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14話 援軍

 零は焦る。いくら光弾を撃ち込もうと、いくら間接をねじ曲げようと、相手は気にせずに攻撃をしてくるのだ。先ほどまでの手応えはなく、まるで人形のようになった魔族は、文字通り感情がないようだった。

「チッ! キリがないな」

 怒りの色を露にする。こちらには有効な攻撃がなかった。せめて刀剣類のような大きな得物があればいいのだが、あいにく、短い投擲用のナイフしか持ち合わせていない。相手の四肢を欠損させるには銃で戦うしかないのだが、実力差があるせいか、思うように当てることが出来ない。

 さらに厄介なことに、相手は、軽度の傷程度ならば簡単に塞がってしまうのだ。穴が空いた程度では意味がない。

 こちらは確実に体力を消耗してきている。ただでさえ強敵だというのに、それを相手に長時間戦い続けるというのは精神的にも肉体的にも疲労が蓄積する。一方で、ただ操られるだけの魔族は、全く疲労を見せない。

「はあ、はあ……」

 体の動きも鈍くなってきたのがわかる。呼吸が苦しく感じるほどなのだから、限界は近いだろう。

 明らかに相性が悪かった。これを言い訳にしたくはないが、今持っている武器では対応できないのは事実だ。自身の武器選択を悔やむが、今はそれどころではない。

 相手の放った火球が地面で炸裂する。後ろに飛び退こうとした零だが、呼吸の乱れからか体がうまく動かず、直撃は免れたものの爆風で飛ばされてしまい、近くの瓦礫の山に飛ばされてしまう。

「がはっ!」

 言い様の無い痛みに襲われ、零は自身の腹部を見る。運悪く瓦礫から飛び出していた鉄骨の破片に刺さっており、服には血が滲んでいた。

 歯を食い縛り、無理矢理に引き抜く。刺さったときよりも遥かに大きな痛みが零を襲う。飛びそうになる意識をどうにか保たせ、零は再び戦闘体勢に入る。

 しかし、体が限界を迎える。出血は思っていたより激しく、すぐに立つことすら出来なくなってしまった。もはや動くことすらままならない零に、魔族は止めを刺さんと火球を放つ。

 火球は零に一直線に向かっていき、そして、炸裂する。魔族の視界には、火球が零を捉えて爆発した所が見えただろう。

 煙が止むと、そこには火球をくらったはずの零の姿があった。そして、零を庇うように立っている一人の女性がいた。

「あら零、久しぶりじゃない。そんなところで寝ていると風邪を引くわよ」

 そこには大鎌を構えた女性がいた。

「如月か……なぜ、ここにいる?」

 今にも途絶えそうな、尽きかけた命を振り絞って問う。いるはずもないであろう人間がそこにいたならば、誰でも驚くだろう。

 夜千夏は自身の胸元から小瓶を取り出す。それを零の傷口にかけながら、夜千夏は返事をする。

「臨時都市から救援に来たの。あと、私のことは名前で呼びなさいって言ってるでしょう?」

 夜千夏はニヤリと笑みを浮かべると、大きな鎌を高々と掲げる。刹那、夜千夏の体を桃色の光が走った。髪の色が黒から濃い桃色に変わっていく。

 赤い月の下に現れたのは、物々しい大鎌を携えた、艶やかな死神。彼女は標的を見て、笑みを浮かべる。

「零、援護をお願い」

 夜千夏のかけた小瓶の中の液体の効果で既に体は回復していた。零は起き上がると銃を構え、体に赤い光を走らせた。

「ああ。行くぞ」

 零が先陣を切って飛び出す。魔族はそれを迎え撃つように火球を放って来るが、体力の回復した零は難なく撃ち落とす。

「上手じゃない」

 零を誉めつつ、夜千夏が後方から飛び出してきた。大鎌を構えて飛び込んでいく夜千夏を攻撃しようと魔族が火球を放とうとするが、零がその手を狙い、阻止する。

魔力解放(フルバースト)

 手を落とすとまではいかずとも、火球を放つ方向は変えられた。その隙を突いて夜千夏が大鎌を回すように凪いだ。

 大鎌に自身の体と同様に桃色の光を走らせる。夜千夏は一発では足りないといった表情で、縦横無尽に振り回す。夜千夏が手を止める頃には、既に魔族の姿はなく、あるのはただの肉塊だけだった。

「ああ……最高ね」

 夜千夏は恍惚の表情でそれを見つめる。敵を斬ったときに手に伝わる手応えが、彼女にとっては何よりもたまらない快感となっていた。

 夜千夏は零に向き直る。

「ふふ、あなたも死にかけることってあるのね」

「相性が悪かっただけだ」

 零は目を合わせず、そっぽを向く。夜千夏はそれを見て笑いながら、大鎌を背中に戻した。

「零さんっ!」

 物陰に隠れていたらしく、飛び出してきた六花が抱きついてきた。

「私、心配してたんですよ? 零さんが死んじゃうんじゃないかと思って……」

 泣いているのだろう、嗚咽しながら六花は言葉を紡ぐ。零はどうすればいいかわからず、ただ、頭を撫でた。六花が泣き止むまではこのままでいい、不思議と、そう思っていた。




 六花が落ち着くと、夜千夏が口を開いた。

「とりあえず、臨時都市へ向かうわよ。ここから歩いて数日……私たちが走れば一日かしら」

 夜千夏は体に光を走らせる。六花を軽々と抱き抱えると、零の方を見た。

「そっちの人は零に任せるわ。行くわよ」

 夜千夏が走り出す。零は石井を抱え上げると、一気に走り出す。

 暗闇の中に二つ、光が走っていた。目的地へ向け、休むことなく走っていく。


これで一章は完結です~

次回からは二章に入ります。

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