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23話 組織

今回は説明回になってます。

 明けることの無い暗闇の中、煌々と輝く月に照らされながら廃墟を進む。水野の命令で廃工場に巣食う魔物とそれを指揮する魔族を倒しに行くのだ。目立たないように少数精鋭で構成された討伐隊は、ひたすら歩き続ける。

 廃工場までは早くても一日はかかる。そのため、会話をする以外に暇を潰すことは出来ないが、それでも一日という時間は長い。いくら会話が弾もうと、二時間と持たないだろう。まして、無口な零ならなおさらだ。

 緊張をほぐすために、水野に選ばれた精鋭たちは他愛の無い雑談で時間を潰す。無論、警戒は怠っていない。

 そんな彼らを羨ましげに眺めながら、夜千夏はため息を吐く。夜千夏も加わって暇を潰したいところだが、彼らの会話の中には女性である彼女には聞きづらい内容も含まれているため躊躇われた。

 ため息の理由は簡単で、唯一自分と会話が出来るであろう零が何も話さないことである。無表情に歩き続けるだけで、折角再会できたというのに、会話らしい会話はあまりした記憶がなかった。

 ふと、彼の顔を見て違和感を感じる。以前の彼は常に無表情で、いつも他人を寄せ付けないような、凍りつくような殺気を放っていた。よほどの人間でなければ、彼に話しかけることは難しい。

 しかし、今の零は違った。機嫌が良いのだろうか、他人にはわからない程度に口元が弛んでいた。彼の機嫌がよくなるほどの大きな出来事があるとは、夜千夏にはとても考えられない。

「機嫌が良いようだけど、何かあったのかしら?」

 好奇心に負けてしまい、夜千夏は零に尋ねた。しかし、彼は「何もない」と言うだけで話を切ってしまい、それ以上聞き出すことは出来なかった。しかし、声のトーンもやや高く感じ、やはり何かあったのだろうと確信する。

 無理に聞き出そうとするのは年上としては避けるべきだろう。夜千夏は話題を変える。

「ねえ、零。あなたは今、奴等についてどれくらい情報を持っているのかしら? 私たちに武器を与えた組織について」

「奴等についてはあまり知らない。如月の方が情報は多いだろう」

 再び苗字で呼ばれたことに内心でムッとしつつも、今は気にするべきではない。問いかけた夜千夏の声色はいつもよりトーンが下がり、真剣さが伝わる。そのため、零も真面目に返答をした。

「なら、私が知っていることは話した方がいいかしら?」

「ああ、頼む」

 ふと、二人の会話が気になったのか、精鋭たちが会話をやめてこっちの会話に集中していることに気づく。特に減るものでもないと思った夜千夏は、彼らも含めて組織についての話を始める。

「まず、組織について説明するわ。組織の名はウォーライク。直訳すると戦争好きね。軍事会社で、武器の生産に力を入れていたわ」

 国内にあるその会社は有名で、中身までは知らなくとも、名前だけならば八割ほどの人間は知っていると答えるだろう。常に新たな兵器を産み出し続けることで諸外国からは危険視されていたが、同時に国民に安心感を与えていた。

「そして、私たちはそこで働いていた元軍人ってところかしら。今とは違って、昔は私も銃を使っていたわね」

 背中の大鎌をちらりと見てから視線を戻す。

「この魔道具の成り立ちについて説明した方がいいわね」

 夜千夏は体に光を走らせてみせる。ピンク色の艶やかな光が体に印を刻み、妖艶さを醸し出す。その姿はまるで蝶のように美しく、一度見たら見惚れてしまい、視線を逸らせなくなりそうなほどだ。

 固まってしまった精鋭たちをデコピンで正気に戻す。身体能力が強化されている状態でのデコピンがよほど応えたのか、三人ともおでこを押さえていた。防具としてヘルメットを着けていたのだが、それでもなお激痛が走るほどの威力があった。

「この能力は魔道具のおかげなのよ。ウォーライクの技術者が作り出したシステムで、科学的に魔法を再現しているらしいわ。私にはさっぱりだったから、そこは聞き流していたのだけれど」

