24話 廃工場
零と夜千夏が体に光を走らせ、先に乗り込んだ。扉を力任せに蹴破ると、中では待ち構えていたかのように魔物たちで埋め尽くされていた。
夜千夏の目が光る。錯覚ではなく、確かに、彼女の目は桃色に光っていた。
「紅刃!」
大鎌を豪快に凪ぎ払うと、その奇跡を辿るように光が現れる。その光に触れた魔物は体を分断され、崩れ落ちた。
恍惚そうな表情を浮かべ、しかし、まだ足りないといったように大鎌を掲げる。大きく声を上げながら、夜千夏は近くにいた魔物を斬り伏せる。
零は刀にまで光を走らせ、夜千夏の後を追う。飛びかかってきた数体の魔物を身を翻して避けつつ、すれ違い様に刀で斬りつけた。
夜千夏が通っていった道を埋めるように魔物が現れる。銃を乱射しながら敵を蹴散らし、刀で間合いに入った敵を斬る。大きく体を回転させて蹴りを入れると、ようやく道が開いた。
進む最中も出来る限り敵を倒すように心がけつつ、夜千夏を追う。敵が少ない方が、後から乗り込む精鋭たちも戦いやすいだろう。
廃工場は一階は全体的に広く、通路も一本道だ。しかし、地下に降りると、そこはかなり複雑な作りになっていた。もちろん魔物もいるため、あまり長居せず先を急ぎたいが、地図がないために時間がかかる。
魔物に出来る限り気づかれないように隠れながら進む。この狭い道で仲間を呼ばれては厄介なので、奇襲を仕掛けて確実に仕留めていく。
ようやく大部屋を見つけ、中に入る。ちょうど夜千夏が交戦中で、魔物を次々に凪ぎ払っていく。
「旋風刃!」
体を軸に、夜千夏は大鎌を円を描くように振り回す。不規則に放たれる光の刃によって、魔物は完全に殲滅された。
零の存在に気づき、夜千夏が手を振る。零はため息を吐きながら夜千夏のもとへ向かった。
「あら、遅かったじゃない」
「如月が速く進みすぎただけだろう。もう少しペースを考えてくれ」
仕方ないわね、と残念そうに夜千夏が言う。二人は武器を構え直すと、さらに奥へ進む。
大部屋を抜け、下の階へ降りるため長い螺旋階段を下っていく。足音は下まで響き、視界には階段の終わりが見えない。進めば進むほど暗くなり、ついには体に走る光以外、明かりがなくなった。
「面倒ね、飛び降りようかしら」
下を覗きながら夜千夏が呟く。零の返事を聞く前に夜千夏が飛び降りてしまったため、零はため息を吐き、仕方なく後を追った。十秒ほど落ちると、ようやく地面に到着した。
「明かりはないか」
「そうみたいね」
この空間には電気が元々付いていなかったのだろうか、それらしいものは見当たらない。これでは目立ってしまうため、隠密行動はできない。
自分達は光っているが、相手は光っていない。そうすると、こちらが気づいていなくても相手に気づかれてしまう、ということになってしまうだろう。そう考えると、この状況はあまり好ましくはない。
零が一歩前を進み、全神経を索敵に集中する。僅かな音と狭い視界。その二つの情報だけしかないが、零はその僅かな情報から敵を確実に探し出す。
敵が暗闇から飛び出すと同時に引き金を引いた。見えずとも予測をしていたため、確実に敵の急所を撃ち抜いた。
しばらく歩くと、ようやく光が見えてきた。中はかなり広く、先ほどの大部屋よりは少し広いくらいだ。その部屋の中央には、二人を待っていたかのように魔族が待ち構えていた。
魔族はこちらを視認すると、ニタリと笑みを浮かべる。獲物を見つけた狩人のように、目を鋭く光らせた。
二人は互いを一別すると、魔族に向かっていく。左右から同時に斬りかかるが、その場から魔族の姿が消えた。刹那、体に強い衝撃を受けて弾き飛ばされた。
「くっ……」
再び視界に魔族が現れる。零は体勢を立て直すと、銃の引き金を引いた。しかし、魔族は再び視界から消える。今度は夜千夏の呻き声が聞こえ、左を向くと腹部を押さえながら呼吸を整えている夜千夏がいた。
おそらく、瞬間移動の類いだろう。魔族の胸元で怪しく光るペンダントは紛れもなく純正魔道具だった。あのペンダントが瞬間移動を可能とさせているのだろう。
零は刀を振りかざして魔族に斬りかかる。魔族が視界から消えると同時に身を反転させ、何もない後方を斬りつける。刀はちょうどそこに現れた魔族をとらえ、ペンダントの紐を切った。魔族がそれに気をとられている間に夜千夏が現れ、止めを刺した。
「呆気ないわね。瞬間移動に頼ってばかりで、元は大して強くないじゃない」
夜千夏は足元に落ちたペンダントを拾うとそれを身に付けた。ペンダントは夜千夏の胸元で輝いている。
「私が貰っていいかしら? これは女性用なんだし」
「構わない。だが、一つだけ質問していいか?」
「何かしら?」
「如月。お前の目が光っていたが、あれはなんだ?」
夜千夏はそれを聞いて納得したようにうなずく。夜千夏はその正体を零に見せた。
「これはね、ペンダントと同じで純正魔道具なのよ。効果はそうね……動体視力が少しだけ良くなるくらいかしら」
夜千夏は目を光らせながら説明する。彼女のことだからもっと隠していると考えてもいいだろうが、今はこれだけ知っていればいいだろう。
「そろそろ帰りましょう? 上も静かになったようだし、片付いているみたいよ」
「そうだな」
詮索はやめて、とりあえずは任務の成功を喜ぶ。時間はあまりかからなかったため、急げば夕食には間に合うだろう。早く帰って、六花を安心させなければ。零はそんなことを考えながら、帰路につく。