2話 物資調達
ストーリーは前作よりのんびり進めていこうと思います。
翌朝。六花は身支度を整えると、すぐさま地下基地の出口へ向かう。
基地と言えど、穴を掘って軽く整えた位で、小説などに出てくるようなSFチックなものではない。土を露出させた無骨な造りで、一定間隔に松明が置いてある。
鉄筋コンクリートの建物が恋しく感じるが、今はこれだけでも幸せな方なのかもしれない。
六花が志願した仕事は物資調達で、主に食料品などを集めに行く。地図を頼りに、かつてコンビニやスーパーだった場所を調べるのだ。瓦礫を退かせば、缶詰などの食料品とも出会うことが出来る。
食料品の不足は難題で、少なくとも後2年は物資調達で手に入れなければならないだろう。基地から少し離れた場所に畑を作っており、皆の食料を確保するには、今では若干少ない。
そして、同時に金属部品を回収に行く。これは魔族から身を守るために必要な武器を作るからである。といっても、地下基地の総人口は50人程度である。現代兵器が作れるものはおらず、ちょっとした剣や槍を作るのが限度だ。
それでも傷が与えられることは既に何度も試したので実証されているが、未だ倒すとまでは至らない。白兵戦では魔法を操る魔族には相性が悪い。それ故に、身を守ることを第一とするため、戦いは極力避けているのだ。
出口付近に来ると、大人たちの姿が見えた。石井さんとその他3人、それぞれが手に武器を持っている。魔族相手では気休めにしかならないが、少なくともその使いである魔物程度なら倒せるだろう。
「おはようございますっ!」
六花が笑顔で挨拶をすると、外へ出るためか、多少緊張していた大人たちの表情が和らぐ。
「おはよう、六花ちゃん」
皆が優しげな笑顔を浮かべながら言う。この基地の中では皆の仲が良く、家族のように接している。そのため、最年少である六花は皆から我が子のように接してもらっているのだ。16歳にしては童顔なせいか、余計に子どものように扱われているのだが。
六花を守るという意思があるためか、大人たちの士気は高まっていた。同時に、我が子同然の六花と共に作業が出来ることを喜ばしく思っていた。
「それじゃあ行こうか」
石井の指示のもと、物資調達へ向かう。外へ出ると、視界一杯に廃墟が広がった。そこには、かつての都市の面影はない。建物は崩れ去り、幾つか残っている建物も、いつ崩れるかわからないほど風化していた。
空には月が煌々と輝いているが、六花にはそれが不気味に感じる。なぜなら、月は常にそこにあるからだ。魔族が現れて以降、太陽が昇ったことはない。
まだ一歩も踏み出していないのに臆してはいけない。六花は頬をぱちぱちと叩き、気合いを入れた。
午前7時。今から半日程、物資調達のために探索をする。廃墟になる前の地図を石井が持っており、近いところから順に店を回る。
大通りを歩けば、平和だった頃の風景が思い出される。昔は煩いと思っていた喧騒すら、今では恋しく感じるくらいだ。
六花は注意深く周囲を観察しながら、石井の後ろにくっついていく。大人たちは六花を守るように囲み、物資の調達と同時に戦闘にも備える。
20分ほど歩くと、石井が立ち止まった。近くを軽く見回したあと、右側の瓦礫の山を指さした。
「今日一つ目はこのコンビニだ。俺たちが瓦礫を退かし終えるまで、六花ちゃんは周囲を警戒してくれ」
「わかりましたっ!」
ビシッと敬礼をして、六花は周囲を警戒し始める。そのちょこちょことした動きが可愛らしく、思わず大人たちの表情が和らぐ。
「よし。じゃあ、その瓦礫から退かすから、皆手伝ってくれ」
石井が声をかけ、皆が一斉に動き出す。大きな瓦礫は砕き、何回かに分けて運ぶ。バスケットボールサイズの瓦礫でさえ、力のない者には若干重い。そのせいか、なかなか瓦礫を退かしきれない。
