25話 帰還
臨時都市に帰還後、まずは中央へ任務の成功を報告しに行くこととなった。出来れば先に家に帰りたい零だったが、仕方なく夜千夏についていく。
時刻は午後四時辺りだろうか。夕食にはまだ時間があるため、おそらく間に合うだろう。
中央に到着すると、水野の秘書である志宮が出迎えた。彼女曰く、水野は外出中らしい。それを聞いた途端、零は身を翻して家に向かおうとするが志宮に止められた。
「お二人には南区までついてきてもらいます」
そこに水野の秘策が隠されている、とのことだ。詳しい説明も受けられずに、二人は南区へ向かう。
南区では石井が瓦礫撤去の仕事をしている。撤去された瓦礫はトラックで運ばれ、どこかへと運ばれる。瓦礫を運ぶから運送業、というらしいが、零には無理がある気がした。名前をこうにでもしないと、仕事を受けてくれる人がいないのだという。二人が向かっているのが、その瓦礫が運び込まれている場所だ。
「ここはまだ荒れているな」
「そうですね、南区はまだ瓦礫が多いせいで管理が行き届いていません。無法者も多いので、お二人もお気を付けください」
零が呟くと、志宮が丁寧に説明をした。南区は北区と違い、建物らしい建物は見当たらない。瓦礫の影に隠れたりしながら暮らしているらしい。
「あまり居心地の良い場所ではないわね」
どこかから聞こえる悲鳴混じりの嬌声は、この区域の治安の悪さを物語る。音は瓦礫に乱反射してしまい位置の特定が出来ないため、助けには行けそうもない。
夜千夏は不快そうに眉をひそめるが、志宮は特に気にする様子もなく歩いていく。同じ女性でも、反応は様々だ。
しばらく歩き、南区の端辺りに着いた。集められた瓦礫が山を作っており、魔族の襲撃の悲惨さを物語っている。
「こちらへ」
志宮に案内された場所は、瓦礫の山の近くにある小屋だった。一見するとただの廃屋のようだが、何があるのだろうか。夜千夏が疑うように視線を送ると、志宮は中に二人を案内する。
「おう、志宮さんか」
中に入ると男に出迎えられる。瓦礫の撤去、収集を仕事とする彼は、石井の先輩でもある丸山だ。
「……なるほど、よく鍛えられているな。この二人が例の刻印魔導士ってやつだろう?」
霊と夜千夏を一瞥するなり、彼はそう言い放った。一目見ただけで見抜かれたのだから、二人はこの男に相応の実力があることに驚いた。男の体はよく鍛えられていて、以前から何らかの武術を会得していたように思えた。
丸山は三人を招き入れると、なにやら机の上を叩き出した。コンコンと木を叩く音が辺りに響くだけで、特に影響はないように思えた。零が欠伸をしそうになると同時にようやく変化が現れる。
小屋には窓が付いていた。縦長の窓で、下から上まで長く伸びていたはずだ。しかし、丸山が机を叩くとその窓は下から徐々に消えていく。
「これはまた、手の込んだ仕掛けじゃない」
机を叩けば叩くほど部屋が沈んでいき、下へ向かう。エレベーターのようなものだ。なぜこのような仕掛けにしたのか、零が問う前に志宮が答えた。
「ここには臨時都市にとって重要な役割を担っています。エレベーターにしてもよかったのですが、それではカモフラージュが出来ないのでこうなっています」
「面倒なだけだ」
零は呆れ顔でそう言った。
小屋型のエレベーターから出ると、そこは地上より幾分か技術の高い造りが広がっていた。どこからこの技術が広がってきているのか疑問に思う二人だが、志宮は「その話は奥で」としか返答をしない。
進めば進むほど疑問は増えていく。廃材を利用したにしては明らかに高度な技術。武器を生産しているであろう機械は、人が操作せずとも自動で動いている。以前ならばそれが普通であったが、今この世界の現状を考えると明らかに不自然だった。武器生産のラインと零たちが歩く通路を隔てるのは、透明での高い防弾ガラス。廃材から作るにしても、異様に精度が高い。
疑問は増すばかりだったが、話は奥でと言われているため、聞くことが出来ない。疑問を解決できないもどかしさが募るが、ようやく解決されるときが来た。
「ここに、臨時都市の全てがあります」
零と夜千夏は息を飲む。この不自然なまでの疑問を解決することが出来るのだ。
手をかけずとも、扉は自動で開いた。その中に居たのは臨時都市の創設者である水野と、もう一人。白衣を着た男がいた。