20話 十六夜
臨時都市に着いてからしばらく経ち、三人もここでの生活に馴染んできていた。六花は家事をしたり、友人の千尋と遊んだりと、楽しくやっている。石井は仕事に精を出し、皆を養うために頑張っている。瓦礫の運搬が重労働なため、多少痩せてきたようだ。
最近の零は、中央にある訓練用の施設にばかり来ている。避難所で実力不足を思い知らされたため、新たに得物を増やしたのだ。銃とは違って魔道具ではないものの、十分に戦える代物。それが、今零が持っている刀だ。
きっかけは中央に行ったときだった。夜千夏からの報告を受けていた水野は、零に得物を使うことを提案してきた。前回のような再生能力がある相手では、今の零では対抗できない。
かといって、明確な提示はなかった。零が扱うに足るような代物は中央にはなく、戦場で振り回し続けることができるような、酷使に耐えうる武器はなかったのだ。
最適な武器を探そうにも、特にこれというものは見つからなかった。それからしばらくの間は進展はなかったのだが、ある日、石井が刀を拾ってきたのだ。
瓦礫の運搬を任されている石井は、使えそうなものを拾ったら、好きに持って帰っていいと言われているらしい。今どき珍しい瓦屋根の、百年以上前からあろうかという建物から出てきたという。自分では扱えないだろうから、零が使うようならばと提案してきたのだ。
それからしばらくの間、中央の訓練用の施設で刀を振り続けた。強度、長さ、切れ味、全てが満足できる代物だった。水野に報告したところ、彼が秘書である志宮に刀について調べさせた。どうやらこれは十六夜と呼ばれる刀で、かなりいい代物らしい。頭骨を斬ろうと刃には傷一つ付かない程の強度を持っている。
その刀を扱えるようにするべく、零はひたすら振り続けた。体に赤い光を走らせ、右手に刀、左手に銃を握る。魔道具である銃を握っていなければ、身体能力の向上は使えないからだ。
以前より戦闘の流れがよくなり、魔物の襲撃の際も、刀はその格の高さを見せつけた。まだ満足がいくほど扱えるようにはなってないが、十分に戦える段階には来ただろう。
魔物の発生源とされている廃工場にいつでも行けるように、常に準備を整えてある。あとは、自分がどれだけ強くなれるか、それによって戦況も大きく変わるだろう。
「はぁ……」
疲労で足元がふらついてしまう。慣れない刀をひたすらに振り続けていたのだから、無理もないだろう。汗を拭い、呼吸を整えた。
そろそろ帰ろうか。そう考えて出口に足を向けると、同時にそこから夜千夏が現れた。
「あら、偶然。運命かしら?」
「……」
「何か返事してくれないと辛いじゃない……」
相変わらず無愛想なんだから、と、ため息混じりに夜千夏は言う。零はそのまま訓練所から出ようとしたのだが、夜千夏に引き留められた。
「せっかく会ったんだから、久々に私と手合わせしない? その刀の扱いがどれだけ上達したか、私が見てあげるわ」
その必要はない、そう言おうとした零だが、考え直す。今の自分の力を測るには、同じ魔道具を持っている夜千夏と戦うのが手っ取り早いだろうと零は考えた。
「悪くはない話だ」
「あら? 珍しいわね」
問題は、今の自分は体力を激しく消耗していることだ。それも含めていい訓練になるかもしれないが、やるからには負けたくはない。
夜千夏が奥の大部屋に入り、零も続く。そして、それを傍観するものが二人。監視カメラ越しに見ていた水野と志宮だった。
「なかなか面白いじゃないか。なあ、志宮」
「そうですね。しかし、今は大事な時期ですし、怪我をされてしまうのは困ります」
彼らの身を案じるわけではなく、計画が崩れては困る。そんなことを言う志宮を見て、水野は苦笑いする。
「彼らなら大丈夫だろう。全力でぶつかり合ったとして、寸止めくらいは容易いさ」
「そうでしょうか……」
不安そうな志宮と真逆で、水野はこの状況を楽しんでいた。この臨時都市を支える最戦力の二人が戦うのだから、彼にとってはいい資料になるし、同時にちょっとした娯楽にもなる。
二人はモニターを眺めながら、じっと様子を見守る。
「まだ始まってもいないのに……ゾクゾクしちゃうわ」
背中に背負っていた大鎌を横に構え、夜千夏は笑みを浮かべる。彼女はいわゆる戦闘狂といわれる部類で、完全に戦いを楽しんでいるのだ。以前、なぜ大鎌を選んだのかと零が尋ねると、夜千夏は恍惚そうな笑みを浮かべ、斬ったときの感覚が気持ちいいのだと言った。そんな彼女だからこそ、ここまで強くなれたのだろう。
顔を上気させながら戦場を駆ける姿から、彼女は死神と呼ばれたことがあった。彼女にとっては寧ろ誉め言葉らしく、本人はその呼び名を気に入っているようだ。
「いくわよ」
そして二人は、体に光を走らせた。
刀はかっこいいですね。
模造刀とか欲しいです~