長い間一ヶ所に居続けるのは得策ではない。作業をするために音が出てしまうため、敵に気づかれるリスクがある。時間が経てば経つほど敵に位置を特定されやすくなるため、素早く行わなくてはならない。
幸い、見通しは悪くなく、敵が現れたとしてもすぐに逃げられるだろう。六花が警戒しているため、大人たちは作業に集中できる。
「敵は……いないよね?」
誰に問うわけでもなく、六花は呟く。返事が帰ってくることは無く、聞こえるのは大人たちが瓦礫を退かす音だけだ。
既に一時間は経っただろうか? 瓦礫の山は未だに健在で、退かせるものかと言わんばかりのどっしりとした構えである。
自分にも魔法が使えたならば、六花はこの瓦礫を退かせただろう。付いてきたは良いものの、実際に役に立っているかは微妙だ。そんな悲観的な考えが頭から離れない。
実際には、彼女がいるだけで大人たちの士気は高まっている。見張りがいるお陰で作業にも集中できるため、それなりに役には立っているはずだ。
こんな状況なのだから、少しでも役に立たなければならない。そんな思いからか、六花は必要以上に周囲を警戒する。そのおかげで、六花は偶然にも“あるもの”を見つけた。
「あれは……」
コンビニの瓦礫の山からは少し離れた場所に、黒い電話のようなものがあった。小さな瓦礫で隠れていて見えにくいが、確かに何かがある。
もし壊れていたとしても、電子部品ならば、いつかは役に立つだろう。もし使えるならば、相当な収穫だ。
「石井さん、私、あの黒いのを取ってきます!」
「黒いの?」
六花が指す方向を見るが、石井には何があるかはわからない。よほど視力がいいのだろう、六花は遠くを指差していた。
「わかった。俺も付いていくから、一緒に行こう」
六花の安全を確保するために、石井は提案する。作業を中断してでも、六花を守らなくてはいけない。
皆から離れるのも危険なため、短時間で済ませよう。そう考えた二人は、小走りに向かった。
小さな瓦礫の隙間から覗いていたのは無線機だった。外傷が多いせいか動作はしないものの、修理出来ればかなり役に立つだろう。
「六花ちゃんよくやった! これは無線機だ!」
「本当ですかっ!」
ハイタッチをしたあと、すぐさま回収する。もし使えるようになれば、他の生き残った集団と連絡をとることが出来るだろう。近くに生き残った集団があるならば、相互に協力をしたり合流したりと、生き残るための希望が広がる。
そんな希望を抱きながら元コンビニである瓦礫の山に戻ると、こちらも大体の作業を終えていた。
「お帰りなさい。ちょうど瓦礫を退かし終えたところですよ」
2人が戻ると、大柄な男が手を振る。いかにも力が強そうな、屈強な体つきの男だ。見た目の割に礼儀正しく、年齢も二十歳かそこらの青年だ。
「桜井、物資の方はどうだ?」
石井が青年に向かって尋ねると、桜井と呼ばれた青年は下を指差しながら言った。
「食料は、保存が利く缶詰めがかなりあります。あとは、電池やタオルとか生活用品ですかね」
「おお、缶詰めが結構あるみたいだな」
掘り出された物資を確認した石井が歓喜の声を上げる。手近にある缶詰めを手に取ると、自身の背負うリュックに詰め始めた。六花も自分の背負う若干小さなリュックに缶詰めを詰め込み、パンパンに膨れ上がったリュックを背負う。
「よい……しょ」
重さのせいか、多少よろめきながらも立ち上がる。
「六花ちゃん。重かったら、少し持とうか?」
「大丈夫ですっ」
この重さならば、基地へ帰る道のり程度なら問題なく歩けそうだ。石井の親切もありがたいが、それでは付いてきた意味が無くなってしまう。
運良く見つけることの出来た無線機を誇らしげに抱え、六花は石井たちと共に歩き出した。