11話 違和感
何か様子がおかしい。零がそう気づいたのは一昨日だった。再び物資調達を始めてから一週間が経過しているが、特に知らせはない。
怪我をしていた二人の内、石井は回復し、昨日から物資調達に加わっている。しかし、桜井の方は回復が遅く、むしろ症状は悪化しているようにも思える。
臨時都市にたどり着ければ、まともな治療も受けられるはずなのだが、未だに臨時都市からの連絡はない。向こうからの連絡がない限り、こちらは怪我人が回復しないと移動は出来ない。
時間は流れ、すでに一週間が経過しているのだが、連絡を一つも入れないというのは、あまりにも不自然だ。手遅れになる前に、出来る限り早く移動をしたい。
そして、もう一つ、対処するべき問題があった。物資調達をする度に、避難所の周囲で魔物と出くわす回数が増えてきているのだ。魔物を倒すこと自体は大して苦にもならないのだが、この増加は明らかに不自然だ。
この二つを作倉に話したのだが、特に検討をするわけでもなく、簡単にあしらわれてしまった。元市長だったことからも、判断力がないわけではないはずだ。しかし彼は、何かを自分の中で定めているかのように、自分の考えを無理矢理に押し通した。
魔物の数は減らず、何者かが操っているように思える。自分とて、必ずしも魔族に勝てるとは限らないのだから、出来る限り戦闘は避けたい。
今も物資調達の最中なのだが、敵が絶えず現れるために休む暇もない。明らかに異常と思える数に、六花と石井の二人も不安を見せていた。
右から、左から、空から、地面から。まるで敵の中心部に来たかのように、敵からの激しい攻撃が続いていた。それに耐えることが出来ているのは、零が異常に強いだけでなく、武器の性能もあってこそだった。
普通の銃と違い、零の銃は特殊な構造をしている。姿形は銃と何ら変わりはないが、その黒光りする銃身に刻まれた印と、銃から放たれる光弾はその違いを示している。実弾を撃つことは出来ず、中は空洞で、特に仕掛けがあるわけでもない。言わば、銃を型どった鉄の筒なのだ。
銃は刻印を赤く発光させ、その紋章は零の体に繋がるように続いている。四肢末端まで広がった刻印により、零自身の身体能力も飛躍的に上昇しているのだ。
ようやく数が減り始めたことに気づくと、零は二人に退避することを告げる。敵の切れ目を狙って突破口を開き、二人を抱えて一気に駆け抜けた。
数分ほど走ったあたりで敵は見えなくなり、長期戦の疲れもあってか、零は二人を降ろすと自身も座り込んだ。
「あの、さっきの魔物は……」
未だに困惑しているのか、六花は言葉を詰まらせる。石井も同じ疑問を抱いているらしく、こちらに目を向けた。
「魔族が避難所の近くに来ているかもしれない。気付かれた可能性もある」
その言葉に二人は狼狽える。危険が迫っていることに恐怖してしまい、思考がうまくいかない様子に見える。
「なら、俺たちはどうすればいいんだ?」
もはや答えを見つけることすらままならず、石井は零に尋ねる。
「兎に角、最優先で避難所に戻るべきだろう。あれだけの魔物を従えているんだ、相当な魔族がいるだろう」
その言葉を聞いて、二人は頷く。避難所ならば対策の立てようもあるし、どうにかなる。そんな希望を抱きながら向かうが、そこには目を疑うような光景が広がっていた。避難所から見えたのは希望の光ではなく、襲撃に遭い、無惨に壊された希望の残骸だった。