34話 到着
暗闇の中を二つの光が駆けていた。人間には到底たどり着けるはずのない速度で突き進む光だが、正体は人間だった。零と夜千夏である。
臨時都市を飛び出し、二人は目的地へ向かっていた。位置は明確ではなく、ある程度の方角がわかっている程度の情報しか持っていない。
目的は六花の奪還だ。水野から何者かに拐われたとの知らせを受けたとき、零は表情こそ変えなかったが、内心ではかなり焦っていた。
毎日家にいて、自分を暖かく迎えてくれる存在。その六花がいないというのはこれほどまでに心配になるのかと、零は困惑する。焦りと不安が入り乱れた心の中は形容することの出来ない感覚だった。
道中は安全だと二人は考える。以前に廃工場で殲滅したために魔物は現れない、そう考えていた二人だったが、予想は外れてしまう。
「あら、手厚い歓迎じゃない」
大鎌を構えた夜千夏が目を輝かせる。彼女の見据える先には、数十体くらいの魔物が待ち構えていた。
零が武器を構えようとすると、不意に、夜千夏の姿が消えた。視界に写っていたはずの夜千夏が消えたのだ。前方を見据えると、すでに夜千夏が交戦を開始していた。
なるほど、と、零は納得する。廃工場で手に入れた瞬間移動のネックレスを使ったのだ。人工の魔道具ではない、正真正銘の魔道具、純正魔道具を使ったのだ。その性能は高く、夜千夏を指定位置に正確に送り届けた。距離は三十メートルほどだ。
零が手を出す間もなく、夜千夏はすべてを片付けてしまった。すでに魔物の姿はなく、辺りには原型をとどめていない肉片が散らばっているだけだ。
本人は何事もなかったかのようにこちらに戻ってきた。顔は少しだけ上気している。
「行くわよ」
「ああ」
再び移動を開始する。先ほどの襲撃の規模から想定するに、あれは間違いなく敵の使いだろう。二人の進行を阻むために配置されたと考えれば自然だ。
ならば、魔物を使わした存在は何者なのだろうかと、 零は疑問に思う。魔物を使わしてくるからには魔族だろうと思うが、ならばなぜ、カメラに写った人間は誰だったのかと、疑問に思った。
しばらく走り続けると、前方に大きな建物が見えてきた。家というよりは屋敷といった方が適切な、相当な広さを誇る建物だった。多少荒んでいるものの原型は留めており、廃墟の中でこの屋敷だけが無事だったようだ。周囲は警備の魔物がたくさんいる。
「ここか」
「そうね」
短い会話を交わす。所々に魔物に混じって人間が警備をしていた。なぜ人間が魔物に襲われないのか、二人には理解が出来ない。こちらの存在を認識した魔物たちは一斉に飛び出してきた。もちろん、人間も一緒だ。
零は刀を右手に構え、銃を左手に構える。敵の様子をうかがいながら深呼吸をして――
「はっ!」
一気に飛び出した。銃で魔物を射ちつつ刀で凪ぎ払う。数の差はあれど、零の戦闘能力は一騎当千。殲滅するにはほとんど時間がかからない。
右へ左へと縦横無尽に駆ける刀は円を描くような滑らかな剣閃を描いた。その隙を補うように銃から光が放たる。
夜千夏は零の戦いを見て驚く。以前よりも身のこなしが良くなり、隙がなくなった。乱戦の中で人間だけうまく殺さずに立ち回ることが出来るのは流石は零といったところだろう。
戦いが終わると、零は生き残った人間を見る。動けないようにロープで縛ってあり、屋敷での戦いを終えてから回収する予定だ。
彼らは怪しげな装備を見に纏っており、零と同様に光を打ち出す銃を持っていた。銃は怪しい光が走っている。
「ウォーライクの戦闘部隊じゃない。なぜこんなところにいるのかしら?」
「さあな」
昔、零と夜千夏に人工の魔道具を作り与えた存在がウォーライクだ。その戦闘部隊が関わっているならば、背後にウォーライクがいるのだろうか。
そう考えると、この魔物たちはウォーライクが操っていることになってしまう。そんなことはあってはならないと零は考えを振り払う。黒幕がウォーライクであろうとなかろうと、魔物や人間を操る技術があるというのは非常に危険だ。ならば、自分たちで破壊するしかない。
「嫌なものね。人間まで操るなんて普通じゃないわ」
夜千夏が嫌悪感を露にする。もし黒幕のみが自分の意思で動き、他の者は皆操られているのだとしたら、非常に戦いづらい。魔物が相手ならばともかく、人間が相手となると厄介だ。
「行くぞ」
零は屋敷の扉に手をかける。武器を構え、二人は中へ飛び込んでいった。




