4話 調達班
翌日。目を覚ました六花は、手早く着替えを済ませる。寝癖の付いた髪を手櫛で整えると、部屋を出た。
昨日のことを思い出す。自分を庇ったために命を落としたのだ。石井と桜井が生きていたことは喜ばしいが、残りの2人は、もうこの世界にはいない。
仲間が囮になって死にんでしまった。偶然通りがかった零に助けられたために六花は助かったが、死んでしまった2人はもういない。そして今日は、その2人の弔いをする。
集会所に着く。静まり返った集会所は、葬式という言葉の物々しさを感じさせる。六花が最後だったらしく、彼女の到着を確認すると、一人の男が前に出た。
「皆さん、おはようございます」
そう言うと、そこから男は話を始めた。若干小太りな彼は、かつてこの地域の自治会長だったらしい。彼は佐倉という名前で、この地域で生まれた者なら誰もが知る存在だ。六花も、あまり詳しくは知らないが、聞いたことがある名だった。
彼は若干長めの演説を終えると、深呼吸をしてから少し間を空け、「黙祷」とだけ言った。
今、避難所兼基地であるここには、お経を唱えられる者もいなければ、聖書を読める者もいない。唯一出来る弔いなだけに、皆は真剣に死者の冥福を祈る。
まだ安静にしなければならないものの、多少なりと怪我が良くなった石井と桜井も参加している。現状では、1人の死が一億人の死と同等以上の意味を持っている。避難所には約50人ほどしかいないため、それだけ人手を失うのは痛いだろう。
辺りが静寂に包まれる。六花も精一杯に祈り、自分を救ってくれた彼らに感謝の意を伝える。もし彼らが居なかったならば、今、自分は死んでいただろう。
1分ほどの黙祷を終えると、佐倉は手を叩いて皆の注意を集める。自分に視線が向いていることを確認すると、彼は再び口を開いた。
「私たちは今、生きなければならない。そして、そのためには食料が必要なのです」
葬儀を終えると、あっさりと話が切り替わってしまった。確かに重要な話題ではあるが、今でなくても良いような気がした。若干不満を抱きつつ、六花は耳を傾ける。
「しかし、残念ながら今、物資調達が人数不足で出来なくなってしまったのです。そこで、誰かに代役をやってもらいたい。誰か、立候補するものはいませんか?」
自分は行かないとばかりに、他人の挙手を促す。自治会長だった頃の感覚がまだ抜けないのか、あたかも自分がリーダーであるかのように佐倉は振る舞う。
死者が出るような危険なことを、いくら善良な人でも進んでやることは出来ないだろう。それぞれが顔を見合わせて困惑している中、一人の男が手を挙げた。
「俺が行こう」
零だった。彼は、何の迷いも無い表情で堂々と立候補をした。確かに、零なら魔族を相手にしても生き残れるだろう。しかし、何かの拍子に失敗してしまい、なんてこともあり得なくはない。
そんな彼が心配で、六花は彼に続くように即座に手を挙げた。
「零くん……だったかな? それと六花ちゃん」
佐倉は二人を交互に見ると、満足そうに頷いた。
「なんて勇気がある若者なんでしょう! 他の皆さんも、彼らを見習ったらどうです?」
揶揄するように言うが、皆はやはり手を挙げなかった。仕方ないと言えば仕方ないが、もう少し協力してくれても良いのでは? そんな不満を抱く。
「仕方ありませんね。では、彼ら二人に任せましょう」
佐倉はあっさりと、六花と零の二人に押し付けた。他の大人たちが拍手をする姿が、六花には気味悪く思えた。石井や桜井のような人もいるのだが、六花にはそれが少数派のように思えてしょうがなかった。
佐倉は再び手を鳴らして注目を集めると、「解散」とだけ言った。
2人では圧倒的に効率が悪くなってしまう。石井と桜井の怪我が治るまで、相当な重労働になるだろう。
不安を抱く六花に、零が歩み寄ってきた。彼も回りの大人に不満を持っているのか、目付きがいつもより鋭い気がした。
「六花。お前は周囲の警戒をやってくれればそれで良い。荷物は俺が持つ」
また周囲の警戒をするのかと、六花は多少残念に思いつつ、同時に安堵する。敵にさえ気づければ、零があのときのように倒してくれる。心強い仲間ができたことで、六花は気分がよかった。
「はいっ!」
こうして、2人は調達班となった。