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33話 覚悟

「ん……」

 六花は目を覚ます。いつの間に寝てしまったのかと戸惑いつつ、辺りを見回す。

 六花がいる部屋は薄暗く、箱がいくつも積み重ねられていた。しかし細かいところまで掃除されているところを見ると、物置とは違うようだった。

 近くにあった箱を開けてみる。そこにはたくさんの缶詰めが詰まっており、恐らくここは倉庫だろうと六花は考えた。

 明かりは黄色い光がぼんやりと照らしているだけで、視界は悪い。目を覚ましたばかりの六花には壁が見えず、視界いっぱいに箱が並んでいるだけだ。

「ここは……どこなの?」

 頭が冴えてきた六花はようやく異変に気づいた。自分はいつの間にか知らないところへ迷い込んでしまったのかと、六花は心配になる。

 とにかく、止まっていても何も変わらない。六花は行動が第一だと考えて歩き出す。

 歩けば歩くほど六花の頭が混乱してきた。箱が大量に並んでいる、途方もない広さの倉庫だ。どれだけ進んでも同じところを通っているような錯覚に囚われる。しかし、しばらくして、六花は気づいた。

「さっき、私はこの道を通ったような……」

 明らかに広すぎる、六花はそう感じて箱の一つを開けたままにしておき、進む。案の定、再びその箱と出会った。

 どうやら、無限回廊ならぬ無限倉庫に囚われてしまったらしいと六花は考えた。ならば、零たちが使っているような魔道具があるはずだと予想し、捜索を開始した。五分ほど探すと、なにやら赤く光る石を見つけた。

「これが原因……だよね?」

 誰かに問いかけるように呟くが、返事はない。六花が石を手に取ると、徐々に光が弱くなり、普通の石に戻った。綺麗な円形をしており、六花はそれを気に入ってポケットへしまった。

 部屋にかけてあった仕掛けが解け、倉庫が狭まっていく。変化が収まると部屋は普通の倉庫に戻った。すぐ近くにはドアもある。

 六花はドアに手をかける。しかし、鍵がかかっているらしく、開きそうもなかった。他に出来ることもないので、六花は脚を抱え込んで部屋の角に座った。

 なぜこんなところにいるのだろう? 六花は疑問に思い、記憶を辿る。暇潰しに散歩に出掛け、中央を見ていた。そのときに誰かとぶつかってしまった。

「松崎さん……?」

 口にするが、少し前まで近くにいた松崎はいない。彼が自分を連れてくるはずがないと、六花は考えを振り払う。短い間だったが会話を交わし、いい人だと六花は感じた。その松崎が自分を連れ去るようなことをするとは六花には考えられなかった。

 とにかく、ここから出る方法を探さなければと、六花は辺りを再び調べ始める。いずれ零が助けに来るかもしれないという期待も感じていたが、頼りっぱなしではいけないと考えた。

 天井には換気扇が回っており、部屋の外に繋がるように通気孔が通っている。あれを通れば部屋の外には出られるかもしれないが、換気扇を止める道具がないために使えそうにない。零のような武器を持っていれば脱出することも出来るかもしれないが、六花はそんな物騒なものは持ってないし、持とうと考えたこともなかった。

 零と石井は心配していないだろうか、そんなことを考えていると、不意に、ドアをノックされた。六花が応答する間もなく誰かが中に入ってきた。

「結界が解けているじゃないか」

 入ってきたのは松崎だった。驚いた表情で部屋を見回し、六花が目を覚ましていることに気がつく。

「目を覚ましたみたいだね、痛いところとかはないかな?」

 六花の体を気遣い、松崎が尋ねる。やはり松崎が連れてきたわけではなかったと六花は安堵する。体を少し動かしてみたが、特に痛むところもなかった。

「体は……大丈夫みたいです」

「それはよかった」

 六花の言葉を聞いて松崎は安心する。やはりいい人だと六花は感じた。

「あの……ここはどこなんですか?」

 その言葉を聞いた途端、松崎は表情を曇らせる。そして松崎は六花に頭を下げた。

「すまない、六花ちゃん」

 暗い声色で、自身を責めるように松崎は謝る。松崎の表情が何の感情を表しているのか、六花にはわからなかった。

「あの……松崎さん?」

「本当にすまない」

 六花が頭を上げるように言うと、松崎はようやくもとの体勢に戻った。そして、六花に何が起きているのかを話し始める。

「君が連れて来られた理由は臨時都市の戦力をおびき寄せるためなんだ」

「それて人質ってことですか?」

「そんな感じかな。そして、君を連れてくるように命令したのが結原という人物だ。彼女は怪しげな指輪で生き物を自在に操ることができるんだ」

「生き物を操るんですか?」

「そう。もちろん、人間も例外じゃあないんだ」

「そんな……」

 六花はようやく、何が起こっているのかを理解した。松崎は結原という女性に操られ、自分を連れ去った。彼の意思は無視され、強制的に罪を犯させられたとはいえ、彼にとっては自分がやったも同然だ。先ほどの暗い表情はそのせいだったのだろう。

「もうじき臨時都市の方から救出隊がやって来る。しかし、結原の指輪には逆らえない」

 それは要するに、零や夜千夏が結原の支配下に置かれるということだった。指輪の絶対的な支配によって服従させられ、兵の一人として働かされる。それは実際に支配されている松崎だからこそわかることだった。

「私はどうすれば……」

 零でも敵わない。そう宣告されてしまえば、六花に成す術はなかった。不安で体が震え、思うように言葉を発することが出来ない。

 そんな六花の不安を感じ取った松崎は六花を慰めようとするが、言葉が浮かばない。自分に励ます資格があるのか。励ましたとして、ただの強がりにしかならないかもしれない。しかし、松崎は自分の覚悟を告げる。

「六花ちゃんのことは僕の命に変えてでも助ける。だから、安心して欲しい」

 しかし、六花の顔色は優れなかった。


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