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15話 臨時都市

 臨時都市は人口が約一万人で、おそらくは唯一の地上都市だろう。食料、寝床、安全性においての問題はなく、ここまでいい環境は、現在のこの世界にはほぼ無いに等しいだろう。

 常に夜となってしまったこの世界だが、電気が通っているために暗くはない。この辺り一帯はもともと被害が少なかったため、昔の建物をそのまま利用したりしているため、建物も大部分が鉄筋コンクリートで出来ている。短期間で立ち上げたとは思えないくらい活気の溢れている臨時都市だが、すべてがすべて解決された訳ではない。

 臨時都市は地上にあるため、魔物や魔族の標的になりやすい。まして、電気が点いているのだから、ここに住んでいる、ということを示しているのに何ら変わりない。

 かといって、電気を止めるわけにはいかなかった。地下に穴を掘るには地盤が緩い。そのため、こうして地上に都市を建設したのだが、地上に建てたことで寒さなどの問題が浮上したのだ。寒さをしのぐために電気を通した。それが原因となって、今まで数えきれないほどの襲撃を受けてきた。

 しかし、死者の一人も出さずに撃退することが出来た。その理由は単純なもので、夜千夏がほとんどの相手をたった一人で戦ったからだ。

 零と同様に魔法を操る彼女は、大鎌を振り回して戦う。単身で大量の敵と戦うことに関しては零よりも得意だろう。まさしく一騎当千な彼女だが、逆に一対一となると零に若干だが劣るかもしれない。

 今までの襲撃は全て魔物で、魔族が姿を現したことはなかった。そのために、夜千夏が持つ殲滅力を存分に発揮できたのだ。

 臨時都市にはかつて国を治めていた政府などはおらず、代わりにこの臨時都市を立ち上げた者が治めているという。あまりその人物を知る者はおらず、ごく一部の人間だけが知っているくらいらしい。あえて隠している、ということだろうか。

 都市の中心部は特に活気が溢れ、人通りも多かった。入り口からほぼ一直線に進むとようやく目的地に到着する。

「ここよ」

 夜千夏が立ち止まり、目の前の建物を指差す。特に目立つような特徴はない、やや大きいかというくらいの建物だ。

「ここで住民登録を済ませまるわよ。向こうが家とかを割り振ってくれるから、任せっぱなしでいいわ」

 中に入ると、案内係が出てきた。奥へ案内され、簡単な手続きを済ませる。とりあえず、三人が同じ家に住むことになった。その方が何かあったときに便利だろうと石井が提案し、二人も応じた。

 三人が割り振られた家は、臨時都市の北側にある区域となっている。中心部と比べると多少人通りも少ないが、近くに店が密集しているために立地条件は良いだろう。

 これから自分達が住む家を見て、六花は思わず表情を緩める。ようやく安全な場所に来られたという安堵と、これからも零や石井と一緒に居られるということの喜びが同時に来たのだ。二人より先に、六花は中に入っていく。

 家は二階建てで、リビングやダイニング、風呂やトイレなどの共用スペースを除くと、四部屋ほどの空きがあった。いずれも六畳と、一人部屋としては十分な広さだ。一階に一部屋と、二階に三部屋ある。三人とも二階の部屋を選んだ。

 日用品や家具、衣類などと生活費を最低限渡された。配給は最初のみで、あとは自分で働くようにと言われている。零が軽々と家具を運んでいくのを見て、石井は感嘆のため息をつく。

「零くんは力持ちだね。俺も頑張らないといけないな……っと」

 布団を二階に運び終え、石井は腰を下ろす。丁度自分の仕事を終えたらしい六花が石井のもとにやって来た。

「石井さん、お疲れさまです」

 六花は笑顔でペットボトルのお茶を渡す。石井は「ありがとう」と言い、数口飲んだ。

「さてと、この後はどうするかな……」

 石井の言うこの後は、この作業、ということではなく臨時都市での生活のことだ。ここで生活をするには、どうしてもお金が必要になる。長い間避難所で暮らしていたせいか、六花もその事を考えてはいなかった。

 そこに、家具や家電などを運び終えた零がやって来た。石井は零と六花にこう告げる。

「俺はどこかで働こうかと思う。まだ詳しいことは未定だけど、生活費も必要だろうしね」

 俺も頑張らないとね、と石井は付け加えた。すると、零も口を開く。

「俺も、たまにだが家を開けることになるだろう。如月に借りを返さないといけない」

 零が救援の礼を言うと、夜千夏から「これは借り。だから、しっかり返してもらうわ」と言われたのだ。

 六花は少しだけ寂しく感じる。いつも一緒にいられた避難所とは違い、臨時都市では多少だが離れる時間ができてしまう。一人で家には居たくないな、我が儘だと理解しつつも、そんな寂しさを感じてしまう。

 その場はそれで解散となり、六花は自室に戻る。久々に寝転がったベッドはフカフカして気持ちがよかったが、六花の心は晴れなかった。


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