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47話 慶吾

「オラァ!」

 先手を取ったのは慶吾だった。鎖を持った手を後ろに引き、力任せに前方へ放つ。単純ではあるが、魔道具の力によって強化された体から放たれた鎖は零の銃と同等ほどの速さを持っていた。

 しかし動きが単純なせいか、夜千夏は軽く体を揺らすだけで躱してみせた。だが、慶吾の攻撃は終わらなかった。

 夜千夏が躱すと同時に鎖を力ずくで引き戻す。真っ直ぐ伸びていた鎖が今度は波打ちながら夜千夏の背後を襲う。

 夜千夏はその物理法則を無視した攻撃に驚きつつも大鎌を盾にして防いだ。

 慶吾は舌打ちをする。

「チッ! 流石に効かねえか」

「なかなか良い技じゃない。あの威力の攻撃を無理矢理引き戻すだなんて、どれだけ馬鹿力なのよ」

 夜千夏は平然を装うが、引き戻された鎖の威力が想像以上だったため、その衝撃で手が痺れていた。手をブラブラとさせて回復させようとするが、周囲の戦闘員たちがそれを許さない。

 飛び交う光弾を躱すだけでもかなりの集中力を要する。さらに、慶吾の物理法則を無視した鎖が襲ってくるのだから、息をつく暇はなかった。

「ほらほら、どうした? 躱してばかりだと戦いにならねえんだがな」

「そうかしら?」

 夜千夏は挑発的に口の端を吊り上げた。その表情からは余裕の色が感じ取れた。

 飛び交う必殺の攻撃の中で、最初は辛うじて躱していたはずの夜千夏だが、いつの間にか簡単に躱すようになっていた。

「な、何で当たんねえんだよ!」

「こんな粗末な攻撃が私に当たるわけないじゃない」

 夜千夏の動きは完全に場を把握していた。敵を見据えるその目は光っていた。

「単調でつまらないわね。もう飽きたから、終わりにしましょう?」

 夜千夏は大鎌を大きく薙ぎ払う。その軌跡をたどるように現れた光の刃は慶吾の周りに居た戦闘員たちの体を二つに切り裂いた。

 しかし、慶吾だけは飛び上がって躱した。

「く、くそがあああああ!」

 慶吾の体に走っていた光の輝きが増す。同時に大きなプレッシャーを感じ、夜千夏は体が重くなったような錯覚に囚われる。

 明らかに、今の慶吾は先ほどよりも強化されていた。目の前にいるだけでその殺気に押し潰されてしまいそうになる。

「ぶっ潰してやる!」

 狂戦士と呼ぶのが相応しい、攻撃の連打。鎖をさらに速く、さらに予測しづらい動きをさせながら夜千夏に襲いかかった。

「あら、怒らせちゃったかしら?」

「オラァ!」

 夜千夏の言葉に聞く耳も立てず、慶吾は最大威力で鎖を放つ。ここで止めを刺すつもりなのだろう。

 しかし、不意に夜千夏の姿が消え、慶吾は戸惑う。それが瞬間移動だと気付く頃には、彼の腕は切り落とされていた。力強く握っていたためか、彼の両腕は鎖と共に飛んでいった。

「バカな……嘘だろ?」

 無くなった腕を見つめ、慶吾は呟く。

「これは現実よ」

 冷たい声色で夜千夏は呟く。慶吾の顔は青ざめていた。

「そう……だよなあ。そんな都合良くはねえよな……死にたくねえよ……」

「人を殺しておいて、生きられるわけないじゃない」

 夜千夏が大鎌を構える。慶吾は抵抗しようとはしなかった。

「こっちにつけば生きてられると思ったんだがなあ……昔から運が悪すぎるっての……」

「こっち側についていれば、生きられたかもしれないわね」

「くそ、ミスったなあ……」

 慶吾は自分の選択を悔やんだ。強大な力を持つウォーライク側につけば、死ぬことはないだろうと踏んでいたからだ。

「そうだ、気を付けた方が良いぜ?」

「何が?」

「ウォーライクはお前たちが持ってるのよりも強い魔道具を持っている。俺たちのが試作品なら、あっちは完成品だろうな」

「そう……」

「ほらよ、殺るなら早くしてくれ」

 慶吾は首を切りやすいように体勢を変える。しかし、夜千夏は殺そうとはしなかった。

「……何の真似だ?」

 慶吾が気づいたときには、自分の両腕と鎖を夜千夏が持って来ていた。先ほどの瞬間移動を使ったのだろうと慶吾は考えた。

 そして、夜千夏は指にはめていた指輪を差し出した。

「これは自然治癒力を高める指輪よ。傷が塞がったら私たちの拠点を守りなさい」

「チッ! しゃあねえな」

 慶吾は夜千夏に腕をつけてもらい、指輪をはめる。すると、傷が塞がっていくのが感覚的にわかるほど早く回復していく。

「私はもう行くわよ? しっかりやれば無罪放免ってことにしてあげるわ」

「そりゃ、ありがてえな」

 ウォーライクの中へ入っていく夜千夏を見送りながら、慶吾は呟く。

「気を付けろよ」


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