの人とはあまり話したくない。どうにも態度が気に入らないからだ。今回の提案はあり得ないものだった。人体実験をしろと言われた。道徳的に無理だと言い返したかったが、今まで動物たちを殺してきた私にはそれを言えなかった。



『2048年、5月20日』

 ついに人体実験が成功してしまった。いや、失敗かもしれない。三体の被験者は皆自我を失い、破壊の限りを尽くした。彼らは魔物よりも遥かに強力な力を持っていたが、知性だけは無いらしい。私は彼らを魔族と呼ぶことに決めた。



『2048年、9月11日』

 何だか最近は体調が悪い。食欲も失せ、大分窶れてきたように思える。やはり、人体実験は精神衛生上良くないようだ。必死に抵抗して叫ぶ彼らを見ていると、自分が恐ろしい存在のように思えてきた。いや、事実そうなのだろう。しかし、もう後戻りは出来ない。



『2048年、10月25日』

 奇跡だ。私は奇跡を目の当たりにした。ついに自我を持った魔族を産み出した。いや、人間と呼んだ方がいいだろうか。被験者は大分若返って小学生ほどの女の子になってしまったのは予想外だったが。彼女も魔道具を持たせた六人の中に加えようと思う。これで戦力は七人となった。



『2049年、4月21日』

 何か騒がしいと思ったら、実験体が逃げ出したらしい。これはマズイと思ったが、事態は収拾出来そうにない。黒木社長には隠蔽する手段を用意しろと言われた。とりあえずは空を黒いフィルターで隠して、人ならぬものの仕業としよう。これで、世界は永遠に夜となるわけだ。



『2049年、6月23日』

 いきなり実験用の人間が増えた。黒木曰く、あの惨事から生き延びた人たちだそうだ。そんな彼らを実験に使う彼の気が知れない。彼らを連れて来させられた兵士たちも、かなり病んでいるように見えた。彼らも苦しんでいるのだろう。そのせいか、兵士のうち、二割ほどが逃げ出した。魔道具を与えた7人も、その半数以上となる4人が消えてしまった。



『2049年、12月27日』

 どうやら、ウォーライク本社の近くに集落が出来たらしい。まだ小さな規模だが、徐々に数を増やしていっている。黒木は規模が大きくなったら捕まえようと考えているらしい。



『2050年、5月26日』

 彼らの集落の発展は予想以上の速さで進んでいる。もしかしたら、私よりも優秀な技術者がいるのではないかと疑ってしまうくらいだ。悔しいが、否定するには私は未熟すぎる。



『2050年、11月2日』

 黒木は馬鹿なのか? もはや、あの集落はこちらに対抗しうる力をつけてしまった。戦うならば、こちらにも多大な被害が出るだろう。負ける可能性だって大いにある。あちら側の動きは私の部下に窺わせているが、明らかにあちらの方が上手だ。物量差で負けないとは思うが、念のため妨害でもしておくべきだろう。



 パラパラとめくり、おおよその内容を把握した零はため息をついた。自分の想像を遥かに上回る惨状に頭を抱える。

 とくに欲しい情報はなかったが、ウォーライク側の情勢を把握することは出来た。

 そして、魔族をすべて排除するには菊島の技術が必要になるかもしれないということに気付いた。

 零は研究日誌を魔道具で撃ち抜き、読めないようにしてから部屋を出た。


毎回これぐらいの文字数で更新出来れば良いのですが……

頑張ります。

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