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22話 肉じゃが

テストがようやく終わりましたので、執筆を再開します~

 夜千夏との戦いから一週間が経った頃、中央に来るように、との伝言を受け取った。どうやら近辺にある魔物の住み処の位置を特定したらしい。

 そのため、討伐隊を作ることになったのだ。討伐隊といっても人数は少なく、最小限に抑えてあるようだ。集められたのは零と夜千夏、戦闘部隊の精鋭三名のみだけだった。

 水野は皆が集まったことを確認すると、会議を開始した。

「今回集まってもらった理由はわかっているだろうね。以前から目をつけていた廃工場の最深部。どうやら、そこには魔族がいるらしい」

 それを聞いて動揺したのは精鋭三名のみ。零と夜千夏には想定内の話だった。しかし、重火器を持っているとはいえ、生身の人間が魔族と戦うとなると、恐怖を感じるのは当然のことだろう。恐怖を感じないのは、零のような場数を踏んでいる者か、夜千夏のような戦闘狂ぐらいだろう。

「数は多いけど、魔物自体は下位ばかりだ。魔族の討伐は零君と夜千夏君に任せる。魔物の方は君たちにお願いしよう」

 魔物の討伐を任された精鋭たちは多少不安そうな顔を見せるも、すぐに表情を引き締めて力強く返事した。彼らも臨時都市に来てからそれなりに場数を踏んでいるはずだ。水野が選び出した精鋭なのだから実力は十分に期待できるだろう。

「急で悪いけど、討伐は明日だ。各自、十分に休息を取るように」

 解散、と水野が締めくくる。会議が短いのは彼の考えらしく、長引いても疲れるだけとのことだ。だからこそ、会議というよりはすでに決まった事項を知らせるだけのようになるらしい。拒否権は無い。

「この後、暇かしら?」

 夜千夏に話しかけられるが首を左右に振って断る。時刻は午後六時半。このまま家に帰れば、夕食がちょうど出来ている頃だろう。かなり空腹を感じていた零は、家に帰ることを優先した。

 零に断られ、夜千夏は残念そうに眉をハの字にする。

「まあいいわ。また明日ね」

 夜千夏はそう言って去っていった。零は家に向かう。




 同日、昼。今夜の料理は何にしようか、そんなことを考えながら六花は商店街に向かう。食料品はもちろんのこと、日用品も揃っているためかなり便利だ。

 まずは八百屋に向かう。まだ臨時都市に来て一月と経っていないが、ここの店主である老人が会話好きなこともあって、六花はすぐに打ち解けた。

「おお、お嬢ちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは、近藤さん」

 近藤がにこやかに店の奥から現れ、六花も嬉しくなる。彼は六花の顔をじっと見つめ、なにかがわかったように自信に満ちた笑みを浮かべる。

「なるほど、今晩は肉じゃがなんだね」

「えっ!? 何でわかったんですか?」

 心の中を読まれたようで、六花は驚く。魔法を使っているのではないかと思えるくらいだった。

「実はね、わしは人の表情を見るだけでその日の献立がわかるんだ。すごいだろう?」

 六花が驚いたことがよほど嬉しかったのか、近藤は満面の笑みを見せる。彼曰く、魔族が現れる前も八百屋をやっていたらしく、接客をしているうちに自然とわかるようになったのだとか。

「肉じゃがなら、じゃがいもと人参、玉ねぎだね」

 近藤はちょうど三人分くらいの量を持ってきた。会計を済ませ八百屋を去る。次の目的地はお肉屋だ。肉じゃがの主役である肉はここでしか買えない。

 店の前に着くと、六花に気づいたのか、店の奥からドタドタと慌ただしい音が聞こえ、店主が姿を表す。

「おはよう六花ちゃん!」

「えっと……もう三時だよ?」

「なんだって!?」

 店主であり、六花とさほど年は変わらない少女――千尋は驚いたように時計を見る。そしてはっと驚いた後、頭を抱える。

「あはは、寝過ごしちゃった……」

 頭を下記ながら、千尋は肩を落とす。

「それで、今日はどれがいいかな?」

 ずらりと並んだ肉は、どれも新鮮できれいな赤色をしている。今の世界のどこに肉があるのだろうかと疑問に思った六花が以前尋ねたが、中央から買い取っているとのことだ。中央がどこから仕入れているかは知らないと言う。

