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31話 絶対的支配

「はあ、暇ね……」

 椅子に腰掛けながら結原は呟いた。その言葉に周囲を取り巻く人間は戦慄する。

 彼女がこういうことを言うときは、必ず酷いことになる。今までの経験から、誰もが理解していた。

「誰かをケルベロスの餌にでもするかしら」

 誰もが耳を疑うような発言だが、ここにいる人間は誰も驚くことはない。これが結原のデフォルトであり、今までに幾度と繰り返されてきた行為だからだ。

 しかし、恐怖を感じないわけではない。自分が魔物の餌になる、そんなことを聞かされて、正常でいられる人間はまずいないだろう。

 恐怖で怯える取り巻きたちを眺め、結原は満足げに笑みを浮かべる。そして、初老の男を指差して言う。

「あなた」

「ひっ!」

 指を刺された初老の男は、体をビクリと震わせる。顔を横にそらしながら、「な、何でしょうか?」と聞き返す。

「あなた、要らないわ」

 結原がそう言い放つと同時にケルベロスが部屋に入ってきた。ケルベロスは涎を垂らしながらエサ(・・)を一瞥する。

「ま、待ってください! 私は!」

「煩いわよ」

 その言葉を合図にケルベロスは初老の男をくわえ、部屋から去っていく。数秒後、初老の男と思われる断末魔が屋敷中に響き渡り、取り巻きたちは体をさらに震わせる。次は自分かもしれない、そんな恐怖に襲われているのだ。

 そんな取り巻きたちの反応すら、結原にとっては娯楽の一つに過ぎなかった。当然、取り巻きたちはすぐにでも逃げ出したいと思っている。しかし、それは叶わない。

 取り巻きをその場に縛り付けている、不可視の鎖がある。それは身に焼き付けられ、逆らうことは出来ない。

 その正体は、結原の手もとで輝く指輪だ。怪しく紫色に光る指輪は、所有者の命令を絶対的なものにするらしい。この指輪を手に入れた結原は、非道の限りを尽くしている。中世の絶対王政よりも酷い惨状だ。

 結原が何かを思い付いたように顔を上げる、と同時に扉がノックされた。邪魔をされた結原は不愉快そうに顔をしかめる。

「入って良いわ」

 中に入ってきたのは魔族だ。結原の指輪によって支配されており、襲ってくることはない。その手には携帯電話が握られている。

「充電が終わったようね」

 結原は「ご苦労様」と、大して感謝の念も込めずに言う。魔族を退出させ、結原は電話をかける。

「見つかったかしら?」

 『はい、見つかりました。今すぐ近くにいます』

 電話の相手は松崎だ。唯一、指輪の支配を受けても恐怖の色を見せない松崎を良い人材だと考え、結原は彼をよく使っている。

 松崎は世界が崩壊する以前からの知り合いであり、仕事仲間だった。片想いだったこともあってか、結原は松崎を自分の支配下に置いた。

 支配下に置く方法はいたって簡単で、「一生私に従いなさい」の一言で命令は完了する。あとは指輪がなくとも自由に操れるため、この一言は重要だ。

「なら、今すぐ捕まえなさい。出来るわね?」

『……わかりました』

 電話が切れると、結原は笑みを浮かべる。彼女の計画が始まろうとしていた。




「……わかりました」

 松崎は電話を切り、ため息を吐く。「何かあったんですか?」と心配をしてくる六花を見て、松崎はさらに表情を暗くする。

「いや、ちょっとね……あれ?」

 遠くを指差して松崎が言うと、六花もそちらを向く。松崎は、自分に背を向けた六花の首筋を叩いた。直後、六花が気を失って倒れる。

「悪く思わないでくれってのは、無理だよね」

 松崎は六花を担ぎ上げると走り出した。出来る限り人目につかないよう、まだ荒れ地となっている南区を通るべきだろうと判断し、人目を避けながら走る。

 案の定、南区は人通りも少なく、誰とも会わずに脱出することに成功した。しかし、そこにあるのは悲しみのみ。自分が結原に逆らえないとはいえ、一人の少女を人質として誘拐してしまったのだ。

 自己嫌悪に浸りながら走っていると、何らかのセンサーに引っ掛かったのか、警告音が聞こえた。振り返ると、監視カメラのようなものを視界に捉えた。

 ある程度走ると結原が用意した怪鳥が待っていた。それに乗り、松崎は結原のもとへ帰還する。


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