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48話 防衛(1)

 臨時都市では防衛の準備が進められていた。敵の到着までの間に設備を整え、出来る限り時間を稼ぐのが目的だ。

 無論、防衛出来ればそれに越したことはないのだが、今の臨時都市にはそこまでの戦力はなかった。

 現在、臨時都市の住民は皆、中央の地下にあるシェルターに集められている。名簿によって管理されているため、誰が居て誰が居ないかというのがすぐにわかるようになっている。

 臨時都市の住民は現在、二万五千人ほどにまで増えている。それを避難させるためのシェルターを一瞬にして作り上げたのは東條だった。

 彼は持ちうる全ての知識を総動員してこのシェルターを作り上げた。彼の脳に浮かび上がった内容を見て、それを理解出来る人間は世界中に十人と居ないだろう。それも今となっては、生き残っているかすら怪しい状態だ。

 そんな彼が作り上げたシェルターは地下に何層にも広がっている。しかし、一度入れば一方通行のため、もし魔物がここまで到着したならば、中に居る人たちの命は無いだろう。

 零たちが帰ってくるまで持ちこたえられればいい。たったそれだけの事なのだが、如何せん、今の臨時都市には戦力が不足していた。

 シェルターの構造は単純なもので、巨大な穴を開け、それぞれの層を仕切る鉄の足場を作っただけである。それ自体も橋を幾つも架けたような足場になっており、実質的に見れば、一層のみの構成だ。

 中には十分とは言えないまでも最低限の物資は揃っており、少なくとも一週間は生きていけるだけの食料も確保してある。

 もともとここは臨時都市の食料生産ラインだった。これも東條が作り上げたもので、本人も「昔ならば勲章物でした」と自負するほどの出来らしい。

 現在はその機能を停止して臨時都市の防衛にあてている。臨時都市を囲む防壁の上には固定砲台が設置されている。固定砲台は強力なもので、一撃の威力ならば夜千夏の大鎌をも上回るだろう。魔道具に出来るほどの強度にはならなかったが、東條の技術によって、魔族に対抗できるだけの威力は確保されている。

 しかし、固定砲台は魔道具ではないため、エネルギー源は電力依存となってしまっている。そのために食料生産ラインを停止させているのだ。

 シェルター内ではすでに集まった住人たちで賑わっているが、そこに六花の姿は無かった。




「南側に敵の集団を確認!」

 周囲に伝わるように、見張り役の男は声を上げた。その声を聞いた兵士たちは武器を構えた。

 静かに、しかし、確実にこちらへ向かってくる魔物を見て、皆が恐怖に囚われる。自分は今日死ぬかもしれない、そんな恐怖が兵士たちの士気を下げていた。

 この作戦の目的はあくまで時間稼ぎだ。それを伝えられているからこそ、皆の士気は低い。どれだけ強力な武器を渡されようと、勝てない戦いなのは変わらない。そんな暗い雰囲気に包まれた状態では、必要時間の半分も持たないだろう。

(まったく、こんなときに怯えるとは。これでは防衛どころではないではないか)

 そんな状況に危機感を覚えた蝶花は皆の士気を鼓舞する方法を考える。

 魔物はやがて射程距離に入ってきた。それを返り討ちにしようと皆が銃を乱射するが、外れるばかりでほとんど倒せていなかった。

 そのミスに焦り、さらにミスを呼ぶ。射てば射つほど追い込まれていき、兵士たちは顔を青くしていた。

(ええい、もうよい! 妾が敵を倒せば良いのじゃ!)

 この状況に痺れを切らした蝶花は体に橙色の光を走らせて一気に飛び出していく。兵士たちはそれに驚くも、止めはしなかった。彼女が現状を打破してくれるかもしれないと、無責任な思い込みをしていた。

 蝶花は周囲に無数の光球を発生させ、それを敵の集団に撃ち込んだ。

 刹那、大きな炸裂音を響かせながら橙色の光が弾けた。幾つもの橙色の光が暗闇の中で弾ける光景は、空に咲き誇る花火のごとく、鮮やかなものだった。

「綺麗だ……」

 兵士の誰かが呟いた。その言葉をスイッチに、皆が歓声を上げ始める。

 暗闇の中で弾ける橙色の光。その中で舞うように戦う、着物を着た黒髪の女の子。その美しさと暖かさが、死にかけていた皆の心を潤した。

 そして、兵士たちは気付く。彼女だけに任せてはならないと。自分たちにも出来ることはあると、それをやらなければと武器を構えた。

 蝶花が後ろを振り返ると、兵士たちが武器を構えて歓声を上げていた。当人には何があったのかはわからなかったが、士気が上がったことを蝶花は喜んだ。

 押し寄せる魔物の波は、徐々に勢いを緩めていった。


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