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10話 策略

最近時間の浪費が激しかったです(汗)

反省しなければ……

 臨時都市の話は瞬く間に広まり、避難所内は喜びで満ちていた。一週間としないうちに安全が確保され、昔のように生活が出来るのだから、喜ばない者はいないだろう。

 しかし、その中に一人だけ例外がいた。佐倉である。彼は常に人の上に立っていたため、同じ市民として扱われることが嫌なのだろう。臨時都市に着けば、かつての役職もなければ、指揮を執ることすら出来ない、ただの一般人に成り下がってしまうのだ。上にいることに慣れてしまった佐倉には、下にいることなど受け入れられなかった。

 佐倉は悩む。どうにかして、この地位を保てないものか。臨時都市で指揮を執ることなどは不可能だろうし、かといって、これという方法が浮かぶわけではない。彼が考え出した結論は、いかに頭の悪い人間だろうと、即座に否定できるようなものだった。

 彼は周囲に誰もいないことを確認すると、無線機を手に取り、臨時都市へ通信を入れる。

「こちら避難所。諸事情により移動が遅くなりそうだ。準備が整い次第、こちら側から通信を入れる」

 佐倉は、己の地位を保つために危険な道を選んだ。




「臨時都市側の都合により、当分ははこちらに来れない。怪我人が回復し次第、こちらから向かおうと思う」

 佐倉の発言に皆が驚いた。すぐに助かる、そう思っていた自分達はなんだったのだろうか? 期待を裏切られ、皆は肩を落とす。辺りには陰鬱な空気が漂い、先ほどまでの明るさは何処かへ去ってしまった。

 あまりの眠さにあくびをしていた六花だったが、その言葉を聞いた途端、眠気は消え去った。臨時都市の都合、としか佐倉は言わなかった。もう少し詳しく伝えてくれても良いのではないかと思うが、聞いたところで、自分にはどうしようも出来ないだろう。

 佐倉は、六花と零に再び物資調達に行くように言うと、自室へ戻ってしまった。零は納得のいかない様子で、腕を組んで考え事をしている。

 石井や桜井のことを考えると、こちら側にもうしばらく時間が必要なのは確かだ。六花はそこで思考をやめた。

 零は深く考える。少なくとも、零が佐倉に無線機を渡し、臨時都市と通信したときの様子からだと、向こう側が急に都合が悪くなる、といったことは考えられない。まして、一万人という大規模で、かつ魔族に対抗できる力を持っている。それが真実ならば、そんな急に延期をするような不都合が生じるのは考えづらい。

 臨時都市側で問題があったのか、こちら側に問題があったのか。零は後者のほうに見当をつける。臨時都市と通信をしていたときの佐倉は、なぜか浮かない表情をしていた。何かしらの不都合があるのだろうが、今の零には、その理由だけは見当もつかなかった。

 もし臨時都市側に問題があったとして、こちらと通信をする余裕があったのだから、魔族の襲撃で壊滅的状況、というのはないだろう。遅れたとして、十日とかからないだろう。内部の揉め事ならば厄介なのだが。

 零は佐倉の動向に注意を払うように決め、思考をやめた。

 自室に戻って休憩でもしようかと考えていた零だったが、後ろから六花に呼び止められた。

「零さん、このあと暇ですか?」

「いや、特に用事はないな」

 寝ようと思っていたのだが、それは用事にはならない。何か頼み事でもあるのだろう。そう思っていたが、六花は零の予想とは大きく異なることを言った。

「一緒にご飯、食べませんか?」

 いきなりそんなことを言われ、零は少々困惑する。表情が崩れていたかもしれない。頭の中で整理すると、零はようやく言葉を発した。

「朝食なら、さっき缶詰を食べたが」

 それを聞くと、なぜか六花は肩を落とした。しかし、すぐに表情を戻すと、六花はもう一度口を開く。

「私がご飯を作るので、お昼に私の部屋に来てくださいっ」

 そう言うと、六花は走り去ってしまった。料理を作るといっても、今、この基地にはそんなものはなく、食材も保存が利くものしかなかったはずだ。零はとりあえず、自室に戻ることにした。




 六花は自室に戻ると、すぐに料理の準備を始める。キッチンなどはなく、あるのはベッドと土の壁だけ。どう考えても料理をするには無理がある環境に見えるが、六花は秘密兵器を取り出す。

 倉庫から持ち出した鍋と、その他調理器具。これは石井たちだけで物資調達を行っていたときに見つけたもので、いつか使うかもしれないだろうと考えて持ち帰ったものだ。

 そして食材。倉庫には保存が利くものしかないが、辛うじてパスタがあった。その他に、ツナの缶詰とコーンの缶詰、海苔、水、調味料を持ってきた。倉庫番のおばさんに事情を話すと、快く譲ってくれたのだ。

 石で土台を作ると、内側に木を入れる。鍋を上に乗せて水を入れると、六花は火を点けた。お湯が沸騰するのを待つ間、六花は他の材料を準備する。

「包丁は……無いんだったっけ?」

 諦めて調理を続行する。醤油をベースに調味料を加え、パスタソースを作る。お湯が沸騰したのを確認すると麺を投入し、しばらく待つ。茹で上がった麺をボウルに移すと、そこにツナとコーンを入れ、パスタソースを加えて和える。それを皿に移すと、一センチ四方にした海苔を振りかけた。

「完成!」

 出来上がった和風パスタを眺め、満足そうに頷く。タイミング良くドアがノックされ、六花はドアを開ける。

「来たぞ」

「ちょうど出来たところです。さあ、入ってください」

「ああ」

 零を座らせると、六花は自信満々にパスタを手渡す。零はパスタを受けとり、食べ始める。勢いよく食べ進める零を見て、六花は喜ぶ。

「あの、お味はどうですか?」

 念のため、六花は確認してみる。零は口に入っているパスタを飲み込むと、「なかなかうまい」と言い、再び食べ始めた。六花はその言葉を聞くと嬉しそうに表情を緩め、自分も食べ始めた。久々の暖かい食事に、六花も無心になって食べ進めた。

 美味しさのあまり早食いをしてしまい、パスタはあっという間に無くなってしまった。心地よい満腹感からか、眠くなってしまう。

「なかなかうまかった。また機会があったら頼む」

 零の言葉を聞いて、六花は作ってよかったと思った。自分の料理を食べてもらえたのがとても嬉しかったのだ。寝るにはまだ時間を早いが、六花はいい気分で眠りについた。


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