「うーん、これかな」

「薄切りの牛肉だね? 毎度あり!」

 牛肉を包装して六花に手渡す。六花はそれを受けとり、会計を済ませる。

「ありがとう」

「どういたしまして。っと、そういえば六花ちゃん。明日辺りに少数精鋭の討伐隊が出動するって話は知ってるかな?」

「討伐隊?」

「そう。なんかさ、臨時都市の近くに魔物の巣かなんかがあるらしいよ。位置がわかったから討伐するんだってさ」

「そ、そうなんだ……」

 それを聞いた途端、六花は不安になる。おそらく零も駆り出されるのだろう。零に限って死ぬことはないかもしれないが、もしものことがあるかもしれない。

「うん? 六花ちゃん、顔色が悪いけど大丈夫?」

「へ? う、うん。大丈夫だよ」

 それじゃあそろそろ帰るね。六花は慌てて帰る。千尋は特に不思議がることもなく、営業を再開する。鈍感な彼女は、夕食が間に合わなくなるのだろうとしか思わなかった。

 そうだ、零が戦いの場に出ることはわかっていたのだ。自分には自分の役割がある。彼が思う存分戦えるよう、力が湧くような美味しい料理を作らなければ。

 家に帰るやいなや、早速調理に取りかかる。食材を並べ、調味料などの準備をした。

 まずは野菜を切る。皮を剥いたジャガイモを四当分し、人参は乱切り、玉ねぎはくし形切りにする。薄切りの牛肉を一口大に切り、熱したフライパンに入れる。

 ある程度火が通ってきたところで水を入れ、粉末だしを加える。みりんと砂糖、醤油を加えた後、落し蓋をしてしばらく煮込む。

 煮物を煮込んでいる間に米を炊く。臨時都市には電気が通っているため、炊飯器で炊く。炊飯器は中央から支給されたものだ。

 辺りに煮物のいい香りが漂う。ご飯に合うようにこってりとした味付けにしたため、体を動かしている零や石井に嬉しい味付けだ。

 肉じゃがの汁の量が半分ほど減った辺りで火を止めた。炊き上がったご飯をかき混ぜ、あとは二人の帰りを待つのみだ。少し眠くなった六花は、二人が帰ってくるまで昼寝でもしようと考え、リビングのソファーに寝転がった。




 零が家に着くが、家の中では物音一つなかった。不審に思いながらリビングに向かうと、六花がすーすーと寝息を立てながら眠っていた。気持ち良さそうに眠る姿を見て、口元がなぜか緩んでしまう。零自身はその事に気づいていないようだったが、他の人から見ればわかる程度には笑みを浮かべていた。

 起こすのは悪いだろうと思い、零はコートを脱ぐと六花に被せた。魔導銃はスボンのポケットにしまい、刀は壁に立て掛けた。

 しばらくして石井が帰ってきた。その音に気づいた六花が目を覚まし、自身の体に何かがかかっていることに気づく。

「零さんのコート……」

 暖かく、心が落ち着く。もう少しこのまま寝ていたいと思ったが、零と石井は夕食を待ちわびているだろう。温もりが名残惜しかったが、体を起こして立ち上がる。

「起きたか」

「はい。零さん、コートありがとうございます」

 六花は満面の笑みでコートを手渡す。零はそれを受けとると服掛けに掛けた。

「じゃあ、夕食にしますね」

 六花は自信作の肉じゃがを用意する。冷めていたので暖め直し、その間にご飯をよそう。

 テーブルに肉じゃがを置くと、石井が久々の肉じゃがだと喜ぶ。零の表情も、心なしか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

「いただきます」

 六花は肉じゃがを自分の取り皿によそい、まずはじゃがいもを一口。こってりとしてほんのり甘く、ご飯のお供に丁度いい味付けだ。二人も気に入ったのか、無我夢中で食べ進めた。

 零はその日の晩、とても気持ちよく眠れた。




 翌日、早朝。辺りは暗闇に包まれている。今の世界には日が昇ることはないため、時間で午後か午前か判断しなければならない。まだ寝静まっているため、町は明かり一つ無い。

 手早く支度を済ませ、零はコートを羽織る。刀を背に背負うと玄関へ向かった。

「零さん」

 不意に声をかけられ、驚きつつも振り返る。そこには六花がいた。

「すまない、音が立っていたか」

「いえ、私が自分で起きたんです」

 こんな時間に起きる用事でもあるのだろうか考えるが見当たらない。

「あの、無事に帰ってきてくださいね?」

 不安そうに見つめる少女は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。目は潤んでいる。自分が戦うのは、六花と石井守るため。だからこそ今日、討伐に向かうのだ。

「心配するな。必ず帰る」

 そう言って、零は六花に背を向け、玄関の扉を開く。

「いってらっしゃい」

 後ろからかけられた声に、零は片手を挙げて返事をした。


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