 夜千夏は零の方を見るが、零もわからないらしく、無言で首を振るのみだった。

「これにはもとがあるのよ。空間に歪みが生じたとかで、その技術者の目の前に魔道具が現れたらしいわ」

 その技術者が三十年という時間を注ぎ込んで仕組みを解析、再現したものが魔道具だ。もととなったものは純正魔道具と呼ばれ、身体能力の強化が出来るという代物だった。といっても、一般人が格闘家と並べる程度の強化だったが、今では人間離れした強化が出来るようになっている。

「技術者の名前は菊島要一(きくじまよういち)といって、今でもウォーライクで武器開発を行っている人物よ」

 零と夜千夏を含め、七人に魔道具が与えられた。魔道具を扱うには適正が必要で、新たな兵器の完成ということもあり、国によって半ば強制的に彼らが選ばれたのだ。最年少で十歳という少女もいるくらいだ。

 現在はバラバラになって行動しているが、おそらく、一人も欠けていないだろう。それだけの戦闘能力を誇っていたのだ。

「今では適正に関係なく扱えるらしいわ。もっとも、性能はその分劣るらしいけれど」

 ここで、精鋭の内の一人が疑問を投げ掛ける。なぜ、それだけ安全が確保された場所から離れたのかだ。

 その質問を聞き、あまり思い出したくないのか、夜千夏はこめかみを押さえる。代わって、零が説明を始めた。

「奴等、ウォーライクは魔族が現れた際、俺たちにその殲滅を命令した。その隙に奴等が生き残った民間人を助けるといった内容だった。はずだったが……」

 はずだったが? と、息ぴったりに聞き返す精鋭たちに、零は少しだけ間を置いてから口を開く。

「奴等の目的は労働力の確保だった。民間人の扱いに関しては、奴隷と何ら変わりなかっただろう」

 それを聞いた精鋭たちの表情からは、世界がこんな状態だというのになぜ、といった疑問が読み取れた。

「こんな世界だからこそ、だ。法すら意味を成さなくなったんだ、軍事会社として力を持っていた奴等は、戦略から武器製作まで自分達でこなす。だからこそ今の世界では、奴等はやろうと思えば神にでもなれる」

 その言葉を聞いて精鋭たちはゾッとする。自分達とて欲がないわけではないが、そこまでの傲慢さは、もはや恐怖を感じさせるほどだった。

「奴等は罪を犯しているということにすら気づかない。気が狂っている。だからこそ、俺たちは奴等から離れることを決めた」

 それが、零が佐倉の統治する避難所に来る前日のことだった。零たち刻印魔導士は民間人一万人程を率いて蜂起した。ウォーライクは零たちが敵に回ることを想定していなかったらしく、戦いは決まったように見えた。

 しかし、彼らは一つだけ、奥の手を持っていた。たまたまその場に居合わせた技術者の菊島はウォーライク側につくことを決め、兵器を動かす。彼曰く魔兵と呼ばれるそれは、体に印を刻んだ人形の機械。しかし、誰かが動かさずとも、勝手に敵を認識し、攻撃を仕掛けるというものだった。

 魔兵の力は圧倒的だった。魔道具を持っている零たちでも苦戦を強いられたのだから、民間人ではなおさらだ。恨みを張らすべく攻勢に出ていた零たちだったが、生き残るための逃走に切り替えた。その結果、生き残ったのは百人にも満たなかった。

 夜千夏はその話を危機ながら、辛そうにしていた。戦いは好きな彼女だが、仲間がやられるところはあまり見たくないらしい。

 だからこそ、夜千夏は率先して前へ出て戦ったのだ。戦いが好きなだけでなく、仲間を死なせたくないという感情も合わさったために、彼女は前線で戦ってきたのだ。

 会話は思ったよりも長引き、終わる頃には目的地である廃工場が見えてきた。皆が武器を構えたことを確認し、零が一言。

「行くぞ」

 彼らは廃工場に乗り込んだ。


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